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これまでの成功・失敗事例にみるウェアラブルデバイスの成功要因

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参考: 図解入門 よくわかる最新スマートデバイスのトレンド予測


近年、アップルウォッチやフィットビットなどのウェアラブルデバイスが一般的になりつつありますが、ビジネスとしてこれまでウェアラブルデバイスが成功・失敗してきた過程を振り返ってみてみましょう。

そして、その上でデバイスビジネスが成功する要因はなんなのかを記述しています。


Jawboneの失敗に見る過度な期待、市場ポテンシャルの見誤りの回避

 スマートデバイスは将来性のある投資分野ですが、投資家からの過度な期待によって失敗してしまうケースがあります。スマートデバイスの世界では、マーケットの成熟度や市場規模が想定よりも小さかったり、或いは市場の競争が激化しているといった厳しい事業環境で、営業やマーケティングなど売上を伸ばす施策に多額の投資をするも、売上が想定通り伸びないといったことがよく見られます。

 例えば、Jawboneという2017に破産手続きを行ったオーディオ機器やウェアラブルデバイスを開発・販売する会社がありますが、破産の原因は投資家の過度な期待による破産だと言われています。Reutersは「death by overfunding(オーバーファンディングによる死)」との見出しでこれを報じました。

Sequoia, Andreessen Horowitz, Khosla Ventures, Kleiner Perkins Caufield & Byers, sovereign wealth fundといったトップベンチャーキャピタルが数憶ドルにものぼる投資を行い、2014年には32億ドルの時価総額となりました。しかし、その後時価総額は急激に下がっていき、Blackrockなどから借り入れを行うも、2016年頃にはカスタマーサポートの外注業者に料金が払えず、カスタマーサービスの業者との契約を打ち切ることになりました。また、Jawboneは健康状態を計測する新たなウェアラブルデバイスの開発を行っていましたが、新製品は上手く機能せず、失敗に終わったようです。
 
コンピューター周辺機器の輸出入販売を行うTrinity社のウェブサイトにJawboneのローカライズをしていた人がブログを書いており、要約すると次のようになります。

莫大なファンディングがされるようになると、更なる急速なビジネスの成長が求められ、素早く製品を開発し、売上を増やさなければいけないというプレッシャーに常にさらされるため、急激な成長をさせようとしました。
しかしながら、それまでベンチャーだった企業にはそのケイパビリティはありませんので、急激に人を増やし、組織を作っていかなくてはいけません。元Appleや元HPのマーケティングの人達が続々と採用され、前の会社でやっていたマーケティングをトップダウンでそのまま押し付け、ローカライズはさせない状況でした。カスタマーサポートなどもローカルで立ち上げることが許されない状況で販売店からのクレームも殺到していました。
そんな中で、市場に不完全なプロダクトを投入してしまい、Jawbone UPという製品ラインに品質問題が発生し、ある程度の期間を経過すると動作しなくなり、6ヶ月ほどの期間における不良率は30%を越え、保証期間内である1年で考えると50%を越える不良率であったそうです。
次のバージョンのプロダクトでは比較的改善されたものの、それでもまだ高い不良品率でした。そのような状況下で、販売を拡げていけ、発注を増やせ、というプレッシャーが強くなってくるため、経営陣からも達成不可能に思えるような高い目標設定が求められ、会社の体制が整っていないままに売上拡大を模索するという状況であったといいます。

 このように、投資家の過度な期待によってビジネスを急成長させることに挑戦し、失敗したという事例はスマートデバイスの世界ではいくつかあります。特にコンシューマー向けのアクティビティトラッキングデバイスはFitbitやApple Watch等の有力プレーヤーとの競争は避けられませんので、短期的な収益を立てようとマーケティングに資金をつぎ込んでもシェアを思うように拡大することは難しいのです。



Fitbit, Garminの違いに見るターゲティングの重要性

マスマーケットで苦戦しているFitbit
Fitbitは2007年にアメリカで設立されたリストバンド型のアクティビティトラッカーなどのコンシューマーエレクトロニクスを製造・販売している会社で、2012年頃から急激に成長しましたが、2016年頃より売上の成長が失速し、また利益率もマイナスになっています。

Fitbitは2014年からウェアラブル業界でトップのマーケットシェアを維持してきましたが、2017年の第4四半期でAppleに追い抜かれてしまいました。このような状況の中で、2018年に入ってFitbitのCEOであるJames Parkは「さらにたくさんのスマートウォッチをリリースし、フィットネストラッカーからの事業転換のスピードアップを図る」と言っています。(Reuters2018年2月27日記事)

Apple watchやSamsung GEARなどのマスマーケット向けデバイスに真っ向勝負を挑み、多額のマーケティング費用をつぎ込むもかなり苦労しているように見えます。

直近5年のFitbit社の売上・営業利益率

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出所: S&P capital IQ, Yahoo Finance


特定のターゲットに集中し、高い付加価値を創出しているGarmin

Garminは元々GPS機器を製造する会社として知られていますが、2006年に個人情報のモニタリングやワイヤレスコネクティビティに強味を持つカナダのDynastream Innovationsを買収し、ウェアラブルデバイス市場に参入しました。現在では、売上の約半分がウェアラブルデバイスからの収入となっています。

セグメント別の売上を見ても分かる通り、自動車などで使うカーナビ等の製品の売上に占める割合が減っていき、逆にフィットネスやアウトドア用のウェアラブルデバイス等の売上に占める割合が増えています。

2007年にiPhoneがリリースされると地図アプリなどが普及し、GarminはGPS(マップ)機器の販売に苦労していましたが、ウェアラブル等他の製品に事業の方向を転換し、近年は営業利益率を常に20%以上に保っており、事業の方向転換に成功したと言えます。

直近5年のGarmin社の売上・営業利益率

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出所: S&P capital IQ, Garmin社ウェブサイト


FitbitなどをはじめとするアクティビティトラッカーメーカーとGarminの違いはなんなのでしょうか。

Garminの製品ラインナップを見ると、特定の層にターゲットを絞ったものが多く、例えば、ゴルフプレーヤー向けのスマートウォッチは、事前にコースをデバイスに読み込んでプレイ時に確認できたり、スコアや時間を記録することができます。また、飛行機を運転する人向けのGPSナビゲーション、NEXRAD気象情報ディスプレイ、フライトログ機能などが付いたスマートウォッチなんかも販売しています。

GarminはApple watchやSamsung Gearなどとの競争を避け、マスマーケットでは勝負せずにターゲットを特定領域に絞った付加価値の高い製品をローンチすることで、高いマージンで、かつ不特定多数ではなくターゲットを絞ったマーケティングができるためマーケティング費用も比較的抑えられるため、高い利益率を保持できています。

Garminの売上に占める販売管理費の割合は19.5%で、Fitbitの31.7%と比べ、かなり低いことが分かります。(S&P capital IQ 2017年実績)



Google Glassの失敗に見るアプリケーションの必要性

Google Glass(グーグルグラス)は、Googleが開発するヘッドマウントディスプレイ方式のウェアラブルデバイスで、Google Glass Explorer Editionとして、「オープンベータ」の未完成製品という位置づけで、開発者向けに1500ドルで販売していました。この販売プログラムは米国で2013年に限定的に開始され、当初は承認された開発者のみが購入できましたが、その後徐々に入手しやすくなりました。しかしながら、2015年に一般販売が行われないままに販売が終了しました。

高価格で特定の層への販売ができたため、テストマーケティング的には成功であったという見方もありますが、一般的にはGoogle Glassは失敗に終わったという見方をされることが多く、Googleの最高財務責任者(CFO)のPatrick Pichette氏も失敗を認めるような発言をしています。

Google Glassの問題はいくつかあり、次のような問題が主な理由であるといわれています。


デザイン
プリズム状のディスプレイが飛び出しているデザインが不気味で、いかにもテッキー、オタクといったイメージを周囲に与えてしまうデザインでした。

安全性
自動車の運転中や歩行中にグーグルグラスを使用していると、現在の「歩きスマホ」の問題と同様に、ディスプレイに表示される情報に没入してしまうことで、運転や歩行時の事故につながる危険が増すということで、アメリカでは、運転中の着用を禁止しようと動き出していた州もあったようです。

プライバシー
グーグルグラスは前面にカメラが内蔵されており、ウィンクの動作や音声でのコマンドにより、デバイスに触ることなく写真や動画を撮影することができます。
スマートフォンでの写真あるいは動画撮影であれば、スマートフォンを構えて撮影するため、周りからは撮影していることが明確に判別できますが、グーグルグラスは端末に触れることなく撮影ができるため、周りからは撮影中なのか否かが一見してわからず、プライバシー侵害につながる恐れがあると危惧されていました。また、著作権の問題から映画館等でも使用を規制されました。


これらの全てがスマートデバイスの普及にとって重要なものであると言えますが、特にアプリケーションの不足が重要です。

Google Glassは実用性が低く、メールを読むには画面が小さすぎ、通話をするには聞き取りにくいといった問題がありました。ポケットや鞄からデバイスを取り出す必要がないので写真撮影には便利といった声もありましたが、プライバシー等の乗り越えるべき大きな課題がありました。また、ウェブブラウジングや動画鑑賞などもスマホで事足りるなど、メガネ型にする意味がいまいち理解されないようでした。

例えばiPhoneを例にとると、iPhoneは発表当時から、電話、インターネットブラウジング、音楽、動画鑑賞などが一つのデバイスでできるという売り文句で、それらが所謂キラーアプリとなって普及の手助けとなり、また、AppstoreはWhatsAppやUberのような巨大なビジネスがひしめくエコシステムとなり、人々のコミュニケーションやショッピングの在り方を再設計するものとなり、広く定着しました。

このように分かりやすいキラーコンテンツが発売当初にあり、それから時間が経つごとにユースケースが広がっていくことでデバイスが普及します。Google Glassにおいてはその点が弱かったのではないでしょうか。

一度は失敗と言われたGoogle Glassも業務用に特化し、再リリースすることで再起を遂げるのではと言われています。

例えば、農業機器を製造・販売するAGCOでは注文の多くがカスタムオーダーであり、それぞれ異なる仕様を確認するために、作業員が10数メートル離れたノートPCと作業台の間を何度も往復していました。Google Glass導入後は、作業を続けたまま音声操作で仕様書やマニュアルを参照したり、チェックリストを更新できるようになり、組み立て時間の25%削減、検査時間の30%削減を実現できたそうです。作業中もGoogle Glassに手順が表示されるので、熟練度の低い作業員でも作業をこなせるようになり、以前は10日を要していた作業トレーニングが3日で済むようになったそうです。

このように、明確なコンセプトや提供価値があり、メガネ型にする意味がはっきりわかるようなユースケースが確立されれば徐々に普及していくでしょう。 


デバイス売りからプラットフォームビジネスへ

iPhoneとApp store、KindleとAmazonなどが代表的な例ですが、スマートデバイスの普及にはプラットフォームが欠かせなくなってきています。App storeのような開発コミュニティ・マーケットプレイスを通じて様々なメリットが生み出せます。

例えば、App storeの例にとれば、ネットワーク効果(ある人がネットワークに加入することでその人の利便性だけでなく、ネットワークに所属する他の人の利便性も上がる効果)によってアプリ開発が増え、キラーアプリが生まれやすくなり、それに伴い、デバイスの需要も高まります。

スマートウォッチは元々はスマートフォンに付属するようなデバイスという位置づけとなると考えられてきましたが、いくつかのスマートウォッチはスマートフォンにペアリングする必要なく使えるようになっています。Android Wearは代表的なスマートウォッチプラットフォームの一つで、このプラットフォームを使用しているスマートウォッチはスマホに依存することなくスタンドアローンで作動します。他にも、Tizen OSで動作するSamsung GearやApple WatchのwatchOS 4というウェアラブルOSなどが挙げられます。

フィットネス、アクティビティトラッカーでも同じ動きが見られ、FitbitはFitbit StudioというIDE(統合開発環境)がありますし、GarminもConnect IQ SDKとHealth API、 Connect APIといったAPIを使用し、アプリを開発することができます。

また、HTC ViveやOculus RiftなどのVRゴーグルやEpson MoverioやSony SmartEyeglassなどのスマートグラスも同様のプラットフォームを有しています。

このようにスマートデバイスにはプラットフォームがつきものですが、iPhoneとApp Storeのように上手くいっている例は多くありません。


ハーバードビジネスレビューの「6 Reasons Platforms Fail」という英語記事の中で、プラットフォームが失敗する理由についていくつか紹介されています。

① オープンネスの最適化
例えば、1980年代のAppleはオープンネス(公開性)のマネジメントに失敗しました。Appleはデベロッパーにソフトウェア作成の際に必要な特定のツール等の使用に関して課金してしまい、その後、顧客とデベロッパーを繋ぐプラットフォームの構築に苦労しました。一方、Microsoftは、Windowsをソフトウェア、ハードウェアデベロッパーに対してオープンにし、独占的なプラットフォームとなりました。Appleはその後、iOSをオープンにし、成功を収めました。

② デベロッパーのエンゲージメント
Johnson Controlsは2013年にデベロッパーを招致し、Panoptixというオフィスやビル向けのエネルギー最適化プラットフォームを構築しようとしましたが、2015年には新しい応募を中止し、外部向けのAPIサポートを打ち切りました。結果として十分なPanoptix向けアプリの作成はできませんでした。

③ 利益の共有
プラットフォームは消費者、生産者、プラットフォーム全てwin-winの関係でなければならず、関係者のだれかが得をし、だれかが損をするというようなものであれば、損をしている人が抜けて行ってしまうのでプラットフォームが成り立ちません。2000年にダイムラー、フォード、GM等を含む自動車メーカーはCovisintという自動車パーツのサプライヤーと買手を結ぶプラットフォームに投資しました。しかしながら、このプラットフォームのオークションシステムは、サプライヤー同士の激しい競争に発展し、結果としてサプライヤーがプラットフォームから抜け、プラットフォームの収益性も低下しました。

④ 正しい層を惹きつける
プラットフォームによっては、生産者よりも消費者を惹きつけたり、逆のパターンもあったり、或いは両方惹きつける必要がある場合もあるでしょう。正しい層を惹きつけることが重要です。Google Healthは、消費者の健康情報を統合するためのプラットフォームを志向しており、検索エンジン、メール、マップなどにおいて消費者を惹きつけるのが得意なGoogleは今回は生産者側を惹きつける必要がありました。医者や保険会社などがプラットフォームを使えば消費者も使うようになると見込んだのですが、データの漏洩などのセキュリティ上の懸念から使用されるケースは少なく、失敗に終わりました。

⑤ 収益よりもクリティカルマス(サービス普及に最低限必要な顧客)を最初に取り込む
BillpointというネットオークションのeBayがPayPalよりも以前に使用していた決済システムがあります。Billpointは不正予防を売りにし、高い決済手数料をとっていました。対して、PayPalは簡単に使えるということを売りにし、ユーザーが他のユーザーをサインアップさせると5ドル~10ドルが付与されるというシステムもありました。結果は明白で、PayPalはすぐさまeBayの決済システムとしてBillpointを追い抜き、また、eBayは2002年にPayPalを買収しました。Billpointは普及する前から収益に重点を置いてしまい、重要なマス顧客を獲得できなかったことが失敗要因と言えます。

⑥ イマジネーション
ソニーやヒューレットパッカードなどの失敗として、プラットフォームではなく製品そのものに重点を当てて販売をしてしまったことが挙げられます。例えば、ソニーはウォークマンで世界を席巻し、その後も世界初のCDプレーヤーを創り出し、2011年まではプレイステーションは最も売れたゲームコンソールの一つでした。しかしながらこれらのプロダクトはプラットフォームを創ることよりもプロダクトそのものに焦点を当てていました。その後、iOSが世界を席巻したことは言うまでもありません。


このように、特にコンシューマー向けのスマートデバイスを扱うプレーヤーはデバイス自体よりもプラットフォームに重点を置いてビジネス全体を設計する必要があります。ステークホルダー全員が利益を享受できるようなプラットフォームを設計し、短期的な収益ではなく、最初はクリティカルマスを取り込むことに重点を置くといったことに注意しなければいけません。


いかがだったでしょうか。

デバイスメーカーの失敗と成功に学べる部分は多くあったのではないでしょうか。

もっと詳しいスマートデバイス、ウェアラブルデバイス、およびIoT、AI、VRといったテクノロジートレンド、将来予測は下記の本に詳細に書かれています。

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図解入門 よくわかる最新スマートデバイスのトレンド予測

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