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この世の誰もが素敵なあなた 【すてきなあなたに よりぬき集(暮らしの手帖編集部 著)】

社会人になって初めて、見ず知らずの人にこそ絶対に思いやりをもって接しようと思うようになりました。
(それまでの私の道徳観大丈夫そ…)
社会人になってみて、社会ってこんなに厳しくて、
イライラと利益主義が蔓延していて人を思いやる余裕も無いのかとショックを受けました。
(もちろん、これは私から見えている世界なので、厳しい中でも思いやりを忘れない方々がいらっしゃるでしょう、私は未熟です…)
ビジネスの世界には思いやりもクソも無くて、ただ生活をするってだけでこんなに疲弊するものなのかと。
だから、私が消費者の立場であるときは、なるべく誰かのストレスを作り出さないようにありたい、と意識するようになりました。
社会の厳しさを目の当たりにしたことで、
その人が不愉快な態度を取ってくるような人であろうと、好ましい人であろうと、他人に対して思いやりを持って接するということに意味を見出せたのです。

「すてきなあなたに よりぬき集」(暮らしの手帖編集部 著)を読みました。

おそらく私よりも年齢の高い方々が書かれたエッセイ集なのですが、その素敵なことなんのことそんなこと。
ほんとーーーーーーーーーーーーーうに素敵なのです。
人を労わる気持ち、生活を楽しもうという前向きさ、思いやりや、落ち込んだときのささやかなおまじないなど、
日々の中で出会う素敵だと思う出来事へ向かうその感性そのものが、
そもそも素敵なのです。
一瞬の出来事や、決して珍しいことではない出来事からきらめきを見つけて、深く心に刻んで、文章にしたためて。
そして何より、読者に対してその発見やアイディアを「あなたにもお裾分けしますよ」という風に、まるで幸せな秘密をこっそり教えてくれるかのように、共有してくださるような雰囲気が、私の理想すぎて、素敵すぎて一気読みしてしまいました。

例えば、他人の思いやりから学びを得たお話。

著者の方が、みぞれでびしょびしょ、冷え切った体で知人の家にお邪魔した際、
その方はコートを玄関のコート掛けにはかけず、暖房の当たる一番暖かいところにかけてくださったことで、ふっくらと暖かいコートを着て帰ることができた、というお話。

バスに乗っていると、ある駅で降りようとした外国人の青年が「丁寧に運転してくれてありがとう」と運転手にお礼を言っているのを見て、
一対一の親切にはすぐ気が付くが、大勢のためにする見えない心配くばりには、つい気が付かず、
また気がついても、すぐお礼を口に出していうことに慣れていない、という気づきを得た、というお話。

例えば、小さな工夫で日々の暮らしを楽しむお話。

昔、日本でもサマータイム(夏の間、時計を一時間進めることで日の長い季節を有効に使うこと)が導入されていた時、一時間早く起きてすがすがしい朝を楽しんでいた、ということを思い出し、自分だけひそやかにサマータイムを取り入れてみる、というお話。

おしゃれをなんとなく楽しめなくなった、と感じる日には、こんなエピソードを思い出してみる、というお話。

人間、おしゃれを忘れたらおしまいです。
シャネルのお店でのこと。
お客さんの、あるマダムが、
「もう盛りをすぎたわ。死ぬまで着られるような服をつくって」と頼むと、シャネルは、
「年をとった女の人こそ、流行の中にいなくてはだめ…。
女の人は、時代といっしょに年をとってゆくべきで、自分の年齢といっしょに年をとってはいけません」
(中略)
「年をとった女の人なんて、もういないのよ。」

すてきなあなたに よりぬき集(暮らしの手帖編集部 著)

そして最後に、自分の何気ない思いやりが誰かにきちんと届いていた、というお話です。

著者の方が、家政婦の方から言われた言葉です。

「はじめて伺ったときに名前をきかれて、ご家族のみなさんが、私の名をちゃんと呼んで下さいました。
どこのお宅に上っても、たいていおばさん、おばさんと呼ばれますから、名前を呼ばれることがとってもうれしかったのです」

すてきなあなたに よりぬき集(暮らしの手帖編集部 著)

大人になって、すごく思うことがあります。
他人に、いい人も悪い人もいないって思いたい。
いい人も悪い人も本当はいなくて、誰もが素敵な人だけど、もし嫌な人だと感じるのなら、
たまたまその人がその時その月その期間に嫌な人になっている事情があるのであって、元々は素敵な人なんだって、思いたいと。
だから、この本のタイトルである「すてきなあなたに」という、読者の方を「素敵だ」と肯定しているところに惹かれてしまったのです。
私も自分に起きた素敵なことや、人からしてもらった素敵なこと、
人からの思いやりで感じた素敵な気持ちを、
素敵な誰かに、素敵なあなたに、シェア出来る人でありたい、って改めて思いました。
そんな風に思わせてくれる一冊です。

最後に、強烈に心に残った茨木のりこさんの詩を引用して終わりにします。

わたしが 一番きれいだったとき
街々はがらがら崩れていってとんでもないところから
青空なんかが見えたりした

わたしが 一番きれいだったとき
まわりの人達が沢山死んだ
工場で 海で 名もない島で
わたしはお洒落のきっかけを落してしまった

わたしが 一番きれいだったとき
だれもやさしい贈物を捧げてはくれなかった
男たちは挙手の礼しか知らなくて
きれいな眼差だけを残し皆発っていった

わたしが 一番きれいだったとき
わたしの頭はからっぽで
わたしの心はかたくなで
手足ばかりが栗色に光った

わたしが 一番きれいだったとき
わたしの国は戦争で負けた
そんな馬鹿なことって
あるものか
ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた

わたしが 一番きれいだったとき
ラジオからジャズが溢れた
禁煙を破ったときのように
くらくらしながら
わたしは異国の甘い音楽を
むさぼった

わたしが 一番きれいだったとき
わたしはとてもふしあわせ
わたしはとてもとんちんかん
わたしは めっぽうさびしかった

だから決めた できれば長生きすることに
年をとってから凄く美しい絵を描いた
フランスのルオー爺さんのようにね

すてきなあなたに よりぬき集(暮らしの手帖編集部 著)


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