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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第24話

第24話 太陽の泉

ーー前回ーー

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太陽たいよういずみ

それは”太陽から見放された土地・・・・・・・・・・・”シャムスに、神からの最後の慈悲として与えられた癒しの泉・・・・である。

太古の昔、シャムス地方も太陽の昇る土地だった。
他の地方と同様に太陽に愛されていたが、シャムスの民が罪を犯し太陽神を怒らせたことにより、太陽が姿を隠す土地となった。

代わりに冷たい雪が吹雪き、寒さがシャムスの民を襲った。その雪は、罪を犯したシャムスの民に与えられた罰の象徴とされる。

しかし、シャムスの民が罪を犯して年月が経った頃、太陽神は極寒の地で生き抜くシャムスの民を不憫に思い、涙を流したという。
その涙がシャムスの土地に落ち、出来たのが太陽の泉である。

太陽神の涙はシャムスの最北端の氷山に落ちると、涙が落ちた場所を起点として氷山にヒビがはいり、温かい泉が湧きあがった。

この泉は、この極寒の地でも関係ないとでも言うように温かく保ち、人々に安らぎを与え傷を癒す、そんな効果を持ち合わせ、太陽のような温かさから、”太陽の泉”と呼ばれている。


”ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥウゥゥウウ~”
「ひょえ~、そうなんや。なんや、シャムスの人々は何かあかんことしたんか?」

"ゴンッ"
「っっっいっ?!?!!」
「まったく、こんなの勝手に作られた迷信よ。あたしらシャムスの民が、そんなことするかっ!」
夕貴は拳を握りながら、苛立っていた。

シャムス軍 軍隊長の夕貴と幸十たちは、超特急で走らせたソリにより、太陽の泉のある氷山についていた。
時刻は夕方。夕貴が予想した通りに着いた。

氷山の入り口には何やら木札があり、そこに太陽の泉にまつわる話が書かれていた。

「観光を盛り上げるために設置したのでは?」 
ココロが聞くと、夕貴は依然不機嫌そうにしていた。

「まったく・・・いたるには、こんなの早く取り払えって言ってるんだけどね。参謀本部アホどもに、外すなと言われて出来ないって言うんだ。何が外すなよ。こんなの・・・」
文句たらたらに、夕貴はその木札に近づくと・・・

"ズボッ!!"
「え」
「あ」

180㎝ほどある夕貴と同じ高さの大きな木札を軽々と地面から引っこ抜き・・・

"バキィィィィィィィイッ!!!!!!!"

「ひぃっ!!」
「ちょっ!!」
見事に真っ二つに折って、地面に捨てた。

「ふんっ。どんなもんだい!」
得意気にする夕貴に、ココロ、洋一、琥樹こたつは顔を真っ青にした。

「こ、これ、大丈夫なんですか?」
恐る恐る、ココロが聞くと、夕貴は首を傾げた。

「?何でだい?太陽の泉はあたしらシャムスのもんだ。それをどうしようとあたしの勝手だろう?」
「え、あ、いや・・・」
戸惑うココロも、夕貴は関係ないと気持ちよく背伸びした。

「よしっ。じゃ、時間もないから行くわよ。」
夕貴は吹雪く氷山を指し示した。
その奥、中心部と思われる場所からは湯気が出ている。

「こんなに吹雪いているのに・・・氷山から湯気が・・・不思議だな、本当。」
ココロが驚いていると、夕貴が幸十たちの方を振り返って、洋一と琥樹こたつを指差した。

「よしっ、じゃ、洋一と琥樹あんたらはあっち。西側の山を探索ね。ここでお別れよ。ココロと幸十あんたらは、あたしと一緒にもう少し先の分岐点で別れるわよ。」
「と、と、ととととととりあえず、シャムス軍の隊員を探せばいいんですよね?」
怖いのか寒いのか、幸十に抱きつきながら震えている琥樹こたつ
首都シャムスではあまり雪が降っていなかったが、ここ太陽の泉は最北端なだけあって、かなり吹雪いており冷たい風と雪が幸十たちを襲う。

「そうよ。万が一マダムに遭遇したらボコボコに倒していいわよ。」
「俺、まだ、そんなに力戻ってない・・・ぐすっ・・・」
琥樹こたつはフィジー村でセカンドの力を使い果たしており、まだ全回復している訳ではなかった。

"ガシッ!"
そんな不安気な琥樹こたつを、洋一がガシッと掴む。
「なんや、琥樹こたつ!大丈夫や!俺がおる!何かあっても、洋一様のすっばらしい策で、ちょちょいのちょいっ!や!」
「やだもう!それが一番怖いんだよ!洋一さん、突拍子もない策ばっか思いつくじゃん!!俺何回死にかけたと思ってるの!」
「万が一、危ない時は私に無線しなさい。昨日かがりに登録してもらったろう?」

洋一と琥樹こたつは、胸につけた太陽のブローチを触った。
この太陽のブローチは、ただのブローチではない。無線もついており、ある程度近い距離では通話が可能だ。
「別に、戦うためにここに来たわけじゃないわ。あくまで探索よ。ただ、人が消えたり、マダムがでてるだけだから。」
「それが怖いの!!!!!」

必死に叫ぶ琥樹こたつをよそ目に、夕貴たちは氷山の真正面の道を歩きはじめた。
「じゃ、また後で。小汚いガキども。」

そう言ってココロと幸十を連れ、手をふり夕貴は歩いていく。
「さっちゃぁぁぁぁぁぁぁああん!!!」
琥樹こたつが泣いてる。」
「いいから。いくよ。」

今生の別れかのように泣き叫ぶ琥樹こたつを指さす幸十は、ココロに引っ張られそのまま夕貴の後ろに付いていった。



(・・・んー、やっぱり何かいるね。)

氷山の中に入り暫く歩くと、夕貴は何か・・を感じ取った。
夕貴が何やら考えていると、ココロが口を開いた。
「・・・そういえば、私たちが出発する前にイタルアサーカス団の人たちが首都を離れていくのを見ました。首都に地方庁長もいない状態で大丈夫ですか?」
「しょうがないだろう。」

そっけなく一言返すと、ココロは夕貴の表情を伺いながら続けた。
「・・・地方庁長が、地方庁その場を離れるとはあまり聞いたことがなかったので・・・。イタルアサーカス団彼らは、このシャムスを元気つけるために各地で芸を披露していると聞きました。」
「ぁあ。」
「・・・他にも、何か目的・・があるんじゃないですか?」

すると夕貴はピタっと足を止め、ココロの方を振り返った。

「・・・それを聞いてどうするんだ?興味本位か?」
夕貴の冷たい視線と声色に、ココロは思わずたじろいでいた。


ーー次回ーー

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