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パワハラ死した僕が教師に転生したら 12.労働者の近すぎる距離

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 教師の7回目の社会の授業。
 教壇に立ち、生徒の全員に穏やかに微笑みかける教師。
 大きな瞳をしばらく閉じて静かに息をした後、教師がゆっくりと話し始める。
 
「今日の授業では、集団と階層の中にある、人間の悪意や暴力性を解き放つ三つ目の要因、労働者の距離の問題について話します。そう、労働者達は、互いに物理的に近い距離の中で過ごし、心理的な距離も近づけるよう圧力をかけられるのです」と教師が言う。
 
「・・・・・この教室も同じかもしれません。狭い教室に何十人もの生徒と教師が押し込まれ、生徒どうしも、生徒と教師も、仲良くなること、心理的な距離を近づけることを求められるのです」
「・・・・・人間には適度な距離感が必要ではないかと」と黒縁眼鏡の奥から強い瞳で教師を睨みつける文香。
「ははははは、大丈夫です、もう僕は教壇という檻から出ようとはしませんから」
「・・・・・一層、この授業、体育館とかでやったらどうですか?教壇よりステージの方が上から生徒を見下ろせますし、私達は体育館の端っこで聞きますので」
「うー、それなら・・・・・宇宙ステーションとかからネット配信でどう?・・・・・すごい上から、すごい距離感」と優太が笑いながら言う。
「・・・・・ふむ、それは良いかも・・・・・宇宙から青い地球を眺めて行う授業・・・・・そこでは、より俯瞰的に人類を見つめる視座が持てる・・・・・いや、人類の誰もが幸福でありますように、優しくなれますようにと、祈る気持ちになれそうです」
「・・・・・全人類に対して上からだな」と冬司が疲れて濁ったような瞳を細めて言う。
「お前に祈られたくはない」と颯太が冷たい口調で言う。
「うー・・・・・この人に上から祈られると地球がヤバイことになりそう」と眉間にしわを寄せる優太。
 
「・・・・・大した嫌われようです・・・・・まあ、しょうがないか・・・・・それでは始めます。まず、集団と階層の中では、労働者の多くは、ある場所に集められて仕事をします。商品やサービスの製造や提供をするための設備や場所が必要なビジネスでは、それを直接に担う労働者は、集まらざるを得ません。車を作る会社であれば車を組み立てる機械のある工場に、ファミレスであれば店舗に、集まって仕事をします。
 また、そうでない労働者、自宅でもできるような仕事をする労働者も、大抵は、机が並んだオフィスに集められます。それは、労働者を集め、直接に向き合わせることで、コミュニケーションがスムーズに、正確に、効率良く行えるからです。上の階層から下の階層への指揮や命令も、迅速に、リアルタイムで互いの反応を見ながら行えますし、不明な点はその場で質問できます。チームで仕事をする場合も、意見の交換やアイデアの共有を即時に行えますし、対面での議論により思わぬアイデアが出ることもあります。
 また、オフィスに労働者を集めれば、下の階層への管理も容易になります。怠けていないかどうかを、その場でリアルタイムで確認できるからです。
 それから、労働者を集めることで、労働者に一体感を持たせることができます。集団があり自分はその中の一員である、みんなの中の一人であることを個々の労働者に自覚させるのです。これにより、みんなの目標を団結して達成しようという意識や、みんなに迷惑を掛けてはいけないという意識を労働者に持たせるのです。
 そして、集まって一緒に仕事をすれば、労働者間の心理的な距離も近づきます。これにより、信頼や助け合いが生まれ、仕事の効率も上がりますし、労働者の一体感も更に高まります」
 
 青白い額に左手を当て、一呼吸置いてから、授業を続ける教師。
 
「そして、集められた労働者の間の物理的な距離は近い。閉じられた空間の中で、互いに近距離で過ごすのです。それは、距離が近い方が命令や管理を行いやすく、一体感も生まれやすいからです。また、広い工場やオフィスにはお金がかかり、会社の利益が減るためでもあります。
 さらに、集団と階層の中では、労働者の間の心理的距離を近づけるための行事、社員旅行、運動会、スポーツ大会、ゴルフ大会、お花見、夏祭り、バーベキュー、社内パーティ、忘年会、新年会が開かれます。多くはお酒が伴います。行事への参加を強制する会社も多く、スポーツやお酒が苦手な人は嫌々ながら参加するのです。行事で年に10回以上も土日が潰れる会社もあります。
 こういった行事の目的は、先ほどと同じく、労働者に一体感を持たせることです。集団の一員であることを自覚させ、集団の目標やルールに従った行動をすべきであり、それに背いてはならないという意識を植え付けるのです。そして、このような意識を植え付けられた労働者の集団に対し、集団の目標やルール、価値観を、最上位の階層から下の階層に向かって流し込むことで、個々の労働者を思い通りに動かすのです。そのために、とにかく労働者を集めて、仲良く何かを一緒にさせるのです」
 
「さらに、上司と部下や、同僚どうしでのお酒の飲み会も行われます。お酒には心理的な抑制や緊張が解く薬理的な作用があり、お酒を飲むと本当に思っていることを話す人もいます。そこで、上司と部下、あるいは同僚が、このお酒の作用を利用して、心理的に近づこうとするのです。
 今ではこういう飲み会も随分減りましたが、みなさんのおじいさん世代の方が現役の労働者だった頃は、毎日、上司が部下を連れて、遅くまでお酒を飲み歩いていた。それで部下は上司と酒を飲んで溜まった鬱憤を晴らすために帰宅後にさらに酒を飲むという、毎日が、酒、酒、酒の、酒まみれの日々だったのです」
 
「先生は、お酒が、お嫌い、なのかなぁ?」と愛鐘が薄い桃色のふんわりとした頬を右手で撫でながら楽しそうに訊く。
「いや、僕はお酒を飲むと、とても困ったことになるのです」
「うーん、すごく弱そう、かなぁ?」と言い、大きな瞳で優しく微笑む愛鐘。
「・・・・・いや、違うのです。僕は、普通の人間とは色々と違っていて・・・・・」
「・・・・・それは十分に知っていますが」と文香が肩をすくめて言う。
「・・・・・いや、そういう意味ではなく・・・・・転生した人間は、転生後の人生に一定の制約が課されます。僕は、この制約を、転生するために受け入れなければならない条件、転生条件と呼んでいます。そして、神様からはいくつか転生条件を伺っていました。例えば、現世において、前世の僕の記憶に残っている人と会おうとすると強烈な頭痛で気を失うとか、そのような人と偶然に会ってしまうと、現世の僕の記憶からそのことが消去される、といったことです・・・・・ただ、どうやら、神様から伺っていない転生条件がいくつかあるようなのです」
「うー・・・・・転生条件?・・・・・神様?・・・・・この人、また大ウソ言ってる?」とニヤニヤする優太。
「それで・・・・・その中のひとつだと思うのですが・・・・・お酒を飲むと、未来の誰かの記憶・・・・・それは、おそらく未来の時代に転生した来世か、あるいは来来世の僕・・・・・その記憶が頭の中になだれ込んでくるのです」
「・・・・・また始めやがった」と文香が眉をひそめ、ため息交じりに小声で言う。
「その時代は・・・・・AIとロボ軍団の時代なのです」
「ロボ軍団!?」と丸い瞳をキラキラ輝かせる優太と、人差し指を口の前に立てて優太の瞳を覗き込む教師。
「・・・・・そう、冷たく無機質な鉄と鋼の超高層の摩天楼が鈍い輝きを放って乱立し、ロボ軍団が闊歩するその時代、人類は、摩天楼の谷間の光が差し込まない小さな空地や荒廃した地下トンネルの中で、鼠のように暮らしていたのです。それは、人類が自ら考え、判断し、責任を負うことを放棄し、多くをAIに委ねた結果、AIがロボ軍団を使って人類を支配することになってしまった、ディストピアの時代なのです。人類はAIとロボ軍団に幾度も戦いを挑みますが、敗北を繰り返し、多くの人が亡くなり、誰も彼もがすっかり戦意喪失していた、そんな時代なのです。
 けれども、どんな時代にも、弾圧に対して反逆する人間はいるものです。その時代にも、過酷な環境の中で、廃材をかき集めて新しい兵器を開発したり、人体を強化するための技術を研究したり、人類をAIからの解放のための戦いに導くべく各地を啓蒙して回ったりしている地下組織があった。来世の僕は、その組織の一員だったのです」
 
「そして、来世の僕の記憶には、途中から、目に映るものが含まれていません・・・・・それは、僕が啓蒙活動の途中でロボ軍団に捕獲され、見せしめのために、目を潰されるから・・・・・なのです。組織の人間によると、僕の両方のまぶたから頬にかけては、縦に照射されたレーザーの痕があったそうです。しかし、来世の僕は視力を失って何年かの後、突然に、未来が視えるようになります。僕は、現実の視力と引き換えに、未来を視る、未来を予知する能力を得たのです。予言者は、いつの時代にも迫害から生まれるものです。そして、来世の僕には、人類がAIとロボ軍団に勝利する未来がはっきりと視えた。僕は各地を巡り、深い絶望の最中にある群衆に向かって、『3年後の春、肉体を強化された5人の戦士が現れる。彼らに導かれ、人類は圧倒的な勝利を収める。そして、果てしない幸福と自由の時代が人類に来る、僕には、その時代がはっきりと視える』と予言を説いたのです」
 
 両手を教卓において目を瞑り、深呼吸をした後、話を続ける教師。
 
「・・・・・もちろん、未来を予知できるなんて大嘘で、ハッタリです。転生者にもそういう能力はない。でも、予言というきっかけでもなければ、絶望し切った人類は立ち上がれない。そう考えて、来世の僕は、組織の人間とともに盲目となった自分を予言者として神格化させる芝居を打ち、各地で予言を、すなわち嘘を、重ねていったのです。来世の僕は、予言者がこの世に生れ落ちる理由を良く理解していたのです。
 そして、3年後の春、僕の予言通りに5人の戦士が現れます。彼らの戦闘力は圧倒的だった。僕は群衆に向かって左手を掲げ、潰された目を見開き、『今、予言の戦士が、確かに、現れた・・・・・今、人類の戦う時が、確かに、来た・・・・・人類よ・・・・・戦え、戦え、極限まで戦え!』と叫びます。そして、人類は再び立ち上がり、AIとロボ軍団に全面戦争を挑みます。熾烈で、長年に渡る、泥沼の戦いの末、人類はようやく勝利を掴み取ります。しかし、この戦いで、人類はその半数を失ってしまうのです。
 そして、勝利の喜びもつかの間、人類は我に返ります。多くの同胞を、夫や妻、子供や親を失った深い悲しみの中で、人類はこの戦争の意義を問い始めます。そして、AIに隷従し何の自由もなく鼠のように生きていくしかないとしても、こんな結末よりましだったと、誰もがこの戦争を後悔するようになったのです。
 人類は、このやり切れない想いを、地下組織の人間、そして、その象徴であった予言者である僕にぶつけるようになります。そして、僕が偽りの予言者であることを組織の人間が証言し、僕は人類の半数を死に導いた罪人として、群衆に吊るし上げられ、何日も投石を浴び、骨を砕かれ、血を流し続けるのです」
 
 凍てついたかのような面持ちで、話を続ける教師。
 
「最後は、全身を拘束され、何人かの男に、おそらく超高層の摩天楼の屋上と思われる場所に運ばれます。そこでは、風が僕の全身の傷口を撫で、空気が遠くからうなる音が聞こえ、建物の微妙な揺れが感じられた。そして僕は、横にされたまましばらく体を引きずられ、『二度と生まれて来るな』という誰かの言葉とともに、突然、空中に放り出される・・・・・強烈な風が顔を叩きつけ、その音が耳を切り裂き、肉がちぎれそうな恐ろしい強い圧力が全身にかかる・・・・・もうすぐ割れるはずの頭蓋を下に向けて、僕は確実に落下している・・・・・何秒かの時間がとても長く感じられ、地上の群衆が僕を罵っている声が確実に近づいてくる・・・・・そして迫り来るのは・・・・・うああああああああーっ」
 
「パラノ野郎!ストップ!ストップ!ここ教室!」と教師の絶叫に負けない大声を出す鳥居。
「あはははは、お酒を飲まなくても、同じじゃないかなぁ」と愛鐘が笑いながら言う。
「・・・・・中二病のすえた臭いがする」と呆れかえった表情の文香が言う。
「普通のパラノイアだな、幼児番組の見すぎだ」と颯太が冷たい口調で言う。
「最後のグチャって飛び散るとこまでやれよ、ゾクゾクの手前で止めんな」と頬を赤らめた冬司が残念そうに言う。
「そんで、ロボ軍団ってどんなの?」と瞳をキラキラさせて聞く優太。
「・・・・・まあ、そんなのだったのです。適当に想像しといてください」とどうでも良さそうに言う教師。
「うー・・・・・そういう態度だから来世でもいじめられる」と教師を指さし、ムッとした顔で優太が言う。
「だから、いじめと迫害は違うのです。迫害とは、社会を変革しようと思った人間が宿命的に受ける試練なのです」と教師がまくし立てる。
 
「・・・・・壮大に脱線してしまいました・・・・・何の話だったっけ・・・・・ええと、飲み会の話でしたね。そう、どうしてこうも一緒に酒を飲みたがるのか・・・・・飲んで気持ちよくなること、それからおしゃべり、会社や仕事に対する愚痴の言い合い。これらも楽しいのかもしれませんが、僕は、近距離にいる相手の内心、相手の考えていることが分からないために生じる不安や緊張に耐えられない人が多いからだとも思います。それで、お酒という自白剤を飲んで互いに腹を割ろう、と考えるのです。もちろん、お酒を飲んでも、内心を絶対に晒さない人もいて、その人は偽りの内心を演じているだけなのですが、その演技を見るだけでも、不安や緊張が緩和されるのです。別に相手の内心が分からなくてもいいじゃないか、と思うのですが・・・・・」
 
「それで、こういった行事や飲み会もあり、労働者は互いに、物理的にも、心理的にも、近距離に置かれるのです。そして、労働者間の距離が近いことが、悪意や暴力の行使を助長する原因となることがあるのです。
 まず、物理的な距離の近さは、肉体的な暴力の行使を可能とします。物理的な距離が遠ければ、電話やメール、ラインでの言葉の暴力は行使できますが、殴ったり、何かを投げつけたりはできないのです。
 また、狭い場所に同じ顔ぶれが毎日押し込められると、ある時、その中の誰かに対して感じた怒りや苛立ちがなかなか鎮まりません。その誰かと何日か会わなければ鎮まるであろう怒りや苛立ちが、毎日、近距離で一緒に過ごすことで、収まらなくなるのです。これが悪意や暴力につながることがあります。
 そして、心理的距離の近さは、相手に対する警戒心を低下させ、気安さを生むが故に、傲慢さ、甘え、相手に何かを押し付けても良いという意識、そして、これらを相手が受け入れてくれるだろうという意識を生み出すことがあります。そうなると、相手に対して悪意や暴力を行使しやすくなるのです。
 あいつとは何でも言い合える仲だから、と思っていれば、暴言を吐いたり、無理を飲ませることにも抵抗がなくなってしまうのです。
 一方、相手に対する適度な心理的距離があれば、そうはできない。相手をある程度、尊重せざるを得ない。相手の心に土足で踏み込むような真似はしづらくなるのです」
 
「・・・・・アトムは例外だな・・・・・」と冬司がゴツゴツした指で顎を撫でながらボソッと言う。
「うー・・・・・視える、来世でも人の心に土足で踏み込んでいるのが、私には視える」と左手をパーにして、目を閉じた優太が宣告的に言う。
「いや、最近はみなさんの方が僕の心に土足で入ってくるのではないでしょうか?まあ、心理的な距離が近づいたということでしょうが、スリッパに履き替えるぐらいはして欲しいものです」
「・・・・・俺のリーゼント、なに見てんすか?」と眉間にしわを寄せて鳥居が言う。
「・・・・・いや、そういうモフっとしたスリッパ作ったら売れるかなと思っただけです」と教師が答える。
「・・・・・人の心に土足で踏み込んでくるの、マジで止めてもらえますか。これは俺の心なの・・・・・もうこれ何ハラ?」とそっぽを向いた鳥居が唇を噛みしめて言う。
 
「ははは、さあ?・・・・・それで、現代では、ネットでビデオ会議も簡単にできますから、商品やサービスの製造や提供をする設備や場所が必要なビジネスでなければ、オフィスに集まらなくても、仕事はできます。自宅で仕事をし、必要に応じて電話、メール、チャット、ウェブ会議でコミュニケーションし、どうしても対面での打合せが必要な時にだけオフィスに行くという、テレワークでもビジネスは十分に成り立つのです。
 そしてテレワークは、労働者の間に、物理的にも心理的にも距離を作るため、パワハラを抑止する効果があるのです。また、毎日何時間も費やしていた通勤もなくなるのです。
 ですが、テレワークはなかなか普及しません。労働者の中に、耐えられない人がいるのです。理由は幾つもあります。
 まず、テレワークでは、リアルタイムで労働者の仕事振りを確認できないため、労働者の評価は仕事の成果のみで行うこととなります。仕事の成果のみで評価されることはおかしくないのですが、この冷徹さに耐えられない労働者もいるのです。そういう人は、一生懸命仕事に打ち込んでいるという態度や、遅くまでオフィスに残って働いていたというプロセスで評価されたいのです。
 また、テレワークでは、労働者は、自分の仕事の遂行を、そして、そのための体調や精神状態を、自ら管理する必要があります。これも当然のことなのですが、ところがオフィスに集まらなくて良いとなると、途端にこの自己管理が出来なくなる人がいるのです。仕事を怠けて昼まで寝ていたり、朝から酒を飲んでしまうのです。
 それから、テレワークは、労働者を孤独にさせます。自宅で一人で働くのですから、独身の人であれば、今日は一日中誰とも話さなかったということも起きます。それで、この孤独に耐えられない人もいるのです」
 
「うー・・・・・それはツライ・・・・・俺、一人は無理」と優太がぽつりと言う。
 
「・・・・・まあ、そうですけど、でも、孤独の解消を会社に求めるのもどうかと思いますが。会社に依存しすぎで、自立出来ていない、それでは会社に支配されてしまうような・・・・・まあ、それで、このような孤独に耐えられない人達は、満員電車に長い時間乗ってでもオフィスに来て、そこで向き合って仕事をし、一体感を味わい、集団から管理されることを望むのです」
 
「シマウマの本質だな。群れていないと自分を保てない」と颯太が虚ろな瞳でつぶやく。
 
「・・・・・それから、メールやチャットでの文章だけのコミュニケーションにシビアさを感じる人や、自宅に小さなお子さんがいて仕事に集中できないといった人も、テレワークを嫌がるのです。
 そして、大抵の社長や上の方の階層も、テレワークには否定的です。彼らは一体感が強い方が労働者を上手く動かせる、仕事の成果も上がると思っているし、労働者を近くに並べて、怠けている者がいないかチェックしたいのです。
 僕は、テレワークは、集団とそれに属する個々の労働者の距離感を適度に保つ、素晴らしい働き方だと考えているのですが、こういう事情もあって、なかなか普及しないのです」
 
「・・・・・この授業もテレワークで良いのではないですか?その距離感を適度に保つというのが、とても同感なのです」と文香が言う。
「うー・・・・・まぁ」と優太が言う。
「テキストだけでも構わない」と颯太が淡々と言う。
「・・・・・まあ、ゾクゾクするヤツなら読んどくが」と冬司が言う。
「僕は別に構いません。他の先生がどう言うかはわかりませんが・・・・・」
「私は、ちょっと、寂しい、かなぁ・・・・・」と愛鐘が包み込むような笑顔で言う。
「俺は困る・・・・・家で大声出すとママが怒る・・・・・大声出して発散できるのが、この授業の良いところなの」と鳥居がすねたおっさんのような表情で言う。

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