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【夢十夜】夢と現実の狭間/ヨルシカ×加藤隆「幻燈展」



ヨルシカ 音楽画集『幻燈』


2023.05.28(日)  ヨルシカ×加藤隆「幻燈展」
滑り込みで観に行けました。



第一夜で始まり、第十夜で終わる構成は、

夏目漱石「夢十夜」を連想させます。



高校の時だったかな…

国語の教材として取り上げられていた、「夢十夜」は
私自身、とても大好きな作品です。

今回は第一夜をメインに、個展の感想も記事にしていきます。


夢十夜




夏目漱石による、短編小説
10この夢をテーマに物語が進みます。

登場人物やテーマ、舞台も異なります。

その中で主人公の言葉を通じて、夏目自身の思想や考察、その人物が反映されています。

テーマは人間関係についてや、社会問題、文学や芸術への思い、
そして夏目自身の心の葛藤になっているかと思います。


夢と現実の境界が曖昧になり、
他人事のような口調で展開される物語は、
「自分の解釈では埋めきれない何か」があるからこそ、
私たち読み手にも考えるきっかけを与えてくれるような作品です。

現実のようで、現実では無い夢の中の物語は、
何を訴えかけているのでしょうか。


※今回は会場でMVの公開があった「第一夜」をメインに触れていきます。


第一夜

「幻燈展」第一夜 作:加藤隆



百年の恋


男の傍で横たわる女は、自分の死を予告する。

そんな女がこう言い残した。
「死んだら、埋めてください。」

そして、
「百年、私の墓の傍に座って待っていてください。きっと逢いに来ますから」

真白な頬に赤い唇、
長い睫毛に包まれた真黒な瞳は、男の姿を鮮やかに映し出していた。

とうてい死にそうには見えないが、

女は死んだ。
男は苔の上に座り、太陽を見ながら百の年を数えた。


女に欺された気もしたが、

石の下から開いた花弁が

真白な百合が鼻の先で骨に徹えるほど匂った時、

思わず、白い花弁に接吻した。

百合から目を離し、遠く空を見ると、

暁の星が1つ輝いていた。


「百年はもう来ていたんだな」

と気がついた。



解説


夏目の文学では、「百合の花」は
愛の象徴 とされていますが、

男はなぜ、百合を見て「百年はもう来ていたんだな」と気づいたのでしょうか。



真白な百合が鼻の先で骨に徹えるほど匂った

匂いは五感であり、本能で捉えるものと言えるでしょう。


また、

男はおもむろにふらふらと歩き、白い花弁に接吻をしています。


こちらも、

本能的に「愛しい」と思った故の行動かと思います。


言葉には出来ない、本能的な部分が現れています。



人では無い姿に彼女を感じ、愛しさを感じた。


学校ではこう教わるでしょう。

百年経って逢い(合い)に来た=百合



しかしながら

百年という月日をどのようにして待ち続けたのでしょうか。



途方もなく遠い、非現実的な月日であって、

現実の世界では起こりえないでしょう。


私は、こう考えます。



男は女の死を受け入れ、帰ってこないと悟る。


百合の花が咲き、しずくが滴る。


男は、女が帰ってこないと分かり、涙を流す。


「百年はもう来ていたんだな」
と、自身の命も尽きて行くことを受け入れる。


貴女にもう一度出逢えるなんて、夢の世界での話だと気づく。



(第一夜が、ハッピーエンドなのかバッドエンドなのか論争は終わりませんね)



作品



こんな夢を見た。





変わらない日常の中に春の風が吹いた。



日向ぼっこをした後に立ち寄った商店街で、

アイスを頬張る貴方を想い出した。





夜に花火を見た。

人混みの中に、貴方を探して名前を呼んだ。




大好きな百合の花を持って、隣町から貴方に会いに向かいます。



また、朝が来た。


大きな雲と目が合った。



心が酷く震えたから、どうしようもなく、外へ飛び出してみた。



百合が鼻の先で骨に徹えるほど香る道を抜けると、



「ずっと待っていました」


と微笑む貴方に出逢えた。







これはすべて、夢の話し。




終わりに



二人は再開出来たのか、


百合の花は女の生まれ変わりなのか、


はたまた、男も死に、再会を諦めたのか。


しかし、


百年後も、彼女を想った気持ちに変わりはないでしょう。


どんな結末であれ、純粋無垢な愛の物語だと。





夢と現実の狭間で、

理解しきれない、曖昧な境界線の上で広がる物語だと感じます。


答えがない問いは、
それぞれの感性や解釈の違いで、結末は変わっていきます。


正解がないから、芸術は楽しいなと感じます。



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