アイルランドの異教的伝承「ブリクリウの饗宴」⑨(¶72~74)

私が翻訳したアイルランドの異教的伝承「ブリクリウの饗宴」(Fled Bricrenn)をここに掲載していきます。

【前回】


登場人物と用語の一覧はこちらにあります。適宜ご参照ください。


今回は、ようやくメズヴ女王が三人の英雄のうち誰を一番優れていると認めたか、が明らかになります。



¶72

戦士達は思案と会話をやめた。彼らは食事と宴会に行き、そしてクー・フリン自身の父親スアラウ・マク・ロイ、彼がその夜アルスターの者たちをもてなした。アラダッハという、コンホヴァル王の大きなワイン桶が満たされた。そしてその一部はすぐに彼らの目の前で振る舞われ、給仕たちが配りに行った。その時給仕たちはそこにある〈英雄の分け前〉には触れずにおいた。
「なぜ〈英雄の分け前〉を配らないのだ?」とドゥブサッハ・ドイルチェンガズは言った。「それを受け取る英雄は決まっているのであろう。そこな三人はクルアハンの王のもとから、そのうちの一人に〈英雄の分け前〉を与えることを定める印を持たずに帰って来たというのか?」

¶73

ロイガレ・ブアダハはすぐに立ち上がり、銀の鳥が据えられた真鍮のカップを見せた。
「〈英雄の分け前〉は俺のものだ」と彼は言った。「俺以外の誰のものでもない」「しかしそれは彼のものではない」とコナル・ケルナッハ。「我々に授けられた印は同じものではない。ロイガレには真鍮のカップ、しかし俺に与えられたのは琥珀金のカップだ。その二つの違いは明らかだから、〈英雄の分け前〉は俺のものだ」「お前らのどちらのものでもない」とクー・フリンは言い、すぐに立ち上がってこう言った。「お前たちに与えられたのは〈英雄の分け前〉を得るものを決める印などではない」
「しかし、お前たちに敵意を示し敵対するのは、王と女王の望みではない」と続けて曰く、「お前たちに対し敵意を示したわけではないのだ、お前たちに対して行ったことは」さらに続けて曰く、「〈英雄の分け前〉は俺のものだ。なぜなら、誰よりも優れているという明白な証をもらったのは俺だからだ」

¶74

コンホヴァル・マク・ネサを取り巻くアルスターの貴族たち全員の目に入るよう、彼はすぐに、貴石の鳥の装飾を備えた赤い金のカップと、彼の両目と同じ大きさの竜石を持ち上げた。「この俺こそが」とクー・フリンは言った「〈英雄の分け前〉を得る資格を持つ。俺に対して不実が行われたのでなければ」「我々は認める」と、コンホヴァル王、フェルグス、そして他のアルスターの貴族たちが言った。「アリルとメズヴの裁定によって、お前こそが〈英雄の分け前〉の主であることを」
「俺は我が部族の誓う神に誓って言う」とロイガレ・ブアダハとコナル・ケルナッハは言った、「お前が持っているのは奪ったカップだ。お前が所有している価値のある財宝や宝物、それをお前はアリルとメズヴにくれてやったのだろう。そうしたらお前の自慢が嘘にならないし、〈英雄の分け前〉がお前以外の誰かに優先して与えられることもないからだ」
「俺は俺の部族の誓う神に誓う」とコナル・ケルナッハ、「その裁定はそこで行われた裁定ではない、そして〈英雄の分け前〉はお前のものではない」
全員が次々と抜き身の剣を持って立ち上がった。コンホヴァル王とフェルグスがすぐに彼らの間に割って入った。彼らはまず腕を下し、次に剣を鞘に収めた。
「止めろ!」とシェンハ。「私の言うとおりにするのだ」「そうしよう」と彼らは答えた。


【続く】

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