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言語学を学ぶ⑩(最終回) | 辞書の話

(1)はじめに

 シリーズ「言語学を学ぶ」。今回は第10回目。今回は最終回です。
 まだたくさん書きたいことはあるのですが、私自身まだ消化できていないことも多いので、いったんここで「シリーズ」は終わりにします。もっと勉強して納得ができたら、新シリーズにしようと思います。


(2)辞書をプレゼントするならば

 これから新しい言語を学習しようとおもったら、まず必要になるのが、文法書と辞書であろう。
 今では電子辞書を使う人も多いだろうが、春先に書店に行くと、平台の上に辞書が並んでいる。学生が自ら辞書を購入することもあるが、入学祝いに辞書を贈る親や祖父母もいるかもしれない。
 例えば「英和辞典」をあなたが子どもにプレゼントしようとするとき、どのように選ぶだろうか?

 「価格」は、もちろん重要な要素ではあるが、「収録語数」も参考にすることだろう。
 仮に同じ価格で、収録語数が50,000語の辞書と、収録語数が80,000語の辞書が2冊並んでいたら、どちらを購入するだろうか?
 孫に贈る辞書なら、少しでも収録されている言葉の数が多いほうを選びたくなるが、それは正しい判断だとは必ずしも言えない。
 どれだけ英語に精通しているかに依るところが大きい。

 収録語数が多い場合、確かに言葉の意味はたくさん載っているのだが、実際にその言葉がどう使われるかを示す例文がほとんど載っていないことも多い。
 それに比べて、収録語数が少ない辞書でも、例文が豊富に載っているものもある。
 英語初級者ならば、収録語数の多い辞書よりも、収録語数が少なくても、例文や説明の詳しい辞書を選んだほうが良いだろう。


(3)辞書のありがたさを知るための文芸作品の紹介

①「解体新書」「蘭学事始」(岩波文庫、講談社学術文庫)

 「解体新書」、そして「蘭学事始」。辞書について考えるならば、ぜひ読んでおきたいところ。
 「解体新書」は「辞書」というより「医学書」ではあるが、とても参考になる。「解体新書」の画期的なところは、今までになかった言葉を作ったところ。
我々も日々、先人の恩恵を受けている。「動脈」「神経」「軟骨」等々は、解体新書由来の言葉である。


②高田宏「言葉の海へ」(新潮文庫)

 国語辞典『言海』の編者である大槻文彦の生涯を描いた評伝である。
 『言海』は、17年の時を経て、明治24年に完成した、我が国初の近代国語辞典てある。
 日本という国家の統一のためには、国語の統一が重要な任務だった。
 ちなみに大槻文彦の祖父は、大槻玄沢である。玄沢は、杉田玄白と前野良沢に学び、二人の名前から一字ずつもらって「玄沢」という名前になったと言われている。


③三浦しをん「舟を編む」(光文社)

 2012年本屋大賞に輝いた作品。映画化もされた。編纂作業の様子を知るために、読んでおきたい。普通に面白い作品です😊。


(4)「辞書学」(lexicography)

 辞書を編むためには、専門知識が必要である。「辞書学」(lexicography、レクシコグラフィ)という学問もある。

 辞書を使う立場から見れば、自分にとって有益なものを使用すればよい。しかし、辞書を「作る」立場から考えると、その辞書をどのような人をターゲットにするかによって、編集方針が異なることもありえる。

 分かりやすい話で言うと、私たちが一般に使っている辞書は、「あいうえお順」(アルファベット順)に言葉が並ぶ。そして、言葉の意味は「使用頻度の高い順」に並んでいることが多い。

いろいろな辞書

①逆ひき辞典もある。

 詩を作る場合、「韻を踏む」ことが大切になる場合もある。「韻を踏む」ならば、言葉の「頭から」あいうえお順になっているより「後ろから」あいうえお順になっていたほうが言葉を見つけやすい。

②意味の変遷

 歴史や文学を研究するならば、現在のその言葉の「使用頻度」よりも、意味の「古い順」に並んでいるほうが分かりやすいということも考えられる。同じ言葉でも「古語」と「現代語」とでは異なるということは、高校の古典の授業でも学んだだろう。

③コンコーダンス

 ある作家、ある文学者に特化した辞書。
 一番有名なのは聖書コンコーダンス。その言葉が聖書のどこで用いられたかを調べるときに役立つ。

 
「村上春樹コンコーダンス」とか、そのうちできるかもしれない。ひょっとしたら、もうすでに作っている人がいるかもしれません。


 

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