アイルランドの異教的伝承「ブリクリウの饗宴」⑧(¶66~71)

私が翻訳したアイルランドの異教的伝承「ブリクリウの饗宴」(Fled Bricrenn)をここに掲載していきます。

【前回】


登場人物と用語の一覧はこちらにあります。適宜ご参照ください。


今回は蛇足的エピソードで、三人はエウィン・ウァハに直行しません。メズヴ女王の養父母のところに行き、その経緯で何度かの戦闘を行います。


¶66

「私の養父と私の養母、エルガルとガルムナの家に行け。そして今夜はそこでもてなしてもらうがよい」とメズヴは言った。
クルアハンでの馬の競争に参加しクー・フリンが三度勝利した後、彼らは出発した。そして彼らはガルムナとエルガルの館にたどり着き、歓迎された。
「どういう目的で来られたのだ?」とエルガルは言った。
「我々に対してあなたに裁定していただくため」と彼ら。
「サウェラのところに向かえ」と彼は言った、「その者が裁定を下すだろう」
彼らはそこへ行き、証人が彼らとともに送り出され、サウェラは歓迎の意を示した。サウェラの娘ブアンはクー・フリンに一目惚れした。彼らはサウェラに言った、自分たちがここに来たのは自分たちへの裁定を求めるためだと。サウェラは彼らを順番に、谷の魔女のもとへ送った。

¶67

ロイガレが最初に行った。彼は武器と服を置いていった。次にコナルが同じように行き、短槍を置いていったが、戦士の武器を——すなわち剣を——持っていった。今度はクー・フリンが三晩目に行った。谷の魔女たちは彼らに向かって叫んだ。魔女たちは彼らと戦った。槍はバラバラにされ、盾は破壊され、着ている服は引き裂かれた。谷の魔女たちは彼らを殴り、彼らはボロボロになった。
「ああ、クー・フリンよ!」とロイグ。「惨めな臆病者め! 半盲のガキめ! あの化物どもがお前を叩きのめして、お前の武勇と勇気は後ろに行ってしまったようだな」
クー・フリンは魔女たちに対する怒りをわき起こし、恐怖に立ち向かい、魔女たちを切り裂き、滅多切りにした。谷は血に染まった。彼はコナルとロイガレの武器を戦利品として持ち、サウェラの館へ戻った。勝利とともに、自分たちが居た場所へ。

¶68

サウェラは彼らを歓迎し、こう言った。
「洞窟に住む肥え太った雌牛の
 そして肥え太った豚の
 〈英雄の分け前〉を分けてはならぬ。
 50人も酔わす、
 そして名高きクー・フリンをも酔わす
 大量の麦酒を飲みながらでは。
 彼の者は割れた盾持つ犬、
 彼の者は肉身の勝利の鴉、
 彼の者は戦士を支える勇猛なる猪。
 彼の者は邪悪なる力を征服する
 薪から出づる火のように。
 彼の者は偉大なエウィンの番犬、
 彼の者は美女たちの恋慕の的、
 彼の者は戦禍の血、
 偉大なる裁き
 いかなる目にも映る。
 敵なるフリギア人からの供物を受け、
 腕の悪い詩人は追放する。
 彼は裂け目を飛び越える戦車の御者、
 彼は男らしい勝利のズキンガラス、
 彼はその血縁者の輝かしい誇り
 なぜ彼と同格であろうか、
 柵の中の獅子ロイガレが、
 あるいは名高き騎手のコナルが。
 なぜ麗しきあのエウェルが、
 猛き英雄たちの誰もが望む女性が、
 アルスターの高貴な美々しい奥方たちを引き連れて、
 あの偉大なる女性が、歩かないだろうか、
 あの目出度き〈蜂蜜酒の巡る館〉を。
 ゆえに私は考える、
 〈分け前〉を分けてはならぬと。
 〈分け前〉を分けてはならぬ。
これがそなたらに下す私の裁定である」とサウェラは言った。「〈英雄の分け前〉はクー・フリンに与えるべきであり、その奥方はアルスターの女たちの先頭に立つべきであり、そしてその武勇はあらゆる者の武勇をしのぐ——コンホヴァル王のそれは別として」

¶69

その後彼らはエルガルの館へ向かった。彼らは歓迎された。彼らはその夜をそこで過ごした。エルガルは彼らに彼自身及び二頭の馬と戦うことを求めた。ロイガレ・ブアダハと彼の馬が正面から向かった。エルガルの馬がロイガレの馬を殺した。エルガルはロイガレ自身を圧倒し、彼はその前から逃げた。彼がとった道は、エス・ルアズを通ってエウィンへ行くものであり、彼の従者がエルガルによって殺されたという知らせを携えていた。
次にコナルが同じように行き、エルガルの馬に自分の馬が殺された後で逃げ出した。彼はエウィンへ行くのにスナーム・ラーサン川(ラーサンの溺れ川)を通って行った。ラーサンがコナルをこの川で溺れさせたため、この名がついたのである。

¶70

しかし〈マハの灰色〉はエルガルの馬を殺し、クー・フリンは最終的にエルガル自身を戦車に縛り付け、エウィン・ウァハまで帰り着いた。するとサウェラの娘ブアンが三台の戦車の痕跡を追って行った。彼女はクー・フリンの轍に気付いた。なぜなら、彼が行くどんな細い道も、車輪によって深く掘られて横に土壁ができ、道自体も広がり、また割れ目をまたいでいたからである。それゆえこの娘は恐れながらも彼に続くように彼の戦車と同じように跳躍し、崖に額をぶつけて死んでしまった。そのためそこはウアグ・ブアナ(ブアンの墓)と名付けられた。
しかし、コナルとクー・フリンがエウィンにたどり着いたとき、人びとは悲しみに暮れていた。なぜならロイガレが知らせをもたらした後、二人の死が人びとにとって確実なものと思われていたからである。彼らは自分たちの旅と自分たちに起こったことを、コンホヴァル王とアルスターの他の貴族たちに語った。ロイガレが二人の英雄たちについて語った誤った死の知らせが故に、他の御者たちや戦士たちはロイガレを非難していた。

¶71

故に、アルスターの賢者カスバズは次のように言った——
「砦に住む黒い顔の田舎者がする
 英雄殺しについての
 考慮に値せぬ言い分よ。
 戦士達の名誉のための戦い、
 偉大なるアルスターの戦士達の。
 ロイガレは幸運にも加わらなかった
 〈英雄の分け前〉の権利の争いに
 血なまぐさい話の争いの後で。
 権利をもつのはクー・フリン。
 誇り高きエルガルの決闘を受ける故。
 戦いを望む勇猛なる戦士は縛られる
 一台の戦車の後ろに。
 彼らは彼の偉大なる功を隠さない。
 彼の偉大なる殺戮はそれに値する。
 彼は激烈にして精強なる戦士。
 彼は戦いに勝利する勇猛な英雄。
 彼は戦いの偉業。
 彼は数多の戦士達の死。
 彼は経験豊富な心優しき僧。
 彼は猛る強き王。
 故に私は考える
 〈英雄の分け前〉を折半せよというのは
 考慮に値せぬ言い分であると」


【続く】

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