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短編小説 / ブログでメッセージを伝え合う2人。

 スリーサイズ、源氏名、出勤予定、そして日記。制約があるものの、自分自身の裁量で比較的自由に書けるのは、ブログ日記だけである。
 ブログ日記には、日常のことを綴ってよい。なにを食べたとか、どの温泉に行ったとか。女の子休暇はいついつになりそうですとか、そういった類いのことを書く女の子もいる。
 しかし、わたしは特定の男性に向けて自分の思いを伝えている。もちろん名前を挙げるわけにはいかない。
 逢瀬の時間は短いものの、その間に話した内容から、彼ならば彼自身について語っているんだ、と分かるようなワードを入れて書いている。
 彼もブログをやっていると話していた。予約するときには仮名を使っていて、彼の実名は今も知らないが、逢瀬の時間に彼自身がブログ上の名前を教えてくれたのだ。
 彼は私を信じている。私も彼を信じている。証拠はない。証拠はないが、お互いを信じている。心と体が通う瞬間というものがある。それは、心で感じるものだ。明確な証拠など、たぶん、それは余計というものだ。
 彼のブログを見る。今度の土曜日は、仕事が休みだと書いてあった。この前会ったとき、普段土日は毎週休みだと言っていた。わざわざ普段とかわり映えしないことを書くのは、今度の土曜日に私に会いに来るということだ。
 わたしもブログを更新してみた。次の土曜日の午後の枠が空いていますよと。
 お互いに直接やり取りしないのが、きっといいのだろう。お互いに素性を知ってしまったら、たぶんとても辛くなるだろう。
 たとえ不意に切れる糸だとしても、この今の形が、わたしたちの愛の形に、たぶん最も似合っている。そう思っている… …。

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