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卒業後20年ぶりの同窓会で「何かひとこと」に「わが社のクルマ買ってください」は《美談》か否か (エッセイ)

昨晩、高校時代の友人10人ほどでZOOM宴会をして、楽しいひとときを過ごしました。
その内容とはまったく無関係に、想い出したことがありました。

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その高校の学年全体の同期会が最初に開催されたのは、卒業後、ちょうど20年が経った年でした。
38歳になった私たちはホテルの大ホールに集まり、1組から10組までクラスごとにステージに上がり、
「マイクに向かって、ひと言ずつお話しください」
と司会者に言われました。
ほとんどの人は、いわゆる《近況報告》をしました。高校時代のエピソードを織り込む人も少数いました。
仕事の話をする人、趣味について語る人、いろいろでした。
女性の中には、子育てについて話す人もいました。

そんな中、ある男性がマイクを持ちました。
「**です。##自動車に勤めています。今、車が売れていないんです。皆さん、##車買ってください!

《ネタ》で言っているのかな、と思った何人かが笑いました。
しかし、壇上の彼は、もう一度繰り返したのです。
「お願いします。##車買ってください!
そして一礼すると、次の人にマイクを渡しました。

(……どうやら《ネタ》でなく、こいつは真剣マジらしい)

そういえば、その自動車メーカーの社長だか会長が、別の業界のトップと会った時にはどの車に乗っているかを尋ね、他のメーカーだった場合には##車を強く勧め、しかも翌日にはディーラーのセールスがやってきた、というエピソードが新聞に載っていたことを想い出しました。
その記事内容自体は、経営者として《仕事の一環》と理解できる話でした。

しかし、高校の同窓会です。完全にプライベートの場で、しかも、求められた「ひとこと」の中身が実に、自動車のセールスのみだったのです。

彼以降にマイクを持った人のうち、同じ企業に勤める人が6,7人かいました。
彼らはもともとそうするつもりだったのか、あるいは「先陣を切った」男に倣ったのか、ほぼ例外なく、
「##車買ってください」
と言ったのです。
聞いているうちに、次第に気味が悪くなってきました。
ホールを埋めた同窓生も笑わなくなってきました。

ある自動車部品メーカーに勤めている、と自己紹介した人などは、── ##自動車に製品を納めているのでしょう、
「皆さん、##車買ってあげてください
と言わざるを得ませんでした。

その勢いに押されたのか、##自動車とはライバルの自動車メーカーに勤めている人は、ついに社名を出しませんでした(いや、そもそも出す必要なんかないのですが)。

私の横にいた女性が、やはり驚いたようで、
「男の人はみんな、《社会人》になったのねえ」
と言いました。ニュートラルな語調でしたが、あるいは皮肉だったのかもしれません。

私は、
「いや、《社会人》じゃなくて、《組織人》になったんだよ」
と応じました。
「組織の中にあっては、もちろん《組織人》として行動しなくちゃならないけれど、《個》を出せばいいこんなシーンまで《組織人》として行動するってのは、《個》が無いみたいで悲しいね」

でも、一方でこうも思いました。
(もしこの会場を、その会長だか社長だかがどこかで見ていたとしたら、『24時間、どんな時も会社のことを考えているとは、── 感心感心』と思うのかもしれないな)
そして、翌日の昼食タイムに会社の役員食堂では、《美談》として話題になるのかもしれない。

国家も、企業も、《集団主義》の裏側には《美談》印が押してあるのかもしれません。

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