令和の彼女は幽霊と目が合った

先日の夜、同僚男子と、事務女子と、新入社員女子の4人で会社に残り、どうでもいいような話をしていた。

どれくらいどうでもいいような話をしていたかと言えば、小学校の上靴は週一でちゃんと持って帰って洗っていたかどうかとか、蛇口の下にみかん袋に入れられてぶら下がっている石鹸が、冬場はカチコチに乾燥して、どこかのスーパーのパートのおばちゃんのカカトみたいになるよね、とかっていう位のどうでもいい話だ。

今年、新入社員は、2人入った。そのうち1人の帰りが遅いから、ちょっと待ちがてら無駄話をしていたわけである。あー、暇だ。

あんこ「電気消していい?」

事務女子「え、なんでですか、怖いじゃないですか」

あんこ「怖いくらいがちょうどいいやん。スリルが欲しい。あと、新入社員女子Aを驚かしたい。」

新入社員女子B「いいですね!やりましょう!」

4人の大人がいるのに、電気全消しの状態で新入社員Aを待つ。

しばらくすると、入り口で物音がしたから、全員机の下に隠れた。

事務女子と新入社員女子Bは、机の下に別々にうずくまる。

同僚男子は社長室から顔半分だけ覗かせる。

僕は机の下に横向きに横たわった。まるで涅槃像のように。

新入社員A「あー怖い怖い早く帰ろ帰ろ」

新入社員Aが事務所に駆け上がって来て、小さな電気を付け、そそくさと書類をまとめ、帰る準備をしている。

僕は涅槃像のまま、事務所の椅子をゆっくり左右に移動させる。



すー



 すー




Aは、えっ?という顔をした。そして、ゆっくりと書類から椅子へ視線を平行移動させる。まるでパントマイマーみたいに。

椅子は止まる。そして彼女は、気のせいかなァ、という顔をした。

そして、椅子を見つめているうちに、Aは、机の下に横たわった涅槃像と目が合うのだ。

そしてAは、茹ですぎた素麺みたいに芯のない声で、

「ぁぁあ、わぁ~ゆ、ゆゆうれいだぁ~~」

と、とても短い現場実況をして、ふわりとその場にしゃがみ込んだ。まるで牡丹が散るみたいに。

あんこ「もうバレちゃったかぁ。。」

僕は机の下から這い出した。涅槃解除。

新入社員女子A「あわああをあわあわあわあわあああ」

新入社員女子Aは、冬の鯉が空を見つめるようにボーッとして、あわあわあ言っている。

新入社員Bが、ちょうど彼女のいる机の下にいた。Bは、机の上に自分の首だけゆっくりと出した。ちなみに彼女はおかっぱヘアーである。

A「もう、あんこさん!んもう!びっくりしたあ!もう!やめてくださいよあんこさぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

僕への抗議の最中に、突然机の上に現れたおかっぱ生首に、Aは絶叫し、飛び上がった。古池や蛙飛び込む、である。

それに耐えきれず、笑いながら事務女子が別の机の下からぬるりと現れた。

Aはふんきゃあっ!!!と言い、

「めっちゃ遅かったやんどうしたん?」と、社長室から現れた同僚男子に「ひっく!」と言い、

もう、色々なタイプの驚き方を魅せて下さいました。

ドッキリ大成功(๑˙ϖ˙๑ )•*¨*•.¸¸☆*・゚

A「あわあわあ、んもうちょっともう、ほんとに怖かった!腰が生まれて初めて抜けました!やばかった!」

あんこ「俺、どんなふうに見えた?」

A「なんかこう、ついに幽霊と目が合ってしまったと思いました。目と口だけ見えました。怖かったァァ、クソォゥやられたぁ!悔しいぃ!」

あんこ「あれって腰抜けたの?」

A「いやあ、ほんとに、ほんとに怖い時は、ああいう力の抜け方するんだなって思いました。」

あんこ「へぇ、さて、じゃあおつかれ、俺ら先にかえ」

A「いやいやいやいやいやいやいやいや無理無理無理無理無理無理無理無理です無理無理無理です」

Aは僕の腕を必死に掴み、首を左右に何度も振ります。温泉掘削工事の重機みたいに。

しばらく彼女の仕事を見守りながら、Aの、「絶対あんこさん他3名絶対仕返しするんで、絶対ほんと覚えてて下さいよまじで、くそぅ!」という愚痴を聴いた。

あんこ「さっき、あわあわあゆゆゆうれいだあ~ってむちゃくちゃ脱力しながら言ってたよね。令和の世に、ゆうれいだぁ、ってシンプルな驚き方ある?」

一同笑い。

新入社員女子A「めちゃめちゃ怖かったんですからね!普通そうなりますよ!ホンットにもう!」

あんこ「そっか、じゃあ、俺らそろそ」

Aはまた僕の腕を掴み、温泉を掘る。

その後、彼女の仕事が終わると、僕達は6人で事務所の階段を降り、そして家路につきました。



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