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闇に安息を見出す

昔はよく停電がありました。
停電すると真っ暗でした。
僕は真っ暗になると不思議な安心感を覚えました。
様々な世俗から切り離されて、「寝るしかない」という
安心感でした。

こういったことを感じるのは僕だけではないらしく
作家の梶井基次郎も「闇の絵巻」と言うエッセイの中で
書いています。

「深い闇のなかから遠い小さな光を跳めるほど感傷的なものはないだろう。」
「私の心には新しい決意が生まれて来る。秘やかな情熱が静かに私を満たして来る。」

梶井基次郎「闇の絵巻」

この中で梶井は停電を「爽やかな安息」と表現しています。
そして暗闇に踏み出すことを「絶望への情熱」と言う実に文学的で魅力的な言葉で
いっています。

さて、停電すると「寝るしかない」ので、ろうそくの灯でお風呂に入り、
蚊帳の中に潜り込んだものです。
そう言う時は決まって親父が、戦争の話をしてくれました。

時々「ゴロゴロ」と言う音が地響きとともに聞こえ、ピカッと
光ました。それが、爆弾のようにおそらく親父には映っていたのでしょう。
そうやって僕は親父から戦争体験を受け継いだのです。
そしてそれは僕にとって本格的な夏への風物詩だったのです。


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