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「キリストと線虫Ⅲ」
黒実 音子


キリストは土中で眠る・・
条理を食む牛と、
維持の腐敗を貪る蛆と
チェスをしながら・・

条理を食む牛は、
肉質(サルクス)として存在してしまった
悲劇を嘆き、
形を持ってしまった
悲劇を悔やむ。
そして言う。
「神ともあろうものがなぜ?」

キリストは言う。
「稚拙で浅薄なものであれ、
起こさない事には思考が出来ぬ。
在すのは滅する為。
そして割と壮大なものというのは
単純で誤っているのだ。
誤りの中にしか正解は存在しないし、
万能な永遠とは下らないものだ」


維持の腐敗を貪る蛆は呟く。
「腐敗は帰郷(ボルベール)・・」

キリストは笑う。
「そうだ!!帰郷だ!!
分解とは旅。
壮大な拡張と崩壊の星座表(ボルベル)こそ
滞留からの解放だね」


条理を食む牛は言う。
「有害藻類(アルガレス・ノシバス)達を作った事を
後悔していないと?」


その言葉を聞き、
キリストは微笑んだ。
「[痛み]も必要なのだ。
同じ意味で悲劇も存在してしまう。
ただ、そこに深い意味などなく、
必須な元素という話でしかないのだが、
形を持った者は肉(カルネ)の業が強過ぎて、
それを見る事は出来ない」


維持の腐敗を貪る蛆の
後方気門(エスピラクロス・ポステリオレス)から突然、
壊れたスピーカーの様な
怒鳴り声が聞こえる。
「いやいや!!
そのお蔭様で、
こちらは大盛況でして・・!!」


キリストは表情を変えず伝える。
「下衆だな。
まぁ、大した問題では無いし、
お前達も必要なものだ。
よくやってくれている事には感謝している。
もう少し高みに来てくれてもいいよ。
飽きるのなら・・」


蛆の尻から割れた声は続く。
「いやいや旦那。
高い所は、
我ら源泉には若干寒いものでして。
湿度も熱量も足りないのでね」


そこで声は戯けたかの様に
突然低い厳粛な声になる。
「それに・・
高いものは低いものによって
支えられている」


キリストは再び微笑む。
「その通りだな。
まぁ、気長に行こうよ。
導くものがまだ残っている。
お前達の無邪気な女王によろしく」


蛆から声はもう聞こえず、
ただひり出された糞には
[赤子の馬]とラテン語で描かれている。

条理を食む牛は嘆いて
悲痛な声をあげる。
「俗的な戯れを・・」

キリストは言う。
「在す事は俗的な事だね。
それは肥溜の下から
天を見上げるという事だから。
でもねぇ、君、
棺桶に入れられ、
生きたまま生き埋めにされる者は・・」


その時、キリストは
条理を食む牛が、
ただの牛になっている事に気づく。
「また逃げたな。
あいつめ。
まぁ、ここは退屈ではあるからなぁ」

キリストは一人呟く。
何秭回とそうしてきた様に・・。

「我々はあらゆる時間と場所に存在し、
同時に進行し、
チェスをしながら、
罪に涙する・・か。
しかし、棺桶に入れられ、
生きたまま生き埋めにされる者は、
そこで絶望するが、
ちゃんと死が訪れるじゃないか。
よく作ってるだろう?
その亡骸に怯える者はいるし、
亡骸が脂下がる事もあるが、
それとて永遠の前では頭を垂れるのだ」

そう言うと、キリストは微笑む。
「腐敗は帰郷(ボルベール)・・?
確かにそうだ。
まさしく言い得て妙だ。
だが・・」


キリストは土中で眠る・・

ああ、
低き地を這う線虫達に囲まれ、
あらゆる事を理解した上で・・
誰も肩代わり出来ぬ
十字架上の苦しみを内在しながら・・

それはイテ・ミサ・エストの後に
内密に行われる
神と墓場の虫のチェスであり、
滑稽な希望(コメディア・スペイ)なのだ。




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