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ディープな "note"

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とことん考えて書かれた記事を集めていますが、もちろん自分では書けません。(汗)
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中沢新一著『芸術人類学』を読む

※読書ノートです。私固有の考えのところには、<>がついています。『芸術人類学』に触発されて、他の事を考えたりしていますので、何かの参考になるかもしれません。 なお、ここに書かれた内容は、自分の関心事に引っかかった箇所だけを圧縮した覚え書きに過ぎません。必ず、各人『芸術人類学』の原文にあたられますようにお願いいたします。 【はじめに】 ・芸術人類学は、対称性人類学を基礎とする。それは認識の刷新だけでなく、実践を伴う。<実践までいかないと本物ではない。> ・坂本龍一からの質問。対

『Waver』はアートとエンタメの継目に揺らぐ2

歌詞要らない? 歌詞は必要だろうか。歌詞の載ったメロディ発生の動機として「詩大序」の冒頭を読んでみると、まず心に抱えたものが詩となって、音高を伴ったものとして身体から出てくる。その嘆きのようなものは歌となり、それでも足りなくなると手足を伴って舞い踊る…みたいな具合だ(単純化できない循環がある)。この想いよ(たとえば神に)届けと自然に歌が生まれる。言葉から自然にメロディに移行していく過程を、メロディに言葉を当てはめる、に変えてもうまくいくのだろうか。  ソラリスの海、原子の海

ボケた老人による前衛文学は、前衛なのかボケなのか。:小島信夫『残光』について【#2】

『残光』の話がしたい。『残光』の話をしよう。 『残光』とは何か。それを説明するのはむずかしい。とてつもなく、むずかしい。 でも、むずかしくて全容がつかめないからこそ、『残光』は魅惑的だ。わたしは『残光』の訳のわからなさに惹かれている。憧れてもいる。ずっと『残光』のことを考えている。 わたしは多分、『残光』に恋をしている。 だから、この思いを伝えたい。『残光』について。明確な結論は、この場では出せないかもしれないけれども。 ◇『残光』とは何か。わかることから書き出して

【連載】 現代ラカン派における「脚立」とは何か? #1

はじめに精神分析理論の大きな更新が始まろうとしている。 ジャック・ラカンの娘婿であり、フロイトの大義派の指導者であるジャック=アラン・ミレールは2014年の世界精神分析大会の講義にて、「精神分析は変化しています。それは(変化してほしいという)欲望ではなく、(変化しているという)事実です *1」として、精神分析理論を「現在時へと合わせること」を提言している。 というのも、精神分析理論は19世紀後半から20世紀初頭に、性の抑圧の規範であるヴィクトリア女王の下で、オーストリアの

「弱さ」が言語化力と聴く力を育む(群像2022年10月号) | きのう、なに読んだ?

「群像」2022年10月号を手に取った。鷲田清一さんが寄稿した中井久夫さんの追悼文を勧められたからだ。休日の午後、思いがけず集中して読んだ。鷲田さんの文章も良かったうえに、特集「『弱さ』の哲学」が私の関心と重なっていた。 私の関心は: ●「聴く」こと、そして「言語化」すること、それ自体への関心。 ●人が成熟し、それから人と組織の関係が良くなっていくのに、「聴く」と「言語化」が欠かせないと信じていること。 ●「聴く」と「言語化」が起きる場である「対話」。 ●自分が「聴く」「言

限界から始まる―男女のゆく先

嗚呼、うつろな、気の遠くなる、くさくさした日々よ。 悲観に明け暮れ、ぼんやりと過ごしていたら、コロナ禍を逆手にしたたかに生きる二人の女性をみつけた。 書籍『往復書簡 限界から始まる』は、1回目の緊急事態宣言が発令されたさなかの2020年5月から約1年間、上野千鶴子さんと鈴木涼美さんがやりとりした書簡をまとめたものである。 (1)「往復書簡」の罠 上野千鶴子さんは、言わずと知れた女性学・ジェンダー研究に先鞭をつけた社会学者であり、東京大学名誉教授。ご存じの方のほうが多いと

【読書メモ】山田悠史『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』2

読んだ本読書マインドマップ読書メモ序章 老化とは何か 加齢と老化はイコールではない 加齢は皆に等しく起こる 老化はそれぞれプロセスもスピードも違う 寿命は25%が遺伝情報によって規定される(=残りの75%は自分の手で変えられる可能性がある) →どう生きるかかが大事になる 老化は皮膚だけでなく、見えない内蔵も老化している フレイル:老化に関連した生理的な衰退(p.32に臨床フレイルスケール) →フレイルの評価は、「年齢」の数字以上に、その後に起こる身体機能の悪化や死

「鬼滅の刃」と「先祖の話」

『先祖の話 』柳田国男(角川ソフィア文庫) 人は死ねば子孫の供養や祀りをうけて祖霊へと昇華し、山々から家の繁栄を見守り、盆や正月にのみ交流する――膨大な民俗伝承の研究をもとに、日本人の霊魂観や死生観を見いだす。戦下で書かれた晩年の傑作。 春の彼岸に合わせたわけでは無いのだが、母が亡くなって一年過ぎようとしている。そのことが原因なのか(春先は精神的に不安定なのだが)、少し落ち込む日々が続いた。毎日notoしているのにどこがと思う方もあるだろう。でも不調の日でも日記ぐらい付け

「愉快な仏教」(橋爪大三郎/大澤真幸)の素晴らしさ(再稿):

大分昔に読んだ「愉快な仏教」の読後感を記した記事をあるSNSであげたが、そこでの書き方に言葉足りない点があると、ある方の質問で思ったので書いてみたい(同書は著名で博学な社会学者2名が仏教について語る本だ)。 以前の記事の冒頭で、イエスキリストの生誕に纏わる話のところで、本書の一部を引用しつつ、以下のように書いた。 「父なる神と子なる神は、天地が創造されたあと、天に二人で並んで座っていた(たぶん)。中略。このままだと人間が救われないなということになり、「おまえ、行ってみるか

感情のない文章をどう修正するか

 しばらくぶりだがまたも文章講座である。  今日は小説みたいな文章に直すときにはどうすればいいか。  当たり前だが小説には唯一の正解はない。  ……のだが、間違いはいくらでもあるとも言える。  どんな表現を取ってもよいが、その表現に意味がある、と思わせられなければ失敗である。  たとえば最高齢作家として芥川賞も取った黒田夏子の作品などは、表層のレベルで圧倒的に読みにくい。詩として読むにしてもきつい、と思うはずだ。普通の人には絶対にきつい。それでも普通の人がこの本に意味を与

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米津玄師『STRAY SHEEP』

紛うことなき「ポスト・アポカリプス(≠パンデミック)のサウンドトラック」。優れた表現者は時代をも引き寄せてしまう。そんな錯覚にも囚われてしまうメルクマール的傑作だ。 「千年後の未来には 僕らは生きていない 友達よいつの日も 愛してるよ きっと」 タイトル・トラックである「迷える羊」のサビの一節である。 カロリーメイトのタイアップ曲として生まれたというこの曲は、CMで使われるサビ部分のメロディこそ抜けが良いものだが、そこに至るまでのメロディは不穏きわまりなく、音響処理も相ま

(音楽レビュー)喝采/ちあきなおみ〜1970年代の素敵な音楽〜

※この記事を見てのサポートはご遠慮願います。 収益を目的とした記事では御座いません。 音楽を文字で楽しくしてみたいだけで御座います。 〜はじめに〜クレヨンしんちゃんの映画で、 「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」 という映画があるんです。 昔の匂いがするテーマパークに大人がハマるんです。 親はノスタルジーにはまり、こどもの元から離れていきます。 過去を懐かしむ大人と、現在から未来に生きる子供。 この2つの対立軸でどちらが勝つかという話です。 「現代は汚いことばかりだ」と

税金の未納と医療機関の未受診はたぶんほとんどパラレルで、

チュートリアルの徳井さんがズボラが祟って所得を申告していなかった話、今風に言えばわかりみが深すぎて、もはや安堵すら感じている自分がいます。 どういうわけか、ぼくは実際よりもかなり几帳面そうに見えるらしく、完璧主義者だとさえ思われることもしばしばありますが、たとえば住民税は毎年罰則金が発生したころに払いに行くくらいにはずぼらです。 もちろん払うつもりがないということでは全然ないのですが、とはいえ流石に俄然払いに行きたいという強いモチベーションも特にないので、積み上がった督促

欅坂46論 完全版

目次 はじめに 第1章 なぜ欅坂46は渋谷を歌うのか? ●なぜ欅坂46は渋谷を歌うのか ●堤清二と街作り ●欅坂46と再開発 ●"欅坂"という名称のナゾ ●けやき坂と森稔 ●森稔と堤清二 第2章 欅坂46はアイドルを超えられるのか?  ●アイドルとは?~一つの史観を通して~  ●ジャンル化とその先へ行く事の困難さ ●Perfumeと欅坂46 ●Perfumeとロックフェス ●欅坂46とロックフェス 第3章 欅坂46とサイボーグ009 ●サイボーグ009とは ●秋元康と