うえきはらひろのぶ(上木原弘修)

マーケティングコンサルタント。合同会社アゴラ代表。一般社団法人ワーク・アット代表。慶應…

うえきはらひろのぶ(上木原弘修)

マーケティングコンサルタント。合同会社アゴラ代表。一般社団法人ワーク・アット代表。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。東大卒。元博報堂。日本広告学会会員。日本広報学会会員。主な著作・訳書に、『ソーシャルパワーの時代』『18歳からの選択』『ドン・シュルツの統合マーケティング』ほか。

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正札販売(江戸時代に始まった定価販売のこと:世界で日本が最初だった)

三越百貨店の前身、越後屋が江戸時代「現銀掛値無し(げんきんかけねなし)」などと銘打って、世界で初めて定価販売を始めたというのは有名な話。 それまでは、価格は、相対取引、駆け引きで決まっていた。 つまり、相手を見て値を決めていたということだ。 それを、相手を選ばず、定価で販売する。 このことは、今からみれば極当たり前のことのように思えるが、 当時は、世界中見渡してもなかったというのだから、画期的だった。 正札販売というわけは、定価を紙(=正札)に書いて、 品物を一緒に店頭に並

    • 独裁はドアをノックする音から始まる「独裁が生まれた日 習近平と虚構の時代」

      本書は、中国共産党の指導者習近平の統治を、圧政を受ける被害者、中国市民を主人公にして告発するものである。「独裁は往々にしてドアをノックする音から始まる」というフレーズが本書に出てくるが、その後の悲劇を予感させ、恐ろしく静謐なインパクトがある。 意味するところは、独裁を目指す権力者が最初に進めることは、反対する政治家や口をふさがないメディア、ジャーナリスト、文化人などを予防的に拘禁したり、でっち上げで逮捕する。大衆の「餌食」とするために、被差別民を抑圧するのも常套手段だ。そのた

      • 最新人類学からみたハイエクの自由(新自由主義批判)

        経済学者であり、哲人でもある、多くの人を魅了してやまないハイエクの主張を参考にしつつ、人類学の最新知見をもとに批判し、意欲的な議論をめざすメモを書きたい。 ハイエクは、20世紀を代表する経済学者で、フリードマンと並んで新自由主義のグルとされている。ケインズに代表される計画経済、国家による経済管理に反対した。 国家などによる市場の管理より、市場が本来持つチカラでの調整の方がうまくいくという考え方。その背景には、人間がいくら頑張っても、市場についての完全な知識(供給サイドの事

        • ファインディング•ニモとクィアアート(「失敗のクィアアート」を読んで)

          21世紀の日本は生きづらく、分断され、勝ち組と評される側に立たないとマトモな暮らしどころか、生き延びることすら危うい。 そんな風潮が多少とも蔓延してるが、現実社会はそんなことはない。 それは、勝ち組を欲する側がメディアを通して日々垂れ流しているイメージでしかない。 勝ち組を欲する彼らとは、「セレブ」とか「気鋭の経営者」とか「成り上がり者」とか自分を呼ぶ人たちで、実態は、国家の機密情報や実質的な「脱税」を駆使して金を貯める一方、自己責任の言い方で社会保障を削り、財政を自分らの

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          ドキュメント72時間@Paris パリでの日本アニメの力と日本の若者に思うこと

          佳作が多いNHK「ドキュメント72時間」。 今回は、いつもと違って、パリの漫画喫茶のお話。 取材場所は、オリンピックを控えたパリ13区にある日本漫画専門店。 13区といえば新興住民が多く、また大学が多いなど、やや特別なエリアで、マンハッタンの出来事で全米を語ってはいけないのと同様、この場所でパリやフランスは語れない。 であるが、フランスやヨーロッパで、日本のアニメが熱烈な歓迎を受ける理由の一端が分かる。 背景がよく理解できる。 特に強調して描かれているのは、 核家族制が崩

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          伊都国女王墓ビジット

          先週末、知人の訃報を受け、帰郷した際、時間が空いたので、念願の糸島市の遺跡に訪れた。 邪馬台国記事で有名な中国の歴史書三国志魏志倭人伝に出てくる、伊都国の遺跡である。 伊都国は、今福岡で話題のエリア、糸島市内陸部。ちなみに、海岸部は、志摩と呼ばれ、伊都と志摩で糸島の名前の由来となっている。 三国志によれば、伊都国は首長国連合である邪馬台国の大国で、中国や朝鮮と外交交渉を担った長官・組織(一大卒)があったという。 魏志倭人伝の記述を考古学的に裏付ける一大遺跡都市のひとつが伊都国

          マーケティング批評動画第二弾(趣味のマーコム)

          昔の仲間と立ち上げた、マーケティング批評動画の別動画です。 すっかり存在感が薄くなった、新聞広告をあえて取り上げて、企業や生活する人の気持ちやマーケティングを探っていきます。 私自身も新聞広告をまとめてみるのは久しぶりで、 結構楽しく、発見もありました。 2024年正月の新聞広告 ~正月の広告にみる企業の本気~ 動画は、こちらから。 https://youtu.be/JtZsF9Zv6Vs

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          具体的で実際的な死のこと:Last Days 坂本龍一(Nスペ)

          坂本龍一が亡くなって早一年。当初はNHKの企画をあまり信用していないので、警戒もあって見過ごしていたが、後で見逃し配信でみて、強烈なインパクトで暫く茫然となった。 NHKに謝る必要がある。 私にとって、坂本龍一は数少ない信頼できるメディア人で、生前音楽ばかりか、彼のメッセージにも共感するところがあった。もちろん、すべてのメッセージではなかったが、ただ、彼のいつも自由で、フラットな語り口には信頼と共感を持ってみていた。 でも、それにNHKが絡むと相乗効果で往々にしてありふれたお

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          マーケティング批評動画:KPI指標の向こう側へ

          最近仕事でネットでのマーケティング動画を調べてみた。 ネット時代の波を受けて、ほとんどが「改善」とかコンバージョンレイシオとか、最適化という言葉であふれ出している。 それはそれでいいと思うのだけど、 以前まだネットツールが浸潤する前、「広告の半分が無駄なことはわかっているが、問題はどの広告がその半分なのかはわからない」というようなことが専ら言われていたが、マス広告全盛時代はそのように批判されても仕方ない環境だった。 そういうことに比べれば、一部であっても、広告コミュニケーショ

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          AIコンシェルジュに聞いてみよう!

          千葉県市原市でこの4月1日オープンするいちはら子ども未来館。子育て世代から選ばれる街を目指す市原市が子育て支援施策の核として、旧勤労会館をリニューアルしてオープン。乳幼児の健康診断を行う子育てネウボラセンターのほか、未就学児と親が一緒に過ごせるちびっこプラザ、小学生や親子で遊べるわくわくキングダムのほか、未就学児童の一時預かりサービスもある、総合的な子育て支援施設だ。 施設の総合案内や簡単な健康相談を、AIがしてくれる、AIコンシェルジュがある。未来館のオープン時間から施設の

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          みやぞんが歌うギャラクシティコンセプトムービー

          足立区立の複合型体験施設、ギャラクシティのコンセプトムービー。 年間来場者数は、コロナ前で約150万人と愛されている施設だけど、その魅力を知らない人も多い。 足立区出身の芸人みやぞんが、知られざる魅力を歌で伝えます。 想像外だよ ギャラクシティ 話題を呼んで絶賛YouTube公開中。 下記のURLからか、YouTubeでギャラクシティで検索ください。 ぜひご覧ください。 これも意外なことに、マーケティングコンサルタント会社アゴラの仕事です。 https://yout

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          教養ドラマとしての大河、光る君へ

          今年の大河ドラマは、時代は平安時代中期。 紫式部が主人公で、今は紫式部が源氏物語を書く前の青春記である。 我が家は、ツレと一緒に楽しく観ているが、 まぁいろいろ難点はある。 ただ今はとても忙しいので、まとまった文をこさえる時間が取れない。今回は抄で。 まず思うのは、これは平安時代にはネタをとった教養小説ならぬ、教養ドラマだ。 今週が典型だが、ポロ競技のような打球とか。 いかにもありそうな恋文の代筆とか。 散楽など、平安時代の風俗、貴族や庶民の風物を活写して、楽しい。 ま

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          無限の戦略 アイディアは無限。では戦略は?

          私が以前勤めていた広告会社時代のこと。 肌が合わない上司の一人に(肌が合わない上司はたくさんいた)、O沢氏という人がいた。 制作畑出身で社内では、自分の考えと違う相手を徹底論破して、若き頃は「広告警察」(これは70年台のミュージックシーンを沸かした頭脳警察のもじりであることは言うまでもない)と言われてたりしてた。勝手に広告表現の社内取り締まりをしていたからだ。 しかしこのO沢氏は、決してクライアントとは喧嘩しなかった。 自分の提案が相手に否定されると、反論せず、すぐ指摘を受け

          無限の戦略 アイディアは無限。では戦略は?

          フーガ小説 Q

          (一部ネタバレがあります) 出版社の帯コピーに 「圧倒的な「いま」を描く、著者史上最大巨編」とあるが、内容はまさにそのような小説だが、 私が参ったのは、そこよりも小説の進み具合だった。ここではその点を取り上げたい。 それは、音楽で言うフーガ形式、それもストレッタと言うべき、物語の構造だった。 ストレッタとは、フーガ(旋律がバリエーションを持って繰り返され、変化していく形式)の終盤部などで前の旋律が終わる前に新しい旋律が被って立ち上がることだが、この小説も同様に、ストーリーの

          自由意志の進化

          人はどのようにして自由意思を手に入れたのか? マイケル・トマセロ 行為主体性の進化(白楊社) 人には「自由意思」がある。 「自由意志」といっても難しいものではなく、今日のお昼、何を食べるか?選ぶことだったり、また忙しければ食欲を我慢して仕事を片付け、そのあとでゆっくりご飯を食べるようなことだ。 簡単で日常的な選択だが、目をほかの動物に向けると、なかなか簡単なことではない。 動物ではなかなかこういう行動はできない。目の前にご飯があっても我慢して、仕事(ほかの餌集め?)に専念し

          現代物理学の巨人、仁科博士(パート2:日本学術会議と軍学共同研究)

          戦時中陸軍からの要請で原爆研究を行った仁科博士だが、それ以外の業績があまり知られていない。仁科博士は個人としては当時世界トップクラスの研究者であり、チームとして、あるいは育てた後進は、湯川秀樹や朝永振一郎などノーベル賞賞受賞者やノーベル賞級の学者など枚挙すればいとまない。日本が生んだ物理学の巨人だった。 このことは、前の記事、パート1で既に述べた。 ここでは同じく仁科博士の伝記「励起」(みすず書房)を元に、戦後、仁科博士が設立に大きく関わった日本学術会議について考えを述べてみ

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