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短編小説~面倒な人だなぁ

(1)

 ひとりで長い時間過ごす。特に用事らしい用事はない。ネットにも飽きた。辺りを見回す。買ったまま積み重ねておいた本が見えた。一番上にのっかっている本は、数日前に購入したものだ。流し読みした覚えがある。どうせなら、いつ買ったのか、なぜ買ったのかさえ忘れてしまった本のほうが、新鮮さを感じることだろう。
 私は山積みになった本の一番下になっていた本を取り出した。
 
タイトル「コケ類の植物」。

 はてな?
 何故私は「コケ類」に興味を持ったのだろう?記憶の糸を手繰ってみる。思い出せない。まぁ、いいか。
 わたしは、かなり前に買ったであろう「コケ類の植物」を読み始めた。読んでいるうちに、きっと何か思い出すことだろう。

(2)

 「コケ類の植物」のページをめくる。一言で「コケ」と言ってもいろいろあるんだなぁ。
 ゼニゴケ、スギゴケ、タチハイゴケ、ギンゴケ、ヒョウタンゴケ、ウィローモス。そういえば英語でコケはモスって言ったなぁ。

A rolling stone gathers no moss.
転石苔むさず。

 「職をコロコロ変える人は成功しない」という本来の意味から「しがらみがなく、常に新鮮である」という肯定的な意味で使われることが多くなった、と何処かで聞いたことがある。そういえば、君が代も最後は「苔のむすまで」だった。関係ないけど。

(3)

 特に有益とも思えないことを、あれこれ考えながら、「コケ類の植物」を読み進めた。残りページもわずかになってきた。とその時「ヒカリゴケ」というワードが目に止まった。
 ヒカリゴケ。たしか、吉見百穴を見に行ったとき、ヒカリゴケが自生していると書いてあった。吉見百穴は、横穴式の古墳群だが、異様なインパクトがあった。そして、もっと驚いたのが、軍需工場としても用いられていたことだった。 

 武田泰淳の小説にも「ヒカリゴケ」という作品があったなぁ。恐ろしい物語。

 そうだった。武田泰淳の「司馬遷」を読んで面白かったから、続けて「ヒカリゴケ」を読んだ。その後に「コケ類の植物」に興味をもったのだった。すっかり忘れていた。我ながら、自分でもよくわからない面倒な人だな、と思った。


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