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生態系から切り離された街で生きる私が今、さらに考えていきたいこと 【「狩猟始めました 新しい自然派ハンターの世界へ」(安藤啓一・上田泰正 著)】後編

たとえ私が動物を食べないようになっても、動物由来の製品を使った製品を買わないようになっても、
人間の生活で動物を傷つけてしまうという仕組みから抜け出せる訳では無いことが分かりました。
大切なのは、自然界と関わろうとしない、ということではなく、
適切な距離感と緊張感を保つこと、適切に関わっていくこと、なんだと、
「狩猟始めました 新しい自然派ハンターの世界へ」(安藤啓一・上田泰正 著)を読んで気付かされました。

農業や環境保全で自然と向き合ったとき、ただ自然を見守るのではなく、生態系の当事者として思慮深く関与していく狩猟者の視点は、野生と人間の暮らしの棲み分けや共存というライフスタイルに通じているのだと思う。

「狩猟始めました 新しい自然派ハンターの世界へ」(安藤啓一・上田泰正 著)

下記noteの続きを書いていきます。

野生動物と距離を保つために、彼らが人里を訪れない仕組みを作ることも大切です。
野生動物にとって、食糧となる植物を見つけるのが困難な森の中と比べ、人間が作った田畑は、栄養満点の美味しい食べ物の宝庫。
そして田畑を荒らし、害獣と呼ばれます。
人間が生活を営んでいくためにも、動物と人間の世界を棲み分けする必要があることは、本書で何度も書かれています。

野生動物と人間は、もっとお互いを尊重し合う緊張感系にあった。
それが野生動物や森の自然を畏怖するような思いを見失い、殺して解決するおいう対症療法的な今のやり方は、長くは続かないだろう。
だからこそ、生息状況の詳細を把握し、被害発生の状況も分析する、化学的な評価に基づいた鳥獣害対策が求められている。

「狩猟始めました 新しい自然派ハンターの世界へ」(安藤啓一・上田泰正 著)

里山保全活動をしている自然ガイドの井戸直樹さんは有害鳥獣捕獲に参加することもあるが、
「命を大切にするということでは、使いきれないほどの頭数を駆除することは間違っています。
しかし、被害の現状は、きれい事で済まないほど深刻です。
何が正しいのか自分のなかでも整理できていません」
と、納得はしていない。

「狩猟始めました 新しい自然派ハンターの世界へ」(安藤啓一・上田泰正 著)

そして、私たち人間も生態系の一部であることを自覚すること。
もしかすると、動物を食べないという考えも、生態系の一部であることを半ば忘れてしまっているからこそ発生するものなのかもしれない、と少しだけ思います。(あくまで私個人の意見になります!)
それと同時に、生態系から切り離されたところで生きている私達にできる精一杯の形なのではないかとも、思うのです…。

「狩猟などせずに、家畜を食べればいいという人もいるけれど、それは違うと思います。
農業や家畜をするようになって人間は生態系から切り離されました。
そして大量消費の生活が生物多様性に悪い影響を与えています。
けれども人間だって一種の動物です。
山を継続的に利用していくことや、食べ物に感謝の気持ちを持つことは大切です。
自分の手で仕留めることが、どれだけ大変なことなのか、狩猟を通じてわかりました。
獲物を解体する手間を知っていれば、ありがたく食べるでしょう。
スーパーでパックされた肉を買ってきて、それを食べ残すような食生活を続けていいのか。
自給自足的に山の物を食べるのが狩猟です。
人間が、そういったことからかけ離れた暮らしをするようになって、食の倫理観なども崩れてきました。
こうした今の暮らしは、ほんとうに豊かなのでしょうか」
(中略)
「昔は、生活の場と奥山にもっと距離がありました。
野焼きをしたり苅払いをしたりしていたし、もし熊が集落に近づいてきたら、人間がそれを目撃することができました。
けれども今は、人家のすぐ裏まで奥山の状態になっています。
そして庭の柿の実はなりっぱなしで放置されているから、熊は人里へそれを食べに来ます。
そうではなく、里から1km圏では、もっと森の利活用をすすめて、動物が出てきにくい環境を整備することが必要です」

「狩猟始めました 新しい自然派ハンターの世界へ」(安藤啓一・上田泰正 著)

ところで、害獣として駆除された動物はどうなるのでしょうか。
実は多くがそのまま処分されているそうです。(なんと…)
狩猟者としても、殺すための狩猟は本望ではない、と言い、捕獲した動物を出来るだけ全て利用する活動に熱心に取り組む活動があるようです。

長野県でも県庁が中心となって、信州ジビエとネーミングした鹿肉料理をアピール。
認証制度も始めている。
その他の地域でも、鹿や猪を食べようと熱心だ。
鳥獣害対策で捕獲した大量の動物が焼却や埋設で処分されている。
この問題を少しでも緩和しようと、鹿や猪の利活用を探るなか、補助金で専用の食肉化工場を整備して、野生肉の販売を始めるケースが各地にある。
キャッチコピーは「食べる獣害対策」だ。
農業の6次参業化をすすめる試作とも連動している。

「狩猟始めました 新しい自然派ハンターの世界へ」(安藤啓一・上田泰正 著)

いっそのことスーパーなどで流通させちゃえばいいのでは…
とまた無知な私は思うのですが、そうも行かないのが現状だそうです。
徹底管理された家畜に比べ、野生肉は仕留め方や処理の方法で肉の味や鮮度、臭みなどの調整が難しいそうです。

鳥獣害対策で捕獲された野生動物は、そのほとんどが食肉などに利活用されることはない。
そこで食べて頭数を減らそうという意見が出ている。
精肉として一般流通させようというのだが、食品衛生管理の問題で普及は進んでいない。
(中略)
それに安価で安全な食肉が流通しているので、野生肉を大量に消費するだけの需要は見込めない。

「狩猟始めました 新しい自然派ハンターの世界へ」(安藤啓一・上田泰正 著)

ああ…野生肉がもっと流通してほしい。
いや、それ以前に、人間と野生動物の間に適切な距離を作って、害獣化する野生動物を一頭でも減らしたい…。
そして、そもそものこの、毎日の食を支える流通のシステムを、いつも注意深く見つめていたい、と強くおもいます。
自分が手に取ったこのお肉は、どのように生産され、処理されて、この手元にあるのか。
野菜は、豆は、お菓子は…。
今払うそのお金は、一体どのようなビジネスを、活動を応援していることになるのか、今一度よく考えたい、と強く思います。

完璧な思想なんてない、完璧な方法なんてない、だからこそ試行錯誤して、自分が置かれた環境で、出来る限りのことを精一杯やるしかない。
でも、自分の一度した選択を、疑わずに一心に信じ続ける、というのは面白く無いな、とも思います。
自分の選択肢以外の方法や信条を持って活動する人の意見は、私の選択肢をより広めてくれる、
と同時に、私の選択肢に疑問をもたらしてもくれる、最高のスパイスなのです。


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