連載小説⑧漂着ちゃん
目の前には、あの時の少女が立っていた。私にとっては再会であるが、この子にとっては初対面だった。しかし、私を見ると微笑んだ。可愛かった。
「では、私はここでお暇させていただきます。あとはお二人でごゆっくり」
「エヴァ、どういう意味だい?この子と私が二人だけ?」
「はい、この町のルールでは、発見者が『漂着ちゃん』の世話係をすることになっています」
「世話とは?」
「『漂着ちゃん』は、現代の言葉を話すことができません。ですから、発見した人がまわりの世話をしたり、言葉を教えることになっているんですよ」
「そんなことを言われても、お互いに言葉が分からなくては、なにも教えられないではないか?」
「私たちもそう思っていたのですが、今までの事例から考えますと、何も問題はないようです。もちろん、最初は戸惑うでしょう。ですが、やはり同じ日本語ですから、ピジンと言うんでしょうか、すぐに理解できるようになります」
「が、しかし、見知らぬ男と女の子が急に同棲するのは…」
私は自分が救った女の子に会えた喜びもあったが、突然のことに逃げ出したい気持ちだった。
「私には無理だ、エヴァ」と言おうとした時、女の子が私の手をとり、ニッコリ笑った。
「あなたに一目惚れしたようですよ。仲良くしてあげてくださいね。あ、そうだ、この子にはまだ名前がないんですよ。あなたが名付け親になってくれませんか?」
「私が?これもこの町のルールですか?」
「ルールというか慣例ですね。まぁ、あまり悩まないで、いま、直感で決めて下さい。
いきなり、名付け親になるとは。「な、なんで、こんなことに」
「な?、なんとおっしゃいましたか?この子の名前は、な、なんですか?」
「ナオミ。ナオミにしましょう。あなたと同じように聖書由来の名前にします」
「あぁ、旧約『ルツ記』の人物ですね」
「特に深い意味はありません」
「でしょうね。ナオミという名前は日本人っぽい名前ですし、外国でも割りとよく聞く名前ですしね」
…つづく
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします