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たまねぎスプラッシュ

2024.07.22
ぺぎんの日記#108
「たまねぎスプラッシュ」


今年も、たまねぎスプラッシュの季節がやってきた。

ジリジリと乾燥した日が何日も続くと、玉ねぎ農家さんはスプリンクラーを使って畑に水を撒くようになる。

単に玉ねぎの栽培に水が多く必要なのか、それとも細かい土が風で飛んでいってしまうのを防ぐためなのか。理由は定かではないが、とにかく雨が降らない暑い日が続くと、玉ねぎ畑にはスプリンクラーで水が撒かれる。

広大な畑にポツンポツンと設置されたスプリンクラーは、ゆっくりと回転しながら「シャンシャンシャン」と音をたてて水を飛ばす。

電気制御ではなく水の力を使ってスプリンクラーは回っているのだと、前に誰かが教えてくれた。地上5mくらいの高さに弧を描いて飛んでいる水を見る限り、相当な水圧がかかっているはずである。それをコントロールして絶妙にゆっくり回っているのだから、実は見かけによらず繊細な調整がされているんじゃないかと、ちょっと感動する。

そんな玉ねぎのスプリンクラー。玉ねぎにとってはもちろん、夏に灼熱の太陽の下を登下校する私にとっても有り難い存在なのである。

スプリンクラーはあまりにパワーが強いものだから、水のアーチが時たま道路まではみ出ていることがある。少しずつ回ってくる水のアーチの先端が道路の端に到達し、水をバシャバシャと道路に落として、また畑の方に帰っていく。玉ねぎスプリンクラーが作動しているときに道路の端に水たまりができていたら、つまりそういうことなのである。

で、それの何が有り難いのかって?
決まっているじゃないか。浴びるのだよ、その水を。

例えば休日の部活が12:00で終わりましたよ、なんていうとき。私は13:00頃の鋭い日差しを浴びながら、爆チャリをして帰らなければならない。10km超えのコンクリート・ロード。しかもここ数日は雨が降っていないから空気はカラッカラに乾いているときている。

そんなとき、正面にあのスプリンクラーと水たまりが見えたら!?
そこに飛び込みたいと思わない人は、果たしているだろうか(反語)。

ヘロヘロになりながら自転車を漕ぐ。前方に玉ねぎスプリンクラーを発見。しかもよく見ると、その中の1つが道路にはみ出している!
部活も終わり、あとは家に帰るだけ。濡れたって別に問題はない。

ゆっくりと接近しながら、スプリンクラーの回転周期を見極める。スプリンクラーが回ってくるタイミングと、私が水たまりに到達するタイミングを揃える。スプリンクラーから放たれた水が、水の壁のようになってバシャバシャと落ちながら前方から迫ってくる。今!

バシャシャシャシャやっほーい!

地上5mから落下してきた結構圧のある水に、頭から打たれる。
微妙に生臭く、衛生的とは言い難い水だけど、このアトラクション感がたまらない。

ちなみに、タイミングを掴みそこねて、何も浴びれずに通過してしまうこともある。がしかし、わざわざ戻るのもの馬鹿らしいので、そういうときは諦めて、また家に向かって漕ぎ始めることにしている。
この遊びをしすぎて、最近ではかなりのスピードで突入してもタイミングを逃さなくなってきた。

太陽の光が上手いこと差し込むと、スプリンクラーのアーチの下に虹がかかることもある。水を浴びるほどの暑さじゃないときも、水がキラキラ宙を舞い、虹が出ていると少し嬉しい気持ちになる。

玉ねぎ畑が道路のすぐ脇にある通学路に感謝をしたい。

あぁでも嬉しいことばかりでもない。
玉ねぎスプラッシュにも2種類あって、1つが前述の「水飛ばしスプリンクラー」。で、もう1つが「農薬トラクター」である。
農薬トラクターに関しては、なかなか厄介な存在である。

トラクターの後ろに大きなタンクが積んであって、その中に大量の農薬が入っている。そのタンクからトラクターの左右にヤジロベーのように伸ばしたパイプに農薬を通し、散布しているのだが、まぁこの農薬がよく飛散する。

風の強い日はむしろいい。風の弱い日。風向きが悪ければ、トラクターが撒いた農薬が風に乗ってフワフワと道路の方にやってくる。風がさほど強くないせいで農薬は広がらずにそのままとどまり、自転車で走ってきた私を餌食にする。

ウェッ…。

プールの塩素を何倍にも濃くして、そこに酒を少量混ぜたような匂い。絶対吸い込んだら身体に悪いよねって匂いがする。呼吸をできるだけ抑えながら、その農薬区間を脱出する。

農薬を使わないといけないのは分かるけど、やっぱり何度くらっても、あの匂いは結構来るものがある笑。

玉ねぎスプラッシュ。
楽しいスプラッシュも、ちょっと嫌なスプラッシュも、最終的にはどこか「夏の風物詩」として求めている自分がいる。

玉ねぎ畑のすぐ脇を自転車で登下校する生活。
この夏も、北海道クオリティだなーって思う。


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