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牧野洋『福岡はすごい』に垣間見える福岡市の弱点

日経新聞の元記者でジャーナリストの牧野洋氏が2018年に『福岡はすごい』という本を書いている。アメリカの西海岸から引っ越し、3年住んだ体験をもとに福岡市を絶賛しているのだが、松田聖子が福岡市出身だという誤解とか(久留米市出身である)、福岡市には西日本鉄道やテレビ西日本、西日本新聞があることを知らないとかはご愛敬なものの、皮肉にも福岡市の課題を浮き彫りにしてくれているような気がする。

牧野氏は、福岡市は自身が住んで感激していたカリフォルニアを彷彿とさせるとして、「福岡はアメリカの西海岸になれる」と主張している。そして実際に海の中道(福岡市東区)や唐津(佐賀県唐津市)の海岸に訪れている。しかし、そこにあったのは未整備の海岸やゴミだらけのビーチ。子どもたちもがっかりというエピソードを紹介している。

次に福岡市は孫正義や堀江貴文を輩出したベンチャー気質の街だという。ところが孫氏は佐賀県鳥栖市出身だし、堀江氏は福岡県八女市出身である。2人とも東京で起業し、福岡市とはゆかりはない。百歩譲って福岡県出身だとしても、堀江は地元について次のように回顧している。

僕が掲げていた最大の目標、それは「ここ」から脱出することだった。それが九州なのか、福岡なのか。あるいは堀江家なのかよくわからない。とにかく、もう『ここ』での生活には、うんざりしていた。(ダイヤモンド社『ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく』)

私も福岡市で中学・高校時代を過ごしたが、その環境が嫌で嫌でたまらなく、大学合格と同時に上京した者である。堀江氏の気持ちは非常によくわかる。福岡は控えめに言って、コンサバティブ(保守的)な土地柄だ。それはスタートアップ都市、国際金融都市を目指す福岡市長の高島宗一郎氏も認めている。

3つめは、住みやすくて、コンパクトシティで、港湾都市で、大学の研究シーズがあるところが、アメリカ西海岸のシアトルに似ているという。しかし問題は大学だ。ロイター社によるランキングでは、ワシントン大学が世界1位に対して、九州大学は68位だ。牧野氏のいうように九州大学は「起業部」(といっても学部ではなく部活動である)が設立されるなどベンチャー育成に力を入れている。しかしこの差は大きい。

この項は牧野氏とその著書を批判するために書いたのではない。福岡市は①アウトドアの環境が未整備で、②コンサバティブで、③大学の国際競争力が低いということだ。

1つ目は、牧野氏のサーチ不足もあるかもしれない。例えば全国的にもブランドが確立している自然豊かな糸島市(私の生誕地でもある)、あるいは温泉なら大分や佐賀、ビーチなら宮崎まで足を延ばしてもいいかもしれない。もっと九州領域全体を使ったリゾートの発掘と利活用が求められるのではないか。
2つめは、コンサバティブな態度を改め、多様性を認め合うことである。青山真治氏の映画が素晴らしいからと言って「九州人の、九州人による、九州人のための映画だ」(キネマ旬報による)なんて絶賛するような姿勢は止めよう。
3つめは、東京大学・京都大学の偏重を改めるべきだ。それには現代日本の深層心理自体を改めるということだ。いいかげんに「東大王クイズ」などに食いつくのは止めて、学生は本当にやりたい研究ができ、評価される大学に進もう。
――というわけで、結局は、優秀な人材と、彼らを魅了する環境づくりということだろうか。福岡には両方そのポテンシャルがあることは、大いに認める。

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