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ドラマ「透明なゆりかご」を見た。

Netflixのおすすめに挙がってきていたので、見始めたら止まらなくなっていた。多少ネタバレありますので、ご視聴がまだの方はご遠慮ください。

産婦人科を舞台に様々な「生と死」が交錯する世界を一例、一例、具体的なケースにあてはめ、ややもすれば忘れ去られがちな「小さな命」をていねいに描いている。押しつけがましい社会問題提起型ドラマというより、一人一人の妊娠やそれらを巡るバックグラウンドをしっかりと描くことによって、視聴者自らが考えを巡らすようなしかけになっているところもよい。

主人公清原果耶演じる青田アオイは、看護師見習いである産婦人科でアルバイトをすることになる。その産婦人科を舞台に人工妊娠中絶、未受診妊婦、男性不妊に悩むカップル、産後の母体死亡、未成年者への性暴力、胎児の異常など様々なケースに直面し、彼女の眼を通して、私たち視聴者はその産婦人科内での出来事を目の当たりにする。

先輩看護師の水川あさみ演じる望月紗也子が非常にうまい。彼女自身もこのドラマの中で妊娠を経験していくのだが、妊娠すると今までのように働けなくなる葛藤や悩みが非常にリアリティを持って描かれている。

院長先生は瀬戸康史演じる由比明寛。この人物像はどこか少しぶっきらぼうに見えるが内に秘めた情熱が熱い医師だ。患者にとことん寄り添う姿勢は見ていて惚れ惚れするし、医師としての意見と、一般男性の意見をきちんと分けて言語化できる能力も持ち合わせている。アオイのよき理解者でもある。

アオイ自身も母子家庭の母との関係に少し悩んでいる様子だ。回を重ねるに連れ、それがアオイの持つ、注意欠陥性多動障害ADHDだとわかり、それでも彼女は「人の気持ちがわからない」と、自分を責める場面が非常に強く刺さる。一つのことに夢中になると他のことに気がいかない彼女の特性も上手に表現されている。

毎回涙なしでは見ることが出来なかった。毎回オイオイ泣きながら見ていた。私自身も子宮内膜症や流産を経験し、不妊治療も行ったし、幸い子供にも恵まれたが、この手のドラマは自身の経験と重ね合わせて感情移入するパターンが多いかと思うが、今回はもっと心の奥深いところに訴えかけてくるものがあったように思う。

アオイの純粋で疑ったり、人を偏見で見ないフラットな視線がそうさせるのかもしれない。また清原果耶の演技が素晴らしい。この時はまだ10代かと思われるが、喜怒哀楽はもちろん、納得がいかない表情や慌ててしまうちょっと情けない仕草も実にうまい。もちろんそれぞれの涙に色などないとはわかっているものの、彼女の涙を流すシーンは他の誰よりも透明感があり、神々しくさえある。ドラマの抒情的な世界観というか、「正解か不正解かはこの際重要ではなく、どう感じるのかが重要だ」というメッセージが強く感じられる作品になっていると感じた。

声高に「これは社会問題だー!もっと議論が必要だー!」と大きな声でものをいう人もきっとこの世界には必要だろう。でも決して登場人物達はそのようなことをしない。一人一人が今ここにある「小さな命のかけら」に真摯に向かって導き出す、あるいは選択せざるを得ない状況を必死に生きている。

淡々とそのような事例を見ていくうちに、「生とは?死とは?」あるいは神様が実在するのだとしたら神はなんと気まぐれで残酷なことをするのだろうと思ってしまう。

原作は漫画だというので是非とも原作も読んでみたいと思う。

Netflixのアルゴリズムにはほとほとやられてしまっている今日この頃だ。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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