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詩「ノリタンゲレの腓骨」

「ノリタンゲレの腓骨」
黒実 音子


カリブの海底には
朱い腓骨(フィブラリア)が数多く眠る。

腓骨(とめがね)と呼ばれる
その岩の様な猛毒の肉塊(ミリアゾア)は、
フジツボの如く
中央に巨大な穿孔を穿つ。

この肉の中でも、
とびきり巨大なものは、
その闇が
不潔な病(テナシバクラム)、
乾いた悲惨、
打ちひしがれた辺獄(リンボ)へと続き、
地上の必滅性を肯定し続ける。

しかし、
それは制御できぬ深淵の
海流の様なもので、
その浸出液(リシヴィアード)の頭上には
キリストの[地上の栄光]が
世界に放射され続けているのだ。

一方で、
その辺獄(リンボ)の洞に住む
珊瑚の骨の泥血の中を蠢く巨大な蛆・・
古いラテン語を纏い、
病理により膿んだ皮膚から血を流す・・

CARO ET NON SPIRITUS
ああ、それは肉であって霊ではない。
ABSURDITAS ET NON REASON
ああ、それは悲惨であって理ではない。
それこそが
汚泥に潜む混沌(ラハブ)。
無慈悲に命を刈り取る蛇だ。

生きる者達は、秩序を求め、
この不条理な海流を嫌悪し、
逃げ惑う。
しかし
ここでは
[死の不知はこれを許さず]
最早、看過されぬ。

ああ、
死が確実に訪れると
わかっていながら、
わざわざ誕生してしまったが故に、
既知の結末にまで
向かわされる謎めいた旅路。

死よ。
なぜ原初から
我々は死んではいなかったのか?
お前が万物の心臓(カルディア)を
確実に仕留めるというのなら!!

ああ、時間という御遺体(アスファウナ)・・
そして、その
活動的な腐敗(デカミィエント・アクティーヴォ)・・

経過という概念を
除外するのなら、
開始と結論は
たった1枚の葬儀証明書よりも薄い。

赤子は
生まれた時にこう叫ぶのだ。

「棺桶を予約しておいてくれ。
俺の予定調和の寝室を!!」

未来の時間から眺めれば、
我々は出生証明書(アクト・ド・ニッソンス)と
死亡診断書(コンスタ・ド・ディセ)を
描く為に地上に立ち寄った
点に過ぎない。

ああ、
カリブの海底の
朱い腓骨は知っている。

魂の留金(フィブラリア)は脆く、
地上から外れる事を。

岸に向かう鰯の群れの様に・・
貝割り師(エカィエ)に殺される為に
オリーブ板に乗せられる
静脈(コンク)の様に・・

それでも肉に包まれた臓物が、
朽ちて海の泡に混ざったこの世界で、
この巨大な海綿生物は
海の底から
神の栄光を照らし続けるのだ。




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