市野美怜(りすみん@大人の教養大学)

元 教師。現 編集者・文筆家。 読書と対話による「大人の教養大学」主宰。 ともに学び…

市野美怜(りすみん@大人の教養大学)

元 教師。現 編集者・文筆家。 読書と対話による「大人の教養大学」主宰。 ともに学び、考え続けましょう。 東洋経済オンラインに寄稿中→ http://ur0.work/w4sq 大人の教養大学→ https://kyoyo.peatix.com/

最近の記事

うわさの「大吉原展」

最終週にギリギリセーフで訪れた「大吉原展」。 遊郭という制度を称揚し,女性の人権を軽んじる企画・広報だと,明暦の大火よろしくネット上で炎上し,物議を醸す展覧会だったため,最近の私はそういうヒリヒリしたところに行くとやられてしまうかなとか,以前はるばる千葉佐倉市の国立歴史民俗博物館まで「性差の日本史」展を見に行っていたので重複するかなとか迷っていたのですが,お誘いいただいたのでせっかくだからと行ってきました。 ふたを開けてみたら,「大吉原展」と「性差の日本史」展はよくも悪く

    • 宇沢弘文『自動車の社会的費用』抜粋まとめ

      まえがき■戦後日本の高度成長のプロセス ポール・サミュエルソン 自動車のことにふれて、「まともなアメリカ人だったら、東京の街で一カ月間生活していたら完全に頭がおかしくなる」 ↓ ・人々の市民的権利を侵害するようなかたちで自動車通行が社会的に認められ、許されている(産業公害も同じ) ・経済活動にともなって発生する社会的費用を十分に内部化することなく、第三者、とくに低所得者層に大きく負担を転嫁するようなかたちで処理してきたのが戦後日本経済の高度成長の過程の一つの特徴 ■社

      • 『なぜあの人と分かり合えないのかー分断を乗り越える公共哲学ー』より

        人生のどの時期においても常につきまとう,他者との「分かり合えなさ」を検討し,その先の可能性を模索しようとする内容。 とくに,私的領域とその外側の領域における諸問題を扱う「公共哲学」の立場から,社会的分断を乗り越える道筋を検討している。 第Ⅰ部と第Ⅱ部は現実の具体的な問題に触れており,どこかで読んだことのある内容で目新しさはなかったが,第Ⅲ部の思想的な背景に関する部分は,リベラルとリベラリズムの違い,リベラリズムとコミュニタリアニズム双方の限界などが描かれ,学びがあった。

        • 「柄谷行人『力と交換様式』を読む」

          本物の『力と交換様式』は積読になっており、先にこちらを…。 やっぱり柄谷行人はすごい、という一言に尽きました。 大澤真幸先生が「柄谷行人はすべてを語った」として、『力と交換様式』をコンパクトに要約してくれていますが、それでもなお本物のほうも読まなきゃあかんと思わされた。 柄谷氏は『世界史の構造』(2010年)で、マルクスの生産様式から着想を得て「交換」を体系化し、近代世界システムとして次のように書いています。 A:贈与と返礼 B:服従と保護 C:貨幣による交換 D:X

          To be, or not to be…「ハムレット」について

          To be, or not to be… 久しぶりのパブリックシアターで、野村萬斎構成・演出の「ハムレット」プレビュー公演を観てきました。 かつて萬斎が演じたハムレットを息子の裕基さんが演じ、代わりに萬斎はハムレットの父王の亡霊と叔父を演じるという、親子代替わりの注目の舞台。 裕基さんの若々しくエネルギッシュな演技に感心しつつ、やっぱり萬斎の声や動きの抑揚・緩急・リズム感…すべてが計算されているようでありながら至極自然で、この人の技術とセンスは絶対的である、と改めて思わ

          To be, or not to be…「ハムレット」について

          福田恒存『人間・この劇的なるもの』について

          サルトルの『嘔吐』を引用し、「特権的状態」を味わうための意思が必要だと女が力説するところから、本文は始まる。 「特権的状態」とは、死の淵にいる人物の臨終のことばが周囲のひとびとによって意味ありげにひびく土壌が用意されているような、あるいは恋人に初めて接吻をされるときにもっともロマンティックな陶酔を味わえるように万難を排すような、「完璧な瞬間」を実現するのにつごうのいい条件を具備した恵まれた状況のことを指すようだ。 長々と女が不満を述べるのは理由がある。 そう、それは私たち

          福田恒存『人間・この劇的なるもの』について

          「諏訪敦 眼窩裏の火事」展 レポート

          鑑賞の言葉がみつからない。 美しいとか、素晴らしいとか、頭に浮かぶそんな言葉たちがすべて陳腐に思える。 真に優れた作品をみたとき、こみあげてくる感情に名前が与えられていないことに気づかされます。 圧倒的なものを前に、なんとか言葉を探し出そうとするのだけれど、的確なものはみつからず、自分の言語を操る能力の低さに苛立つ。言語というものの限界を知る。 感じて、考える作業。 それしかできない。 しかし、そうやって時々刻々と移り変わる感情を、諏訪は一枚の絵に表現したかったの

          「諏訪敦 眼窩裏の火事」展 レポート

          『「心のクセ」に気づくには―社会社会心理学から考える』について

          ■風がふくと桶屋がもうかる 風がふく ↓ 砂ぼこりで目を悪くする人が増える ↓ 目が悪くても奏でることができる三味線の需要が増える ↓ 三味線を作るときに必要な猫の皮を手に入れるために猫が少なくなる ↓ 猫の天敵の鼠が市中に増える ↓ 鼠たちが桶をかじる ↓ 桶を買い替えなければならない人が多くなる ↓ 桶屋がもうかる ■内的帰属と外的帰属 ・内的帰属 出来事や行為の原因を、その出来事を経験した人やその行為をした人自身に求める形の帰属 ・外的帰属 出来事や行為の原因を

          『「心のクセ」に気づくには―社会社会心理学から考える』について

          『上野千鶴子がもっと文学を社会学する』について

          頭の片隅にいつも「上野千鶴子は危険」という思いがある。切れ味鋭く、読んだら絶対に面白いが、その分わたしのなかで自覚的、あるいは無自覚に前後左右へ浮動する行動規範が揺さぶられるからだ。 また、男性が彼女の本を読んだことを公表すれば「リベラルなフェミニスト男性だ」と世間、とくに女性からの評価が高まるが、女性が読んでいると自己中心的な人間と思われそうで怖い(実際自分勝手だと思うけれど、振り切れていると思われたくないという自己防衛的な、かよわき心が現れます🤣)。日本の男女にとっての

          『上野千鶴子がもっと文学を社会学する』について

          『着物の国のはてな』と、その周辺

          片野ゆかさんの『着物の国のはてな』で勉強になった箇所と、それに関する周辺知識をまとめてみました。 (1)似合う着物の見つけ方■似合う衿元 個人によって違うので研究と修練を ■粋VSはんなり ◇粋 ・江戸由来 ・カッコいい、シャープ、活動的 ・衿を多めに抜いた状態 (平均は横から見たときに首の後ろと衿の空間が握りこぶし一つ分くらい) ↑ ↓ ◇はんなり ・京都由来 ・かわいい、ふんわり、優しげ ・衿の抜き方が平均よりやや少なめ ■裾 ◇逆三角形シルエット ・スタイル

          『着物の国のはてな』と、その周辺

          桃山文化の二面性

          久しぶりに自由の身。 「京都・智積院の名宝」展で、日本の美を堪能してきました。 特に今回の目玉は、長谷川等伯による「楓図」「桜図」などの桃山文化を代表する絢爛豪華な金碧障壁画(濃絵)。 等伯といったら、真っ先に日本水墨画の最高峰とされる、瀟洒閑寂とした「松林図屏風」が連想されるので、狩野派の流れを汲み、金碧障壁画のなかでも傑作と称される作品まで手掛けていたとは知らず、驚きました。天才は何でも描けるんだな。 それにしても、かたや贅のかぎりを尽くした煌びやかな濃絵と、かたや

          太宰の愛人・山崎富栄

          愛しの修治に会ってきました。 みたか観光ガイド協会の方のお話がとてもよく、とくに最後の愛人で玉川上水で心中した山崎富栄の生い立ちについて具に教えていただき、感銘を受けました。 東京婦人美髪美容学校の次女として生まれた富栄は、後継者として美容技術のみならず、英語や聖書などの教養を学びます。しかし、「経営」と「教育」は別物。「経営」は別の人に担ってもらおうと、三井物産社員と結婚しました。 その三井物産社員の奥名修一は結婚後1週間ほどで三井物産マニラ支店に単身赴任が決まってし

          教養としての「メトロポリタン美術館展」

          チケットをいただきまして、本日は「メトロポリタン美術館展」へ。 選りすぐりの名画65点のうち46点が本邦初公開だそうで、これは混みそうだと思い、前回の反省も踏まえて開門前の9時から並んだら、なんと一番に入場することができました(案の定、後ろは長蛇の列)。 印象的だった事柄は3点です。 ※以下の写真は、メトロポリタン美術館およびルーブル美術館のパブリックドメインの写真を掲載しています。プラトンとアリストテレスのイラストもロイヤリティ・フリーの素材を拝借しています。 (1

          教養としての「メトロポリタン美術館展」

          怒りと悲しみの受容について

          令和の時代になんだが、伊藤公雄先生などの仰る通り、公的に「男らしさ」のなかに「怒り」が許容されやすく、「女らしさ」のなかに「泣く」が許容されやすい。この文化への知覚が人の行動をそれへと向かわせていると改めて感じる。 前者が強者で、後者が弱者のようにみえるが、強者もまた弱者であり、弱者もまた強者。どちらも元の感情は同根であり、刺激や状況変化に対する「わからなさ」「手の打ちようのなさ」「途方のなさ」の表現に思える。 この怒りや悲しみについて、心理学者のアドラーは、相手の気を引

          『人生論ノート』メモ

          毎年恒例、本棚を整理して、ミイラ取りがミイラになるやつ。 散文的だが、胸にしまっておきたい言葉がありました。 『人生論ノート』は著作権切れなので、こちらで読めます。 *** ・世間には「夢のようなことばかり言っていないで」と諭す人もいますが、夢は人生を拓く原動力です。理想には現実を変える力があります。 ・成功は「直線的な向上」として考えられるが、幸福には「本来、進歩と言うものはない」。また、幸福が「各人のもの、人格的な、性質的なもの」であるのに対し、成功は「一般的なも

          『安いニッポン-「価格」示す停滞』読書メモ

          為替では説明できない長期デフレ ・物価の変わらない日本 この20年間、日本の物価はほとんど変わっておらず、平均インフレ率はゼロになっている。「日本の購買力」が落ちたのは為替が安くなった(円安)わけではなく、20年間にわたるデフレ傾向が原因だと言える。そもそも「日本の購買力」が落ちたと言うことは、企業が少しでも値上げをすると売れなくなるほど、日本の消費者はインフレに抵抗がある。そしてその原因は、消費者の所得が上がっていないことだ。 ・くら寿司・田中邦彦社長 日本の製造者は「い

          『安いニッポン-「価格」示す停滞』読書メモ