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食中毒原因菌を知るための7つの事件

これからの暑い季節、細菌性の食中毒に注意が必要な季節がやってきました。薬剤師の先生だけでなく、養護教諭の先生、教育者の方など、周りに注意を呼びかける機会も多くあると思います。

しかし、食中毒の原因菌といっても様々あり、細菌の名前を使って注意を促してもイメージが湧きにくいという問題があります。

そこで、実際に起きた食中毒の事件を振り返りながら、細菌の特徴を伝えることができたら、素敵だと思いませんか?

今回は、保健所・国立感染症研究所・国立保健医療科学院から過去の事件をピックアップして、紹介したいと思います。


よく事件が起きる食中毒の原因菌7つ

図2

・2019年度に細菌の食中毒で事件を起こした原因菌は、6つ。
①カンピロバクター ②大腸菌(腸管出血性大腸菌・その他の病原性大腸菌) ③ブドウ球菌 ④ウエルシュ菌 ⑤サルモネラ菌 ⑥セレウス菌です。

 2018年度のデータを見ると、この他に
⑦腸炎ビブリオも注意しておきたい細菌になります。(*1)

そこで、この7つの細菌の食中毒のケースを見ていきましょう。

ケース1:サークルの新人歓迎会で猛威を振るったカンピロバクター

ケース1

 とある年の6月末。大学のサークルで新人歓迎会が開催された。新人歓迎会は、複数の学部の学生が参加し、74名が参加していた。料理は、鶏肉の刺身、揚げ物、そば等が振る舞われた。鶏肉の刺身は、沸騰した水で10秒〜20秒間、湯通しを行うなどをして提供された。しばらくして、その会に参加した47名の学生が、腹痛、発熱、下痢、頭痛を訴える集団食中毒事件となった。(*2)

ケース1-1

【原因】カンピロバクターは、動物の消化管に存在しています。肉を加工する際に、消化管が傷つけられて汚染することで、肉に付着します。スーパーで販売される鶏肉の多くが、汚染されているという報告があります。(*3)
 鶏肉の表面についたカンピロバクターは、作業者が触ることで手指に付着したり、その手で調理器具を触ることで調理器具を汚染します。また、湯通し前の処理を行うことで鶏肉の内部に侵入します。
 カンピロバクターによる食中毒事件は例年、群を抜いて多く、生で食べることの関連が疑われます。家庭では、調理の際に、鶏肉を触った手で調理器具を触ることで、カンピロバクターの汚染を広げてしまう恐れがあるので、注意が必要です。


ケース2:バイキングで悪夢を見せた腸管出血性大腸菌0157

ケース2

・2015年6月、バイキング形式がうりの焼肉店に多くの人が足を運んでいた。バイキングのメニューは、食肉類の他にデザートや寿司、サラダ、フルーツなど様々な食材を客が自らの皿に盛り付け、客席で調理する形態となっている。店のホール担当者は、食肉で使用したトングをサラダなどで使用しないように注意したり、トングの置き間違えがあったときは、食材を破棄するなどの役割をしていたが、実際に配置されていたホールスタッフの数は少なかった。店に来店した17名が、下痢、激しい腹痛、血便などの症状を発症。集団食中毒となった。(*4)

ケース2-2

【原因】大きなくくりで大腸菌は、家畜や人の腸内に存在している菌でほとんどは害がありません。しかし、その中には下痢などの症状を引き起こす大腸菌がおり、病原性大腸菌と言われます。十分に加熱をすれば、感染は防げます。汚染された食肉や加工品を飲食することで感染してしまいます。今回は、①汚染された食肉を十分加熱しなかった。②汚染された食肉を取ったトングで、野菜などを取った。③感染して下痢を起こしている調理スタッフの手指消毒が不十分で、食肉を汚染してしまったことが原因ではないかと考えられています。


ケース3:被災地での悲しい食中毒事件を引き起こしたブドウ球菌

ケース3

・2016年4月14日、16日に熊本地震により、熊本市内では最大約11万人が避難した。そこから、半月が過ぎた5月6日のこと。ある避難所では、いつものようにおにぎりが振る舞われた。準備されたおにぎりは、飲食店で調理したおにぎりと、避難所で調理したおにぎりとがあった。おにぎりを食した10名程度が、嘔気、嘔吐、下痢を発症し、数名が救急搬送される事態となった。(*5)

ケース3-1

【原因】ブドウ球菌(黄色ブドウ球菌)は、人の皮膚や鼻腔などに幅広く存在しており、手の傷や手荒れの部分には、より多くのブドウ球菌が繁殖することが知られています。あらゆる食品が原因となりますが、特におにぎり、弁当、サンドイッチなど素手で扱う「手作り食品」で汚染されることが多いです。今回、避難所におにぎりを送った飲食店の衛生管理が徹底されておらず、そこで調理されたおにぎりが原因で、食中毒が起きたと考えられています。


ケース4:楽しいお昼ご飯が一変、身を潜めていたウエルシュ菌

ケース4

・2008年5月27日に市内の飲食店営業者であるA施設は、5つの幼稚園に肉じゃがを配送することになっていた。準備をするため、前日の午後から回転釜で加熱調理した後、食缶3個に小分けして室温で1時間半放冷し、その後製品用冷蔵庫にて保管した。翌朝、回転釜に再び移し、強火で10分程再加熱して、2時間室温で放置し、各幼稚園へ配送された。昼食用として、計604名が肉じゃがを食べた。その日の夕方から早朝にかけて、397名が腹痛と下痢を訴える食中毒事件が発生した。(*6)

ケース4-1

【原因】ウエルシュ菌は、土や水の中、人や動物の腸内など自然界に幅広く生息している細菌です。ウエルシュ菌は酸素が嫌いな細菌で、粘性の高い煮込み料理を大きな鍋(寸胴鍋など)で調理すると酸素濃度が低い鍋底で増殖するため、カレーやスープ、シチューなどの大量調理、汚染された肉や魚を使った煮込み料理が原因であることが多い食中毒の菌です。さらに特徴的なのは、増えると100℃、6時間の加熱にも耐える「芽胞」というものを形成するため、調理中はよくかき混ぜ、鍋底にも空気を送りながら加熱しなければなりません。また、調理後に室温で放置せず、急速放冷など速やかに粗熱を取って冷蔵庫に保存する必要があります。今回は、室温での長時間放冷、適切な調理を怠ったことが原因であったと考えられます。


ケース5:老人ホームの夕食のひとときに牙をむいたサルモネラ菌

ケース 5

・2016年4月10日、いつものように施設では夕食の調理が行われていた。その日の献立は、「盛り合わせサラダ(レタス、トマト、セロリ、ヤングコーン)」、「ごぼうの炒め煮(ごぼう、にんじん、鶏肉)」などの予定だった。この二つのメニューに使われる材料は、同時に冷蔵庫から取り出され、同じテーブルの上に置かれていた。完成したメニューは、51名の入所者に振る舞われ、翌日の早朝から11名に発熱、下痢、嘔吐などの症状を呈することになった。(*7)

ケース 5-1

【原因】サルモネラ菌は、人をはじめ、牛や豚、鶏などの家畜の腸内、河川・下水など広く生息しています。ネズミ、ハエ、ゴキブリだけでなく、犬、猫、カメなどのペットも保菌しています。食肉、卵、調理者の手を介して汚染された食品で食中毒が起きやすいと言われています。今回は、鶏肉を生食をするサラダと近づけて管理されたこと、そして調理者が鶏肉を触った後、手洗いが十分でない状態でサラダの調理を行ったことが原因ではないかと考えられています。


ケース6:保育園のもちつき大会での悲劇を生んだセレウス菌

ケース6

・2001年12月1日、九州の保育園のもちつき大会で441名もの人が集まりまった。
そこでは、小豆をゆでてつくった「あんこもち」が振る舞われることとなっていた。小豆はグツグツとゆでたあと、常温で長時間冷まして、あんこもちをつくりやすいように準備されていた。
 園児たちは、振る舞われたあんこもちを食べ進めたが、30〜60分後に、嘔吐し始めることに。総勢344名もの人が嘔吐の症状を示す集団食中毒事件となってしまった。(*8)

ケース6-1

【原因】このセレウス菌は、環境中に幅広く存在しており、オムライスやおにぎり、チャーハンなど「穀物類及びその加工品」による食中毒が多い菌で、特に夏季に多い食中毒の菌です。60度より高温か、5度以下の環境でなければ、増殖するため、今回のケースは冬季ですが、常温で長時間冷ましたことがセレウス菌の増殖の原因になってしまったと、考えられます。


ケース7:人気の百貨店催事場を台無しにした腸炎ビブリオ菌

ケース7

・1998年9月20日、百貨店では催し物が開催されていた。特産物や簡単な加熱調理をした食品を販売しており、賑わいを見せていた。その中で、酢飯の上にかにフレーク、かに棒、蒸しウニ、いくら、中華ワカメ、桜大根をのせた海産物弁当が販売されていた。多くの客が購入し、帰路についた。翌日、その弁当を摂食した1003名のうち、742名に下痢、腹痛、発熱、吐き気の症状が現れ、人気だった催事場が台無しになる事件となった。

ケース7-1

【原因】腸炎ビブリオは、海水や海産の「魚介類」などに生息しており、塩分を好む細菌で、増殖スピードが早いのが特徴です。寒さに弱く、4℃以下ではほとんど増殖しません。海産の「生鮮魚魚介類」やその加工品、調理者の手や調理器具を介して二次汚染された食品で食中毒の事件が起きています。今回は、簡易な催事場の店舗で危険度の高い弁当や惣菜等の食品を大量に調理する環境下で、腸炎ビブリオの除去や二次汚染対策が完全ではなかったことや、お弁当を持ち帰って食べるまでの間にその腸炎ビブリオが増殖したことが考えられます。


おわりに

いかがだったでしょうか?
それぞれのケースは、部分部分を切り取って掲載しているため、全容を知りたい方は、是非とも引用元の保健所・国立感染症研究所・国立保健医療科学院のサイトにアクセスしてみてください!

今回の記事が、地域に貢献するための一助になれば幸いです。


(*1 )厚生労働省 食中毒統計(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html)
*2)東京都福祉保健局 鶏肉の刺身によるカンピロバクター食中毒(https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/foods_archives/foodborne/operators/operators_03/index.html)
*3)厚生労働省 カンピロバクター食中毒予防について(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000126281.html)
*4)国立感染症研究所 焼肉店における腸管出血性大腸菌O157集団食中毒事例(https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2344-iasr/related-articles/related-articles-435/6475-435r03.html)
*5)国立保健医療科学院 避難所におけるおにぎりが原因となった黄色ブドウ球菌食中毒事例(https://h-crisis.niph.go.jp/?p=103459)
*6)国立感染症研究所 感染症疫学センター 「肉じゃが」を原因としたウェルシュ菌による食中毒事例ー新潟市(http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3424.html)
*7)国立感染研究所 老人ホームで発生したSalmonella Nagoyaを原因とする食中毒事例についてー千葉市(http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3424.html)
*8)横浜市 セレウス菌による食中毒について(https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kenko-iryo/eiken/kansen-center/shikkan/sa/cereus1.html)

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