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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第8話

第8話 開幕

ーー前回ーー

ーーーーーー


イタルアサーカス団!!開演!!!

その言葉と同時に、いつの間にかピエロの格好に着替えたいたるが大きな球に乗り、テントから飛び出してきた。
後を続くように、風季ふうきが火のついた木の棒を右手で器用に振り回しながら現れ、巨体の榛名はるなは、小さな体のペポとラビに軽々と担がれながら登場した。榛名は怯える表情を隠しきれてないようだが、その後ろからは様々な動物が現れた。

「おおーー!!イタルアの動物たち・・・・・・・・・だー!!」
村人の歓声が大きくなる。
しかし、ココロたちは出てきた動物を見てギョッとした。

「ー!あの動物たち・・・傷だらけ・・・・じゃないか!」

トラ、ゾウ、ライオンや猿など様々な動物が出てきたが、目や耳、足がなかったり、身体中傷だらけだったり・・・。
決して健康と呼べる状態ではなかった。
しかし、元気よくペポとラビが担ぐ榛名の後を歩いている。
周囲が動物たちに注目していると、何やら黒い霧・・・が辺りに散らばり始めた。

「なんや?この黒いやつ・・・」
集結するいたるたちの場所で黒い霧が濃くなると、段々と人の形になり、ライトグリーンの髪をした若い女性・・・・・・・・・・・・・・・・が登場した。
もみあげのみ腰まで伸ばした特徴的な髪をした若い女性は、顔の下半分が何かやけどしたように赤く、唇が見当たらなかった・・・・・・・・・・
身体は茶色のマントで覆われており、顔しか見えない状態だ。

これで全員なのか、集まった団員たちに村人たちは歓声と拍手を絶え間なく送った。

「っは~。すごいなぁ~。なんやこれ?」
洋一も村人たちと同じように、目の前に繰り広げられる圧巻のショーに興奮が抑えきれないようだ。

「うわぁー!!いたるさんのジャドリングすご!!」
琥樹こたつは村の小さな子供たちと一緒に目を輝かせながら、サーカス団のショーに見入っている。

団長いたるのジャドリングや、人々を笑わせるコメディ的演出。

風季は、自分の筋肉質な引き締まった体を使った体力芸。作られた幾つもの火の輪を飛び越えたり、自分を的として村人たちにナイフを投げさせたり、何十キロもあるだろうトラやライオンを軽々持ち上げたりした。

ペポとラビは、小さい体でどういう仕組みなのか、100キロはありそうな榛名を抱え、ちょこまかと駆け回る。
2人に抱えられた榛名は、おどおどしながら何やら手で合図をすると、動物たちが合図にあわせて芸を繰り広げる。
猿が何回転もバク転したり、トラとライオンが逆立ちをしたり、ゾウが小さな球に器用に乗ったり・・・。
どのショーも、村人たちや幸十たちを驚かせた。

一通り団員たちが芸を披露すると、いたるがいつもの様に球に乗って再度現れた。
何やらピンク色の衣装のポッケに手を突っ込むと、何かを取り出す。
出てきたのは、ライオンのぬいぐるみだった。いたるはそのぬいぐるみを見ると、違うというようにポイっと投げた。
次から次へとポケットから色々出てくる。
お菓子、おもちゃの旗、玉、雪まで・・・
慌てふためくいたるに笑う村人たち。

しばらくして、なにやら派手な色の小さな筒状のものを取り出すと、いたるはやっと見つけたというように笑顔になった。その筒状の底から伸びる糸を握ると、一気に引っ張った。

"パーーーーーン!"
大きな音と一緒に様々な色の紙切れが綺麗に舞う。そして、その筒状の先から出てきた折り曲げられた紙をいたるが開いた。
そこにいた全員の注目が、いたるの手元にある紙に集まる。
開くと、そこには大きな文字でこう書いてあった。

”驚異の新人、アカリ・・・のブラックいりゅ~ジョン!!”

村人がその紙を目にし歓声をあげると、同時に周囲がまた黒い霧・・・のようなもので包まれ始めた。

「ぉお~!!」
「なんだなんだ?!?」

次から次へと驚かしてくるイタルアサーカス団。
次は何を披露してくれるのか。そこにいた誰もがワクワクしていた。

ーしかし1人、眉間に皺をよせる者が。

「ねぇねぇ!次なんだろうね!さっちゃん!」
琥樹こたつもワクワクを抑えきれない表情で、隣にいた幸十に言った。

「・・・・・。」
しかし何も答えない幸十に、琥樹こたつが幸十に視線を移す。

「さっちゃん?どうしたの?」
琥樹こたつが見ると、幸十は何やら眉間に皺を寄せて不快感を露わにしていた。元々あまり表情が変わらない幸十であったが、ここまで不快そうな表情を琥樹こたつは初めて見た。

「ーさっちゃん?」
琥樹こたつがもう一度聞き直すと、幸十がボソッと言った。

「なんか・・・嫌だ。」
「え?」

再度琥樹こたつが聞き直そうとした時ー

"バタン"
「?」

何やら倒れる音が。
"バタっ、バタっ、バタン・・・"

「へ、ひ・・・ひぃ!!」

琥樹こたつは驚き幸十の大きなお腹に縋り付く。
それもそうだ。
黒い霧がみるみる充満していくと歓声がピタっと鳴り止み、同時に村人がどんどん倒れていく・・・・・

「な・・・なな・・・なにが起きてるの!!!?」
震えが止まらない琥樹こたつ

「え、こ・・・これも・・・演出・・・だよね?!?ね?さっちゃん!?」
「わからない。」
「えーー!!もー!なにこれーー!!」

幸十のお腹に一生懸命抱きつきながら泣き始める琥樹こたつ
すると、琥樹こたつたちの近くで倒れる人物がー。

"バタ!!"
「ひぃ!!ち、近い!!誰!!」
震えて立てない琥樹こたつを引きづりながら、幸十は倒れた人物に近づくと、それは洋一だった。

「よ・・・洋一さん!!!?え、死んじゃってる?!え、やだ!!嘘でしょ!!」
琥樹こたつが更に涙を浮かべる。
幸十が俯き倒れている洋一をつつくと・・・

"グオー!!"
「・・・寝てる。」
大きなイビキをかき、寝ているようだ。

「な、なんだ・・・良かった・・・」
ひとまず安心する琥樹こたつ

「ココロは・・・」
幸十が周囲を見渡しココロを探す。すると、洋一の少し先で倒れているようだった。
幸十はしがみつく琥樹こたつを引きづりながらココロに近づくと、洋一と同様寝ているだけのようだった。
さらに周囲を見渡す。
黒い霧がどんどん濃くなり、もう半径3メートル以上先の景色が見えず、近くも目を凝らしてやっと判別がつく程度になってきた。
幸十は耳をすますと、多数の寝息が聞こえてきた。

「みんな・・・寝てる?」
幸十と琥樹こたつ以外、どうもみんな寝ている様だ。
何故こんないきなり眠りについたのだろうかー。

「何で俺ら以外、みんな眠っちゃったんだろう・・・。ぁあ、なんか俺も眠くなってきたかも・・・。」
幸十にしがみつきながら弱音をはく琥樹こたつ

琥樹こたつまで寝ちゃだめ。」
「なんで!俺さすがに今日疲れたよ!」
「なんとなくだめ。」
幸十と琥樹こたつが話しているとー

"ゾク!"

幸十は何やら背筋に悪寒・・・・・が走った。

"シャキン!"
「さ・・・さささささっちゃん!!!後ろ!!」

幸十が振り返ると、そこには見覚えのある姿がー。




トカゲのような図体。
大きな口から覗く鋭い牙と、両手の鎌のような手。
額には月の刻印。

そこにいたのは、鎌のような手を向け、今にも襲い掛かりそうなマダム・・・だった。


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