短編小説 | そんなん、朝飯前の朝飯じゃん。
(1)
食べるより寝ていたい!、というのは自明の理だ。だが、朝食をぬいた日は決まって調子が悪い。力が出ない、頭が回らない。真逆のことを言う人もいる。朝食をとると、眠くなる頭が回らない。どちらが真実なのだろう?
どちらが真実かは人による、なんてことはない。普通に健康ならば、朝飯は食べないより食べたほうがよい。どうせ抜くならば、本当は夜ご飯をぬいたほうがまだましだ。食べたあとは寝るだけなのだから。
まあ、ちょっと小耳に挟んだ程度だが、実際にドイツでは「カルト・エッセン」(冷たい食事)という言葉があるくらいだ。朝食がディナーで、夕飯には火を通さないで食べられるパンを食べるとか。日本の朝食と夕飯が逆みたいな。でも、朝は忙しくならないんだろうか?
それはさておき、前置きが長くなった。私はずっと朝飯を食べてこなかった。というのは、早起きするのが苦手だからだ。おまけに面倒くさがり屋。朝の忙しい時間に「食べる」時間なんてない。せいぜい、コーヒーを飲むくらい。ちょっと健康に気を配ったときには、ホットミルクを飲んだ一時期があった。
朝御飯なんてたいてい質素なものだと思うが、みんな何を食べてるんだろう?
(2)
私は社会人2年生。やっぱり、朝はなにかと忙しいから、朝食をとっていない。どうしても腹がへったときには、コンビニで菓子パンを買って、適当に食べながら職場へ向かう。
「なんで菓子パンくわえてるの?」
同僚のタカシが聞いた。
「はぁ、腹がへったから。普段は朝、なにも食べないんだけど。タカシ君はなにか食べてきた?」
「俺はいつもおにぎり。梅干し一個あればできるし。茶碗一杯のご飯を盛って、梅干し一個をおかずに食うよりは、おにぎりにしたほうが寂しさがまぎれるというか、ははは。ちょっと豪華な気分を味わいたいときは、インスタントの味噌汁にお湯を注いで飲むこともある。ははは」
こいつ、結構ちゃんと朝飯食ってるんだな。仕事もできるし。朝飯を食べるから仕事ができるのかもしれない。
「ほかのみんなは、朝飯って食べてるの?あんまり聞いたことがないけど」
「確かに。昼飯とか夜になにを食べるかって話はよく聞くけどね。朝はチェーン店とかホテルみたいなところしかやってないし。こんでいたら、待つのも嫌だしね」
朝食のとり方って、意外とその人の人柄が出るものかもしれない。
いろんな人にも聞いてみようか。
(3)
以下に私の「朝食事情調査」を書き並べてみる。
A(男)
「シリアルを食ってる。牛乳をかけて食べていたこともあったが、シナシナよりパリパリの食感がいい。だから、シリアルはシリアルのまま食べて、牛乳は牛乳で飲む、とのこと」
💬欧米か?
B(女)
「食べないときが多い。お腹がすいたときは、ミスドかカフェへ行く」
💬一人で行くさみしい女だ。いや、たくましいと言うべきか?
C(男)
「作るのが面倒だから、納豆と味付けのり。焼きのりじゃないのがポイント。小皿にしょうゆを注ぐのが面倒くさい。お手軽な味付けのりがベター」
💬そこまで面倒なら食わなければいいとも思うが、朝は食べないと力が出ないとのこと。
D(女)
「あたしは、いつもシャケを焼いて食べる。やっぱ、日本人は魚類をおかずにして、ご飯を食べるべきじゃないかしら」
さすが!農家の娘。コメコメ女。
💬「べき」って言われると違う!、といいたくなるが、確かにパンよりはご飯のほうが腹持ちは良さそうだ。
E(男)
「俺は、やっぱり吉牛かな。つゆだくで。ちょっと飽きたら、やっぱりすき家の牛丼かな」
💬でたー。「やっぱり」男。なにがやっぱりなのか、言葉の意味はよくわからないが、とにかくすごいこだわりだ。
朝は絶対、牛丼を食うのかーーー。
こいつ、生まれ変わったら、間違いなくキン肉マンになるな。ちと、古いか😄。
F(女)
「ホテルのビュッフェが多いかな?ううん、そんなにホテルって言っても高くないの。二三千円で好きなもの食べれるのはお安いでしょう」
💬こいつとは金銭感覚が違うな。さすが社長令嬢は言うことが違う。一般庶民にとっちゃ、朝飯に千円かけるのも気がひける。せいぜいワンコインが関の山なんだけどな。
(4)
以上が私の調査結果だ。幅広く調べたわけではない。
しかし、朝食をとる時間は忙しい時間だ。趣味趣向は異なるが、毎日違うものを食べるっていう発想にはなかなかならない。
月曜日は洋食で、火曜日には和食で、なーんて人はいなかった。
朝食とは、おそらく3食の食事の中で、最も固定化しやすいものだろう。一度身に付いた習慣はなかなか変えられない。
そういう意味で、朝食には、最もその人の食に対する哲学があらわになるように思われる。
朝飯とは、朝飯前にビルトインされている、その人の思想が最も顕著にあらわれる。
(1941文字)
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします