マガジンのカバー画像

福岡市の歴史

34
福岡在住の光山忠良が連載する、福岡市の過去・現在・未来。
運営しているクリエイター

#辛口の福岡史

福岡は「正しい街」か~椎名林檎の名曲に想う~

福岡市で10代の7年間を過ごしたアーティストの椎名林檎にとって、福岡は「正しい街」である。

『正しい街』作詞作曲:椎名林檎

大それた夢を見て、恋人にひどい別れを告げて飛び出した福岡、でも東京は思っていたものと違って、まさに冬の匂いさえ正しくない、もう恋人も、思い出の場所も失ってしまった――という気持ちが赤裸々に綴られている。椎名林檎がデビュー前に実際の思い出を元に作った曲とされる。デビューアル

もっとみる
ジャパネットが福岡・天神を選んだわけ

ジャパネットが福岡・天神を選んだわけ

「天神ビッグバン」の第1号ビルとして2021年9月にオープンしたのが、「天神ビジネスセンター」である。隣の新福ビル街区が2025年3月のオープンの予定だから、事業主・福岡地所の素早い経営判断と行動力のたまものといえるだろう。
オープンに先立つ2020年11月に、通販会社・ジャパネットによる3フロアの区分所有が決まり、ジャパネットの髙田旭人社長、福岡市の高島宗一郎市長、福岡地所の榎本一郎社長が記者会

もっとみる
博多港の歴史は長く、水深は浅い

博多港の歴史は長く、水深は浅い

福岡市は大小の川が流れ、広大な平野と良港を有して――などいない。

第1に福岡市は大都市の中では極めて珍しく、一級河川がない。一級河川がないということは、まずは工業用水が取得できず、工業が栄えない。福岡市が県庁所在地になってからも人口が伸び悩み、鹿児島市や熊本市どころか、県内の大牟田市や八幡町にすら抜かれたのも、ひとえに河川に恵まれていないということにある。ちなみに三池炭鉱(大牟田市)や八幡製鉄所

もっとみる
新福ビルの起工式に際して思うこと

新福ビルの起工式に際して思うこと

「えい、おう、えい、おう」との掛け声が、ドーム型テントの中に響きわたる。事業主、建築関係者、来賓、地権者の代表が、玉串を祭壇に捧げる。厳粛に、つつがなく福ビル街区の起工式は行われた。2021年の暮れも押し迫った12月22日のことである。

福ビル街区とは、福岡市の中心街、天神のど真ん中もど真ん中、1丁目1番地のビル建設予定地である。旧福岡ビル、天神ビブレ、天神コアの3棟を取り壊したこの場所に、高さ

もっとみる
牧野洋『福岡はすごい』に垣間見える福岡市の弱点

牧野洋『福岡はすごい』に垣間見える福岡市の弱点

日経新聞の元記者でジャーナリストの牧野洋氏が2018年に『福岡はすごい』という本を書いている。アメリカの西海岸から引っ越し、3年住んだ体験をもとに福岡市を絶賛しているのだが、松田聖子が福岡市出身だという誤解とか(久留米市出身である)、福岡市には西日本鉄道やテレビ西日本、西日本新聞があることを知らないとかはご愛敬なものの、皮肉にも福岡市の課題を浮き彫りにしてくれているような気がする。

牧野氏は、福

もっとみる
福岡天神が商都と呼ばれるまでの長い長い歴史

福岡天神が商都と呼ばれるまでの長い長い歴史

理髪店の若いお兄さんと天神の話になったとき、「天神ってもう、いらなくないですか」と言われ、大変な衝撃を受けた。「イムズもコアもなくなっちゃったし、デパートは高いし、飲みに行くなら大名(天神の西)で十分じゃないですか」…確かに「小売の黙示録」と言われるように、ファッションビルや百貨店は全国的にも青息吐息である。渡辺通りの地価は高く、若者のファッションストリートは大名や天神西通りなど西に移っている。「

もっとみる

福岡は国際金融都市になれるか?

東京のある中堅印刷会社の経営者に取材したことがある。大手出版社の文庫本の表紙を一手に手掛けるなど出版物の印刷で有名な会社だったので、出だしに「御社は出版印刷専門の印刷会社ですが…」と問いかけると、その経営者は私の勘違いを柔らかく訂正した。

「もともとは総合印刷会社で、今でも商業印刷(チラシやパンフレットなど)も行っていますよ。東京という土地柄、出版社とのお付き合いが増えていった経緯はありますが」

もっとみる
【辛口の福岡史】渡辺與八郎と渡辺通り

【辛口の福岡史】渡辺與八郎と渡辺通り

福岡市には42の道路に愛称が付けられている。だが愛称というわりに、味気ない名前が多い気がする。東西を貫通する幹線は「昭和通り」「明治通り」「国体通り」だし、博多駅博多口から発する道路は「大博通り」「博多駅前通り」である。「筑紫通り」「住吉通り」「高宮通り」など地名が着く道路もあるが、まあ全体として市民の愛着は薄い気がする。

その中でも例外中の例外といえるのが福岡市の中心街・天神を縦貫する「渡辺通

もっとみる
福岡は本当に国際都市なのか~その歴史から紐解く~

福岡は本当に国際都市なのか~その歴史から紐解く~

福岡史の入門書の冒頭には、枕詞のように「古代から現代にわたって、福岡はアジアの玄関口として発展を遂げてきた」と書いてあるが、半分当たっていて、半分疑わしい気がする。

確かに古代の外交・貿易の迎賓館である「鴻臚館」は福岡・大阪・京都の3か所にあった。現在、この3都市(と神戸市)が西日本を代表する都市になっていることからも、地理的・地政学的に発展を約束されていたかのように思える。遣唐使は必ず博多から

もっとみる
「敵国降伏」はアリ?博多・筥崎八幡宮の扁額の意味を問う

「敵国降伏」はアリ?博多・筥崎八幡宮の扁額の意味を問う

筥崎八幡宮は博多の中心街からやや東、箱崎の地にある。「筥崎」か「箱崎」かでややこしいが、筥崎宮と同じ名前を地名に名付けるのは不敬だということで、周辺の地域は「箱崎」と名付けられている。筥崎八幡宮の秋のお祭り「放生会」(ほうじょうえ、ほうじょうやとも)では、参道に数百軒の露店が連なり、市民の楽しみになっている。新年にはソフトバンクホークスやアビスパ福岡といった地元スポーツチームも必勝を祈願する。

もっとみる
幕末の福岡藩が目立たなかった理由―佐賀藩との比較―

幕末の福岡藩が目立たなかった理由―佐賀藩との比較―

「幕末の福岡藩ってぜんぜん目立たないね」とはよく言われる質問である。明治維新を主導した「薩長土肥」(薩摩・長州・土佐・肥前)はいずれも西国の雄藩であるが、福岡藩は五十二万石の大藩にも拘わらず、幕末・明治の時代の流れから取り残されてしまった。しかし、なぜだろう。歴史の知らない一部の福岡市民が小馬鹿にする佐賀(肥前)にも出遅れてしまった理由は?そんな福岡市民にもある素朴な疑問に答えてみたい。

幕末の

もっとみる
悲劇の双子都市?福岡・博多

悲劇の双子都市?福岡・博多

福岡と博多の区別は難しい。NHKの地理・歴史探訪番組「ブラタモリ」の博多編でも冒頭、アシスタントの桑子真帆アナが「博多は博多というエリア。福岡は福岡県」と答えて、不正解とされていたが、本当に不正解なのだろうか。博多はエリアの一つには違いないし、福岡は福岡県を指すことだってある。

那珂川を挟んで西が福岡、東が博多というのが模範解答だろう。しかしそれは江戸時代に限ってのことである。福岡の海湾は博多湾

もっとみる
福岡の県民性は確かにある―個人的な体験から―

福岡の県民性は確かにある―個人的な体験から―

業界誌記者時代、ドイツのハイデルベルグという町で、ドイツ人と中国人と一緒にビジネスランチをしたことがある。私はドイツ語どころか、英語も極めてたどたどしいので、会話はもっぱら同業者の日本人に任せて、相槌を打つだけにした。
ところが、その日本人がデリカシーのない人で、「東の都は東京、北は北京、南は南京といいまして、麻雀でいうと東西南北(トーナンシャーペイ)なんですよ」とまくしたてた。中国人の方は黙られ

もっとみる