アイルランドの異教的伝承「ブリクリウの饗宴」⑥(¶54~56, 63~65)

私が翻訳したアイルランドの異教的伝承「ブリクリウの饗宴」(Fled Bricrenn)をここに掲載していきます。

【前回】


登場人物と用語の一覧はこちらにあります。適宜ご参照ください。


パラグラフの並びに途中で亀裂が生じていますが、恐らく正しいと思われる順番に編者(not訳者)が並び替えたものです。


今回はアルスターの戦士達がコナハトの王宮クルアハンに迎え入れられて相談を持ち掛け、アルスターの三人の英雄がパフォーマンスを行うくだりまでです。


¶54

アルスターの者たちのクルアハン・アイへの進軍(承前)

すぐにメズヴは城壁の門を通り外へ出、そして50人の乙女が彼女に連れ添い、水を湛えた三つの大桶があの三人の戦士たちに運ばれた。彼らはその興奮をなだめるために来た人々より先にたどり着いていた。彼らには選択肢が与えられた、別々の客用の館がそれぞれに与えられるか、あるいは三人に一つ館が与えられるか 。
「一人一人に別々がいい」とクー・フリンは言った。
するとすぐに彼らは特別に素晴らしいベッドを備えた館へ行った。そして50の3倍の数の乙女たちを彼らは気に入り、フィナヴァルはクー・フリンに他のどの娘よりも好まれ、彼がくつろいでいる部屋に招かれた。その後すぐにアルスターの者たち全員が来た。アリル王とメズヴ女王と彼らの召使たち全員はアルスターの人びとを歓迎しに行った。
シェンハ・マク・アリェラが答えて「我らは大変満足しています」と言った。

¶55

次にアルスターの人びとは丘砦の中へ入り、囲みの中の城館のところまで来た。7つの円形の建物 があり、それぞれ壁から暖炉まで7つの寝椅子があった。城館の前面部は真鍮製で、内壁は赤いイチイ製であった。
城館の天上には三つの真鍮製の星があった。壁はオーク材製で、平たい石でできた屋根を有していた。ガラス製の取っ手のついた12個の窓があった。アリルとメズヴの寝椅子はその城館の中心にあった。寝椅子は銀製の前面部と真鍮製の星を有し、アリルの目の前には銀製の杖があった。それは建物の真ん中まで届き、それを使って常に召使たちを遠ざけるのであった。
アルスターの男たちの武器が城館を一つのドアから別のドアまで取り囲んだ。食事の用意がされている間、楽師たちが彼らを楽しませた。建物の広さは、五大国全ての戦士達の中の精鋭たちがコンホヴァル王の周りを取り囲むくらいの空間があるというものであった。しかしでは実際さらにコンホヴァル王とフェルグス・マク・ロイはアルスターの9人の戦士たちとともにアリル王の部屋に招かれた。すぐに大きな宴会が催され、それは三日三晩続いた。

¶56

それが終わると、アリル王はアルスターの者たちが取り巻くコンホヴァル王のもとへ呼ばれた。なぜ彼の軍団がここにいるのか〔を伝えるために〕。
シェンハは彼らがやってきた理由を説明した。すなわち〈英雄の分け前〉をめぐるあの三人の英雄たちの甲乙つけがたい自尊心の高さについて、そしてあの女たちの宴会における主導権争いについて、「彼らはいかなる裁定をも認めなかったのです。あなたによるものを除いては」
聞くや否やアリル王は黙ってしまい、陽気さが引っ込んでしまった。
「かの英雄たちの訴えをあずけるに、私は適切な人間ではない」と彼は言った、「仮に悪意があってその問題を持ち込んだのでなければの話だが」
「これを解決するのに、あなたより適している人はおりません」とシェンハは言った。
「よいだろう、考える時間が要る」とアリル。
「我々には英雄たちが必要です」とシェンハ、「臆病者どもにとって大なるは彼らの価値でありますがゆえに」
「三日三晩あれば十分であろう」とアリル。
「それならば遅すぎるということはないでしょう」とシェンハ。
その後すぐアルスターの者たちは出発した。彼らは満足し、アリルとメズヴに祝福を施し、ブリクリウを呪った。なぜなら彼こそはこの騒動を引き起こした張本人だからである。そして彼らはすぐに国境までたどり着き、ロイガレ・ブアダハとコナル・ケルナッハとクー・フリンを、アリルによる裁定に託して去って行った。一人一人に毎晩百人分の食事が供された。

¶63

馬たちに与えられていた食べ物はといえば、選りすぐりのものが与えられていた。
コナルとロイガレは、二年分の最上級の飼い葉を馬に与えるように言った。しかし大麦の粒を、クー・フリンは自分の馬に選んだ。
彼らは夜をそこで過ごした。女たちは彼らの間で三等分された。フィナヴァルと50人の乙女たちはクー・フリンの館へ。アリルとメズヴの娘サズヴ・スルヴァル及び50人の乙女たちはコナル・ケルナッハの傍に。ケド・マク・マーガハの娘コンヒェン 及び50人の乙女たちはロイガレ・ブアダハに、それぞれ与えられた。そしてメズヴ自身はクー・フリンが逗留中の館に足繁く通い続けたのであった。

¶64

そして翌日の早朝、彼らは起き上がり、城へと入って行った。そこでは遊戯が行われていた。ロイガレはそこで使われている輪っかを取り、高く放り投げた。するとそれは梁まで届いた。それ故子供たちは笑い、彼に歓声を浴びせた。それはロイガレへの冷やかし笑いであった。ロイガレにはそれは称賛の声に思えた。次にコナルが床に落ちていたその輪っかを手に取った。そしてそれを放り投げると、棟木まで届いた。子供たちは彼に歓声を浴びせた。コナルには勝利と栄光の叫びに聞こえた。しかしそれはまたしてもあざけりの声なのであった。今度はクー・フリンが跳び上がり、中空にあったその輪っかを掴んだ。
彼もその輪っかを高く放り投げ、するとそれは棟木を吹き飛ばした。そして輪っかは囲い地の外側の地面に突き刺さり、人ひとり分の深さ潜っていった。子供たちはクー・フリンに賛美と称賛の叫び声を浴びせた。しかし子供たちが挙げた声は、クー・フリンには冷やかしとあざけりの声に聞こえた。

¶65

クー・フリンは女たちのところへ行き、150本の針を彼女から奪い、その150本の針を次々と投げた。すると針は全て前の針の穴に突き刺さり、直線となった。次に彼は戻って行って、針を女たち一人一人の手に戻した。これを見て子供たちはまたクー・フリンを褒め称えた。(その後三人の英雄たちは王と女王と他の家臣たちの下を離れた)


【続く】

記事を面白いと思っていただけたらサポートをお願いします。サポートしていただいた分だけ私が元気になり、資料購入費用になったり、翻訳・調査・記事の執筆が捗ったりします。