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王神愁位伝 第1章【太陽のコウモリ】 第9話

第9話 太陽城

ーー前回ーー

ーーーーーー


”カツン…カツン…カツン”
坂上は幸十の肩を持ち、半ば強引に医療室を出た。
部屋を出ると、部屋とは反対側の壁が一面ステンドグラスで作られており、外からの太陽の光で廊下に彩りをもたらしていた。
医療室を出た事のない幸十にとって、その光景は今までに見た事のない光景だ。今まで暮らしてきた環境では、いつも暗くこんなに光が照らされた場所を見たのは初めてだった。

「ー!」
廊下に出た瞬間、幸十は思わず立ち止まって目を見開く。
これでもかというくらい、自身の瞳にその光景を残そうと言わんばかりだ。
立ち止まる幸十に、坂上は幸十の方を見た。

「幸十くん?どうしましたか?」
”キラキラ”

いつものように表情の変化は乏しいものの、坂上の目には幸十の瞳がどことなく輝いているように見えた。
そんな幸十の様子に、クスっと微笑むと坂上は言った。
「幸十くん。よろしければ、以前お話ししました通り、太陽城を案内しましょうか。案内と言いましても、無駄に広い城ですので全ては難しいですが。全体像をご説明しますよ。ここ以上にキラキラした場所もありますよ。」

その言葉に幸十はすぐさま頷くと、坂上はそのまま幸十を連れて歩き出した。廊下を暫く真っ直ぐに歩いていくと、天井の高い大きなホールに出た。
ホールには数人の人々が行き来している。
その真ん中には、先端が太陽の形をした杖を持つ男性の銅像が聳え立っていた。頭にはかんむりがはめられている。
そして、その男性の周囲を怖い形相をした龍の像がまとっていた。

「これは太陽王の像・・・・・ですよ。」
幸十が像をじっと見ていると、坂上が説明した。
少し癖毛のある長髪と、凛とした成端な顔立ち、豪華な衣装が、王の威厳を感じさせる。

「怖い何かがいる。」
幸十が龍の像を指すと、坂上はクスっと笑った。
「そうですね。あの龍は、この城の番人・・・・・・と言われております。いつどんな攻撃を受けようとも、この番人と、太陽神に直接創造された太陽王・・・・・・・・・・・・・・が守護すると言われ、ここは最も安全な場所だと言われています。どんな攻撃でも、ね。」
念を押すように、人差し指を立てる坂上。

「・・・その龍は、どこにいるの?」
「そうですね。番人さんはシャイ・・・なんです。」
「シャイ?」
「はい。あまり人との交流を好まない方です。番人さんに会ったことのある人はほぼいないでしょう。ですから、番人さんの存在は古人の噂や伝説上の物語と言う人もいます。」
「そうなんだ。でも実在するんだろうね。」
「え?」
太陽王と龍は仲良さそうだ・・・・・・・・・・・・。」

凛とした顔立ちの王と、怖い表情の龍を見て言う幸十に、坂上は思わず噴き出した。
「っふ。あははっ。あの像を見て仲良さそうと言った人は、幸十くんが初めてです。」

坂上が笑っていると、幸十は不思議そうに像を見た。
「でも・・・お互いを信頼しているように見える。うん。」

そう言う幸十の表情に、坂上は少し驚いていた。
ここに来てからずっと表情の変化がなかった幸十が、その像を見て少し優しく微笑んでした。
その表情は、まるで産みの親が子供をみるような・・・・・・・・・・・・・・・・そんな表情だった。

「ー坂上?」
坂上が驚き言葉を失っていると、幸十が坂上の顔を覗き込んだ。
「あ・・・えぇ、すみません。行きましょうか。」

坂上は気を取り直して、大きなホールの先、大きな扉へ幸十を連れて歩いていく。
周囲を見下ろすように聳え立つ大きな扉は、背の高い坂上の10倍くらいの高さはありそうだ。白と淡いブルーのタイルで作られており、空模様を再現しているようだった。

坂上が扉の前に立つと、大きな扉は自動的に開き、坂上と共に幸十は扉を通って外に出た。
「!!!」

城の外に出て、幸十は再度驚いた。
城をでて見えた光景は、太陽の光を吸収し、様々な色あいで反射させる澄んだ湖と、その先に新緑の森、そしてその先に街がどこまでも広がっていた。
視界を遮るものなどないこの広大な光景は、自分を小さく感じさせる反面、どこか解放感を感じさせた。
頭上には何処までも続く青い空に、存在感を示す大きな太陽が一面を照らし、広大に続く太陽族領地を温かく照らしている。

”キラキラ”
またもや目を輝かせ、一面に広がる外の光景に釘付けになる幸十。
太陽城にあまり来たことのない人々は同じく感動するが、感動する先は城や澄んだ湖である。外の光景に感動している幸十とは、少し異なって見えた。
そんな幸十の鮮やかなオレンジ髪と輝く黄色い瞳は、空に浮かぶ太陽そのもののように坂上は感じた。
「・・・感動しましか?わかりにくいですが、幸十くんの表情がキラキラしているように見えます。」
「うん。キラキラがいっぱいだ。」
「そうですか。嬉しそうで何よりです。それでは、太陽城の全体を少し、ご説明しましょう。」

そう言って、坂上は幸十の視線を城の方に移させた。
「太陽城は、大きく分けて3つの建物・・・・・でできております。全体的にはコの字型の造りとなっており、正面から右側にある、私たちが今出てきた建物が”空の宮殿”です。スカイブルーと黄色を基調とした鮮やかな色合いと、奥の大きな時計台が特徴です。ここは、太陽城で働く人たちの職場や、教会・学校などが集まってます。ここで働いたり、学んだり。息がつまりそうな場所ですね。」
最後にちょびっと毒をはいた後、笑顔を崩さず坂上は向きを左側に変えた。

「そして、隣の正面に佇む建物は”光の宮殿”です。この城の中心であり、太陽王の住む宮殿です。オレンジ色と黄色を基調とした色合いと、なにより、ドーム型の大きな塔は、一部の太陽王から許しを得たもの・・・・・・・・・・・・・・・しか入れない謁見場所です。ドーム型の塔の隣にある大きな建物も光の宮殿ですが、空の宮殿に直結しております。」
坂上が指すドーム型の黄色い塔は、この城の象徴とも見えた。
空の宮殿の時計台も特徴的ではあるものの、この城を見たときに一番目に着くのは光の宮殿の黄色いドームであった。

そして、坂上は説明しながら”空の宮殿”と、王の住む”光の宮殿”を進んでいく。
流石は広大な城。中々に歩く。しかし、幸十にとっては関係なかった。
見るもの全てが、こんな彩艶やかな光景は初めてだったからだ。
歩いている最中も、様々な所に視線を移していた。

ーしばらく歩いていると、何やら大きな門・・・・に当たった。
黄色と青を基調とした大きな門の一番高いところに、太陽を表すシンボルが掲げられており、存在感を出していた。

「ここは、太陽城の正門・・・・・・です。ここの城に入るためには、この門を通らないといけません・・・・・・・・・・・・・・。」
そう言われても幸十はいまいちピンと来ていなかった。
何故ならこの大きな門は、特に普通の門であり、誰もが入れそうな門だったからだ。見張りなどもいない。
そんな幸十の表情を見て、坂上はにこっと微笑んだ。

「誰でも入れそうに見えますが、誰でも入れるわけではありません・・・・・・・・・・・・・・・。この門を通る人は、番人さんに認められた人・・・・・・・・・・・だけが入れると言われております。」
そう言われて、幸十は先ほどの怖い龍の像を思い出した。

「龍?」
「そうです。」
「認められるって、どうやって認めてもらえるの?」
「そうですね・・・。難しい質問です。私もよく分からないのです。」
「・・・?」
「番人さんの見立て・・・といいますか・・・気分といいますが・・・。たまに機嫌が悪いと誰も入れてもらえなくなります。以前なんて、誰も入れず仕事ができなくて、ちょっとしたパニックになりましたよ。ははっ。」
とりあえず笑う坂上。

「番人は、気分屋なんだね。」
「そうですね。まぁ、入れなくなってもいつかは入れますので。気長に待ちましょう。」


そして、そのまま門を出ると、何やら怪しい建物・・・・・が見えてきた。

”ーモワァァアン”
薄いグレーと暗い水色を基調とした建物だが、見た目はどこか暗い洞窟・・・・を思い出させる。建物からは、呪われているのではと感じるような、何やら黒いもやが出ており、鬱蒼としている。
誰しも近づくことをためらいそうな、キラキラと輝く太陽城に似つかわしくない一角だ。

その建物が見えてきたところで、坂上は足を止めた。




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