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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第13話

第13話 壊された者たち

ーー前回ーー

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"ガタガタガタッ"

「いっやぁ~、色々助かったよ。本当迷惑かけ・・・ゴフォ!!!ゴフッ!!」
大量の積荷を乗せて走るソリの大群が、一面雪の地面をかなりのスピードで駆けていく。
ソリを運ぶのは大勢のシカたち・・・・・・・
雪で足の踏み場に困りそうなものの、慣れた足取りで力強く走っていた。

そんな大群の一つのソリで、血を吐きながら感謝を伝えるいたるの姿があった。隣にいたペポとラビは、血を拭くようにいたるに布を渡した。
「あ・・・ありがとう、ペポ、ラビ。・・・ってクサっ!!これいつ洗濯したやつ・・ゴフォ・・・ウォェ!!!」
何日間も使用し尽くした布だったのか、あまりの臭さに昇天するいたる。隣でペポとラビ、同調して洋一がゲラゲラ笑っていた。

"ゴン!!"
「・・・っっっ!?!!」
「お前も一緒になってんじゃない!何歳児だ。」
いつもの様にココロの鉄拳が洋一に降りかかる。

"ヒラっ!"
あまりの臭さにいたるが吹き飛ばした布が飛んでいく。・・・と、少し奥でぐったり倒れていた琥樹こたつの顔に落ちた。

「・・・っっっっつわ!!!!?くさっ?!?何!!!何これ!え!?!マダム?!?あ・・・」
"ガクッ"
飛び起き思わず琥珀色のイヤリングを触る琥樹こたつ
しかしセカンドの力を使い切った琥樹こたつは、その場でふらつきまた倒れた。

琥樹こたつ、大丈夫?」
倒れた琥樹こたつの近くで幸十が覗き込む。

「ぅぅぅえ・・・さっちゃん~・・・力が中々戻らないよ~・・・」
鼻水と涙を大量に流しながら、顔をぐしゃぐしゃにして幸十に訴える琥樹こたつ

琥樹こたつ、すごい顔だ。」
「・・・うるひゃい。」
フィジー村でマダム大量発生の事件に巻き込まれた幸十たち。
何とか大量にいたマダムの大半は、ココロの作戦と琥樹こたつの捨て身の攻撃で倒すことが出来たものの、逃した3体は幸十の攻防とココロの援助、そしてセカンドらしき力・・・・・・・・を持った那智、風季によって危機一髪乗り切った。

不幸中の幸いで死亡者が出なかった村人たちは、イタルアサーカス団や幸十たちにお礼を言い、村の復興に勤しんでいた。

その後、シャムスの首都に向かおうとした幸十たちだったが、イタルアサーカス団も首都に向かうということで同席させてもらっていた。
最初はココロが断ろうとしたものの、セカンドの力を消費し切った琥樹こたつと、コウモリの翼をうまくコントロールできない幸十がいては飛行での移動は難しいと判断し、言葉に甘えることにした。
洋一やココロ、幸十も特に大きな傷はなく、小さなかすり傷はすぐにイタルアサーカス団で治療してもらった。

琥樹こたつはというと、セカンドの力を使い果たし全身に力が入らなのか、起き上がるのも難しい状態だった。
「おいおい、琥樹セカンドの坊主。あんま動くんじゃねぇぞ~?一気にセカンドの力を使い切っちまったんだから、その反動で身体が驚いてやがるんだ。防衛本能で筋肉が硬くなってんだから、そんな動くと筋肉切れっぞ~。ははっ。」

那智が帽子を人差し指で回し、酒瓶を片手に言った。
「ひぃ!!やだ!!これ以上痛いのやだ!!」

琥樹こたつはぷるぷる震えながら、与えられた毛布にくるまった。
ニッと笑い、琥樹こたつを揶揄うのを楽しむ那智。
そんな那智や、奥で寡黙に道具の整理をしている風季を見てココロが聞いた。
「貴方たちは・・・セカンドですか?」

ココロの問いに一瞬周囲静まり返ったが、那智は変わらず酒瓶に直接口をつけ、ぐびっと飲んだ。
「ぁあ。そうだぜ?俺と風季、あと奥でビクビクしてる榛名でっかいのもな。」
「なんや!?あんさんらセカンドなんか?!!」

驚く洋一を横目に、ココロはあまり驚いてなかった。
「やっぱり・・・。セカンドが何故・・・」
軍にいないか・・・かな?」

ココロが聞こうとして、いたるが被せた。
「ーぇえ。セカンドの力を持った者は、太陽族では軍に所属する規則となってます。でも貴方たちは、軍に所属しているようには見えません。もしやシャムス軍の一員でしたか?」
「・・・別に違反してねぇぞ?何せ俺たちは捨てられた・・・・・んだからな。」
「捨てられた・・・?」

那智が長い足を組み替え、再び酒に口をつけた。
その様子にいたるは少し息を吐くと、ココロや洋一たちの方を向き弱々しく笑った。
「俺たちイタルアサーカス団は・・・そうだな・・・。戦争で壊された者たちの集まり・・・・・・・・・・・・・・なんだ。」
「壊された・・・?」

ココロが聞き返すと、奥にいた風季が近くに来て左肩を前に出した。
「俺は、この戦争で左腕・・を亡くした。那智は両足・・。榛名は健康な心・・・・。セカンドはセカンドでも、もう戦えない足手まといと判断されたんだ。」

風季の説明に那智はズボンの袖をまくると、義足が現れた。
「それは・・・追い出されたってことですか?」

ココロの問いに、那智は度々酒を飲みながら立ち上がった。
「まぁ、そうだな。お前たち本部は、1人でも多くセカンドを集めて戦力を確保したい。だが現場のセカンドたちは、戦えないセカンドは足手まといなだけだ。俺たちだけじゃないぞ。追い出されたのはもっといるはずだ。セカンドはプライマルのように戦う以外に働くことを許されてねぇ。軍を追い出されたら、イコール死ねってことだよ。」

ココロを指差し那智は言い放つ。
「なんやそれ。ひどい話やないか。本部でそんな話、聞いたことないで?!」
「・・・いや、」
「なんやココロ。あんさん知ってたんか?」
「俺たちは知らない。少なくとも俺たち調査部隊は。でも・・・」
上層部・・・は・・・だろう?」

いたるはココロに問いかけ、ココロは頷いた。
「見て見ぬふりをされてるんだと思う。その証拠に、追い出されたセカンドたちは、必ずこの極寒の地シャムスに追放される。シャムスは他の地方に比べて地方庁も軍も発言力が弱い。だから、この実情を訴えたって誰も相手にしてもらえないんだ。」
「なんで発言力弱いんか?」
「シャムスのこの一帯は、太陽族領地のお荷物・・・・・・・・・って言われてきたからだ。」

ココロが口を挟んだ。
「お荷物?」
「ここは年中雪か曇りの天候だから農作物も育ちにくいし、こんな豪雪地帯では人も寄り付かず商売も発達しにくい。太陽族にとってメリットが少ない地域ってことだよ。」
「お、なんだココロおまえ、よく知ってんじゃん。ここまでストレートに言ってきたやつ初めてだよ。がっはっはっはっ!!」

那智は酔っているのか、鼻と頬を赤く染め豪快に笑った。
「ははっ。ココロきみの言う通りだよ。でも良いところもある事にはあるんだ。さっきのフィジー村で動く雪だるまに会っただろう?あれは、村の子供たちのセカンドの力なんだ。普通、セカンドの能力が現れると否応なしに軍の管理下に置かれるけど、シャムス地方ここは15歳までは自由を保証してるんだ。子供たちに、幼い頃から戦争のトラウマを持って欲しくなくてね。そういう独自の政策とか色々やって、少しでも住みやすいようになってるんだよ、シャムスは。まぁ本部の人たちを目の前にして言っていいのか分からないけどね。」

いたるは、外を見ながら目を細めた。
「やけに・・・詳しいですね。シャムス地方庁の職員ならまだしも・・・」

シャムスの政策についてぺらぺら話すいたるに、ココロが怪しげに見つめているとー

「・・・ぷっ。」
ココロの言葉にいたるは一瞬ぽけっとし、少しして笑い始めた。周りの那智や風季、榛名さえ笑う。
ココロや洋一が戸惑っていると、笑いを必死に堪えながら那智が言った。

「がっはっは・・・ふふっ・・・詳しいも何も、こいつがシャムス地方庁のおさだからな。」
「え」

ココロや洋一が驚いた表情をすると、いたるは恥ずかしそうに照れていた。


ーー次回ーー

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