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はるか奥様のストーリー③

「俺、精神年齢がぐっと下がってるかもしんないわ、今」
相合傘をして、腕を組んでいるだけで、自然と動悸が早まっていく。
「どうしてですか?」
「……こういうことすんの、久々だからかね」
すると、微笑んだはるかさんが、組んだ腕に身を寄せてきた。
頭髪から、シトラスのシャンプーの香りがする。
「良かった。私たち、どう見えてますかね……他の人から」
「ええ? お、おう、なんだ……夫婦、ではないよな、たぶん」
口に出してから、妻以外の女性、それも美女と遊んでいる現実を意識する。
「男前な年上の男性にエスコートされるの、いいものですね」
「マジ? へ、へへへ……」
雨が降り注いだ傍らの公園の地面から、土の匂いがする。
はるかさんの香水と体臭が混ざった香りが、鼻をついてくる。
半袖のシャツの二の腕に伝わる感触は柔らか。
夢見心地とは、全くこのことだ。
「はるかさん、色気がすごいね……」
「そう? ありがとうございまーす。あはははっ、うれしー」
はしゃいだように、笑い声がして、こちらを見上げた眼の端が、うっすらと赤らんでいる。
もう、今すぐはるかさんにむしゃぶりついてしまいたい気分を抑えてー。
しばらく、変なテンションで雑談をしているとー。
「このへん、ですかね?」
「お、おお! そうそう、あそこあそこ!」
ホテルの前についていた。
紫色のネオンが、鈍色のアスファルトに反射している。
どうも、はるかさんの方ばかり見ていたせいで、気づかなかった。
(くうう~楽しいわ~!)
うきうきしながら、部屋のキーを受け取った。

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