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Take-28:映画『BLUE GIANT(2023)』は面白かったのか?──観るか観ないかで人生が変わるかもしれない作品──

【キャッチコピー】
『二度とないこの瞬間を、全力で鳴らせ』
『青く光るほど熱く吹く』

【作品の舞台】
日本、東京

 原作では主人公、宮本大の高校生活、そしてジャズとの出会いから描かれており、舞台は仙台からスタートしますが、映画版は上京するところから始まってます。詳しくは本文にて。

【タイトルの意味】

 タイトルの「BLUE」とはもちろん「ブルーノート」からでしょうね。

「ブルーノート」はジャズやブルースで用いられる音階で、通常、半音程度音程 を下げるもの。ミ・ソ・シのピッチが微妙に上がりきらず(半音以下の範囲で)下がることで哀愁を帯びたメロディラインの音のこと。
 一見ピッチの外れたメロディと言えるかもしれません。だけど「音痴」という感じはしなくて、むしろそれが独特な哀愁を生んでいる。この「上がりきらないピッチのために憂いを帯びた音」のことを、ブルーノート(Blue Note)といいます。メジャースケールの中でこのブルーノートが発生するとされているのはこのミの音の他にはシの音、それからソの音があります。

Sound Quest

【上映時間】120分
U-NEXT、Netflix、Amazonプライム、Hulu、他にて配信中

劇場版アニメ『BLUE GIANT』のポスター
映画.com

 皆様よき映画ライフをお過ごしでしょうか?
 N市の野良猫、ペイザンヌでございます。
 配信にも落ちてきて観られた方も増えてきてるようなので本日はこちら『BLUE GIANT』を取り上げてみました。

 ボクは公開時に劇場で観ましたが、これが、なんとも……(以下、後述)

 石塚真一さんによる原作漫画『BLUE GIANT』は個人的におそらくここ十年ほどの中で最も面白かった漫画であります。これを読むと読まないでその後の人生が劇的に変化するのではないかと本気で思ってるほどです。

 読むのを、また観るのを躊躇してる人がいるとすれば、おそらく自分は音楽をやってないからあまり興味が沸かない……とか、ジャズはあまり好きでないから……とかそんなところなんじゃないでしょうかね。X(旧Twitter)でも時折そんな言葉を見かけます。

 かくいうボクも読む前はその二つを見事クリアしてたわけなので気持ちはとてもわかります。そんな自分でも「もっと早くこの漫画に出会いたかった……」なんて思っちゃいましたからね。やはりもっと若い人におすすめしたいという気持ちが強いですね。
 
 なのでこの劇場版アニメから入るのも全然アリだと思います。

映画『BLUE GIANT』のワンシーン
映画.com

 どうしてこれほどこの作品に惹きつけられるのかつらつら考えてると、誰もが最初は初心者である──という「入口の肯定」。まずこれでしょう。

 これは音楽に対してまったくの初心者であり主人公、宮本大に影響を受けてドラムを始めた玉田俊二 (演奏:石若駿さん)を通じて描かれておりますね。 

 三人の中では最も身近な存在に思える人も多いのではないでしょうかね。何をするにも躊躇し、どこか変に冷めてしまってる人や、つい周りに流されてしまう人などを鼓舞することでしょう。

 漫画よりも劇場版アニメの方がこの玉田の存在が一際光ってたようにも思えました。

 誰もがいつ、何を「始めよう」と思ったって一向に構わない。「始めるのが遅い」なんてことはない──そんなメッセージを背負ってるように思えます。

映画『BLUE GIANT』のワンシーン、ドラム担当玉田俊二
映画.com

 そして生まれ持った才能──また、人より秀でたものを持った時や、経験を積んできたベテランにも起こりがちな「慢心、おごりに対する警告」。

 こちらはピアノの沢辺雪祈 (演奏:上原ひろみさん)によって描かれてますね。

映画『BLUE GIANT』のワンシーン、ピアノ担当の沢辺雪祈
映画.com

 そして何と言ってもその狭間にいる主人公、サックスの宮本大(演奏:馬場智章さん)が「売れるための分析、客を呼ぶためのデータ」──そんなものではなく「なぜやるのか?」「好きだから、熱いから」と直感に従いながら進んでいく姿は観てる側を最後まで引っ張ってゆく力強さがあります。

映画『BLUE GIANT』のワンシーン、サックス担当の宮本大
映画.com

 その中で観客や読者は「今の自分ははたしてどの状況なのか?」と考え、どの状況であっても共感を持つことができる作りになっている。新人が観ても社長が観ても、天才が読んでも凡人が読んでも同じように共感できるキャラとエピソードが含まれてます。

 映画版は高校生活をすっとばしていきなり上京からスタートするので原作読んでる派だとなんとなく第二部、もしくはパート2を観てる感覚もしますが──映画版は漫画では“聴く”ことができない実際の「生の音」や音楽と融合させたいと思うのは当然でしょうから、これはもう仕方がない。初見組には少し不親切であるものの、むしろ劇場版アニメとしては英断だと思ってます。

 まあボクの場合は原作を部分部分忘れかけてる個所もあったので幸か不幸か「あのシーンがないやんけ!やり直し」なんて気持ちにもならなかったわけでw

 そんなわけで、まあストーリーの大筋はわかってるわけですが十分、いや五分に一回くらいあるグッと胸に刺さる台詞や熱いシーンがくるともう……
 (´;ω;`)

 劇中、ジャズの聖地である「ソーブルー」の支配人にトリオでは一番のベテランであるピアノの雪折が「問題は君だ。キミの演奏は面白くない」とズバッと言われる場面はやはり何とも言えぬ気持になりますやね。

映画『BLUE GIANT』のワンシーン
映画.com

 まあ泣ける映画が全て本当に良い映画だとは思わない方ですが、にしても開始三十分あたりからラスト近くまでずっと目の周りが湿ってたというか、もういちいち拭うのも面倒くさくなってきてずっと垂れ流してた感じになっちゃったな──とw

 これまで結構多くの映画を観てきたつもりですが劇場でこれほど「長時間」涙出てたのはこれが初めてなんですよね。記録ですね。まさかアニメで……とは予想もしてませんでした。ストーリーもさながら、やはりそこに被さった音楽のパワーがあったから通常の倍、震えた──それも大きかったと思ってますけどね。

 以前にも『ニュー・シネマ・パラダイス(1988)』や『レナードの朝(1990)』などで最後にだぁ~っと食らってしまい、明るくなっても恥ずかしくて立てなかったことなどはありますが「嗚咽」?──あの「ひっく……ひっく」ってなるやつ?──これが出たのも初めてでしたね。
 思わずというか自分でも驚いたというか、隣の席の人もびっくりしたんちゃうかなw
「咳き込んでる」振りしてごまかしてたけどバレバレだったろうな……


 原作の方では第二部ヨーロッパ編の
BLUE GIANT SUPREME
そして第三部となるアメリカ・西海岸シアトル編の
BLUE GIANT EXPLORER
 こちらが終了し、現在はジャズの聖地ニューヨークを舞台にした
BLUE GIANT MOMENTUM
に突入してますが、映画版の続編ははたしてあるや否や?

 そして先日行われた日本アカデミー賞では上原ひろみさんが最優秀音楽賞に選ばれましたね。おめでとうございます!

 では、また次回に!


 


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