マガジンのカバー画像

漢字

11
漢字のような詩
運営しているクリエイター

#今日の詩

雪波電車

雪波電車

かるいことばを握りつぶせば
灰が掌に跡を残す

隣には幼子が欠伸をし
母親の胸に顔を押し当てている
ぬくもりと表すには程遠い
生命を顕現する営みのバトンと
車窓は雪波を額の様に彩る

不幸かどうかも分からぬ儘に
現在のこの瞬間はあぶくの様だ
楽しくない事が不幸であると
単純な思考は錆びて動かない
詩人ランボーの様だとは言わない
全ての感傷はまだらな電車の揺れに溢れる

到着地に降り立つと空は曇天だ

もっとみる
素敵な孤独

素敵な孤独

なにを書こうか。

という時に限って

原稿用紙の余白が

漠々とした砂漠のように

広がって

そこで僕は

一人で立っている

”ただゆっくりと眠れる夜が欲しい

まどろみのうちに

そのまま眠れる夜が欲しい”

原稿用紙の余白は

知らぬ間に文字の高層ビルにおののき

静寂から一歩ずつ尻込みしている

”世界はこれでよいのだ

完全さと不完全さの間で揺らぎ

とこしえに眠る夜を探す

これで

もっとみる
写真

写真

写真

写真はその瞬間を切り取る

写真は恥も外聞もなく

ありのままにその時を

写し取って、色を補完する。

写真

写真に潜むアイロニーを

ぼくは知らない

過去のなごりと未来の新鮮さの色は

写真の中の青空といっしょだ。

写真

写真はなおも切り取ってゆく。

つぎはぎだらけの世界が保管されてゆく。

襤褸といえば洒落っ気があるが

その実、それはただ生々しい人類の発露だ。

写真

もっとみる
生え際の向こう側

生え際の向こう側

「ひと目を憚らず言おうか
僕は実は君の事を
忘れているんだ。」

病室の窓は珍しい丸型で
この部屋に宿る静寂は四角だ

ゆっくりとラレタンドする心臓に
まどろっこしい真実は要らない

爺様は世界のお隣で
ゆっくりと植物に水をやっている

昔聞いた声色を
今の微かな声色が上塗りする

僕と貴方と婆様の
それはそれは綺麗な三角形は

今はただ一筋の直線となりて
爺様の生え際の向こう側の
斜陽する未来を

もっとみる
ミクロコスモスなわたし

ミクロコスモスなわたし

ポテトチップスを頬張るわたし
コーヒーを飲むわたし
おんぶ紐を編むわたし

わたしはわたしが大好きなので
他の誰よりも大切にしてあげます

電車の中で席を譲るわたし
同僚に飴玉をあげるわたし

決して自己満足がないとは言わない
けれどそれが人間の本領でしょう?

わたしはわたしを愛しているので
世界がわたしを愛してくれる

たった一度の人生ですもの
宇宙に歴史が無いように
わたしはわたしを刻んでい

もっとみる