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「カルネ・レヴァーレの黒いナメクジ」という詩の解説

大きな動物が森の中で倒れ、
死骸になると、
そこで腐敗が始まり、
その下敷きになった土壌は
腐汁富栄養化により、
草木が枯れるなど、
何年にも渡って変化が起こります。

それを生物学では、
îlot de décomposition de cadavre (フランス語)
と言います。

ちなみに、英語で書くと
cadaver decomposition island
となり、
その頭文字で
[CDI]
と言うのですが、
今回の
「カルネ・レヴァーレの黒いナメクジ」
は、その[CDI]
腐肉に集る虫達の饗宴を
カーニバル(カルネ・レヴァーレ)
に例えた作品です。

さらに
[カーニバル]には、
[肉を断つ]
という意味がありますが、
この詩の中で[肉]とは、
キリスト教の[霊的な肉(サルクス)]
として表現されているので、
それを前提として読んでいただけると、
この作品には
【肉を持つ事の苦しみ】
つまり
【受肉の痛み】
が描かれている事がわかると思います。

[受肉]=[地上での肉体を持つ事]
なので、
[受肉の痛み]

[歪な病の苦しみ]
でもあります
(肉体が無ければ病もないので、
とは、
苦しみの象徴になる訳です)

しかし、
カーニバル(肉を断つ断食の祭り)
を以てしても
肉を断つ事は出来ず、
我々は肉に執着し、
[肉質的な痛み]
に苦しみ続ける訳です。

あと、余談ですが、
詩の中にある
「肉の中に
異質な蟹が入り込む・・」

という表現は、
腫瘍の事を
ラテン語カンセル(蟹)と言う事からの
詩的表現です。

これは、
古代ギリシア由来で、
医師ヒポクラテス
観察した腫瘍
「蟹の様だ」
と記した事が
始まりだと言われていますね。



アリオン・アテル・三部作
「カルネ・レヴァーレの黒いナメクジ」
黒実 音子

ああ、
カルネ・レヴァーレ!!
カルネ・レヴァーレ!!
肉(サルクス)の中に
異質な蟹が入り込む苦痛。
渋面の翁(カッサンドロ)の面の上を這う
黒い蛞蝓(アリオン・アテル)。

巨大な魚は、陸地に打ち上げられ、
のた打ち回り、やがて息絶え、
そこに、かの
死体肥の領域を作り出す。

ああ!!
イスラ・デ・デスコンポシシオン・カダベリカの神殿・・
排他的な
悪臭と死髪と蠅共の王国・・

死の体液と混ざり合った砂は、
もう元には戻らず、
異質な暗いカーニバルが
やって来るのだ。

悍ましい黒いナメクジ達が集まり、
死の溶け込んだ肥沃な土壌の
枯れた草木や、
蠅達の卵や、
蠕虫(ヴェルミス)共の唾液を卑しく舐め取る。
やあやあ!!
死肉漁りの甲虫や、
おこぼれに肖る蜂達もやって来る。

その仄暗い墓地から、
かつて存在したキリストのパンを
得ようとしても無駄な事だよ。
それは地獄では
遺残(のこりび)と呼ばれ、
学者達には疎外と呼ばれる。
すなわち破壊された硝子は
元には戻らない。
それこそが
聖性を失った地上の痛みだから。

ああ、
カルネ・レヴァーレ!!
カルネ・レヴァーレ!!
死骨と病理のパレードだ!!
顎瘤の中の
硫黄顆粒から流れるレチタティーヴォ・・
死んだ牛の舌に住む
放線菌のサンクトゥス・・
黒ナメクジが割れ、
その死体から湧き出る
線虫(ファズマラブディティス)達の饗宴・・

おお、全ては
腐肉のラテン語から起こった夢であり、
混沌とした地上の葬儀だ。

「ああ、主よ!!
カピタン・カルメロは死にました。
彼の臓物を
蟹が喰らってしまって・・」

ああ、
カルネ・レヴァーレ!!
カルネ・レヴァーレ!!
肉(サルクス)の中に
異質な蟹が入り込む苦痛。
渋面の翁(カッサンドロ)の面の上を這う
黒い蛞蝓(アリオン・アテル)。

魔女が涙を流し、笑う
棺桶の中の悲喜劇(トラジ・コメディ)・・

肉を断てない・・
地上の悲しみ・・




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