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『関節位置覚』を考える~水泳を例に~

▼ 文献情報 と 抄録和訳

水泳トレーニングの負荷が肩回旋可動域、肩関節位置感覚および小胸筋長に及ぼす短期的影響について

Higson E, Herrington L, Butler C, Horsley I. The short-term effect of swimming training load on shoulder rotational range of motion, shoulder joint position sense and pectoralis minor length. Shoulder Elbow. 2018 Oct;10(4):285-291.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed(Full text), Google Scholar

✅ 注目
最後に、”関節位置覚”をテーマとした文献をまとめて紹介しているので確認してみて下さい!

[背景]
肩の痛みや怪我は、エリート競泳選手が直面する最も一般的な問題であり、トレーニングを休んだり変更したりする最も頻繁な理由でもあります。文献によると、反復性の高い上肢の負荷は、肩関節内の不適切な適応を引き起こすとされている。最も起こりやすい不適応は、肩関節回転可動域の変化、関節位置感覚の低下、小胸筋長の短縮である。これは実験的な研究ではまだ確認されていない。本研究の目的は、水泳トレーニングの負荷が内旋・外旋の可動域、関節の位置感覚、小胸筋長に及ぼす短期的な影響を調べることである。

[方法]
英国水泳ワールドクラスプログラムでトレーニングを行っている16名のエリートスイマーが参加した。典型的な2時間の水泳セッションの前後に、内旋・外旋の可動域、関節の位置感覚のエラースコア、小胸筋の長さを測定した。

[結果]
水泳トレーニング後、肩の外旋可動域と小胸筋長は有意に減少し(それぞれ-3.4°、p = <0.001、-0.7cm、p = <0.001)、関節の位置感覚の誤差は有意に増加した(誤差角度+2.0°、p = <0.001)。内旋可動域は有意な変化を示さなかった(-0.6, p = 0.53)。

[考察]
本研究では、エリートレベルの水泳トレーニングは、肩のパフォーマンスに短期的な不適応な変化をもたらし、潜在的に怪我の原因となりうることを明らかにした。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

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✅私の感覚的な話になるが、関節位置覚の低下は理学療法の中で見落とされやすい一方で、疼痛や機能障害の重要な一要因になっていると感じている。クロールのように反復して肩を大きな可動範囲で動かせば、それは関節位置覚も短期的に低下するだろうと思うが、その辺をどうしても(私自身が)甘く考えてしまうという反省がある。今一度、術後や感覚障害の方だけでなく、スポーツ障害においても関節位置覚に対する重要性を考える必要があるだろう(話がかなり飛躍した)。

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ここから、”関節位置覚”をテーマとした研究をいくつか紹介する。

Linらは、回旋筋腱板と肩甲骨の筋肉に着目した運動のみでは、肩関節の位置感覚を改善しないと述べている。

Lin YL, Karduna A. Exercises focusing on rotator cuff and scapular muscles do not improve shoulder joint position sense in healthy subjects. Hum Mov Sci. 2016 Oct;49:248-57.

また、同じくLinらは肩関節の位置感覚の誤りは、主に上腕骨の関節から生じるとも述べている。

Lin YL, Karduna A. Errors in Shoulder Joint Position Sense Mainly Come from the Glenohumeral Joint. J Appl Biomech. 2017 Feb;33(1):32-38.

関節位置覚の測定の信頼性に関するシステマティックレビューも存在する。

Ager AL, Roy JS, Roos M, Belley AF, Cools A, Hébert LJ. Shoulder proprioception: How is it measured and is it reliable? A systematic review. J Hand Ther. 2017 Apr-Jun;30(2):221-231.

脳卒中肩亜脱臼症例では、キネシオテープによる関節位置覚の向上を示した研究がある。

Santos GL, Souza MB, Desloovere K, Russo TL. Elastic Tape Improved Shoulder Joint Position Sense in Chronic Hemiparetic Subjects: A Randomized Sham-Controlled Crossover Study. PLoS One. 2017 Jan 18;12(1):e0170368.

今のところ、「関節位置覚の向上に確実に効果がある介入はこれだ!」といったものはないと思う。だからこそ、学び、よりよい治療を提供したい。

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医療従事者と研究活動における道徳感についても記事にしていますので良かったら読んで頂けると嬉しいです。

最後まで読んで頂きありがとうございます。今日も一歩ずつ、進んでいきましょう。

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