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SNSと金儲けと編集者と

▼2024年1月1日に起きた能登半島の大地震をめぐるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の惨状について。

断続的に旧Twitter(ツイッター、現X(エックス))を見ていたが、ゴミ情報や害悪が急増している。デマの拡散がひどい。災害時にはデマが増える、という法則は正しいと実感した。

▼この状況は、これから災害が起きるたびに、どんどんひどくなるだろう。SNSで人生の時間を無駄遣いしないために、必要な心得は二つある。

ひとつ、インプットする人は、
SNSは金儲けの場である」と心得ること。

もうひとつ、アウトプットする人は、
編集者として振る舞う」こと。

▼以下の新聞記事の抜粋には、当たり前のことばかり書いてあるが、大事なことばかりなのでメモする。適宜改行、太字は引用者。

これらを読むと、SNSとは何なのか、何のためにあるのか、何が欠けているのか、輪郭(りんかく)が少しだけ見えてくる。

▼能登の大地震における、SNSでのデマ拡散問題について、全国紙の中で、2024年1月3日付で見出し付きの記事を掲載したのは、日本経済新聞だった。1月2日付は全紙休刊だったので、3日付が紙の報道の最初だ。

〈SNSで偽情報拡散/送金催促や過去動画流用〉

〈目立つのが、救助要請や電子マネーで個人募金を呼びかける投稿だ〉

〈ほかにも、自宅が倒壊したなどの被害の訴えとともに電子マネー送金サイトへ誘導する QRコード画像を掲載する投稿が見つかった。実際に入金手続きを行ったとする他のユーザーの書き込みも確認できた〉

〈過去の災害の映像や画像を流用した投稿にも注意が必要だ〉

〈SNSの分析に詳しい東京大学の鳥海不二夫教授も「真偽が不確かな情報を拡散しないことが最も重要だ」と指摘する〉

▼この日経記事は、最も早い時点での報道だが、最も重要なことが書いてある。

真偽が不確かな情報は、拡散しない。

これだけだ。

しかし、これができない人が、多すぎる。

なぜだろう。

▼1月4日付の朝日新聞には、

善意のはずがーーSNS拡散、混乱とデマ/「家族が下敷き」根拠不明 救助の妨げ/「人工地震」「窃盗団」偽情報 収益狙い?

の見出し。武田啓亮記者。

〈兵庫県立大の木村玲央教授(防災心理学)はこの背景に、Xの仕様変更によって、投稿の表示数に応じて収益が得られるようになったことがあると指摘する。「愉快犯や他者を攻撃するためのデマに加え、表示数を稼ぐためとみられる虚偽投稿も散見され、状況は以前より悪化している

 こうした投稿は目にした人が善意で拡散したくなるよう巧妙に作られている。「よかれと思って拡散した情報がかえって支援の妨げになったり、差別に加担して人を傷つけたりしている」と注意を呼びかけた。

 ファクトチェック団体「リトマス」の大谷友也編集長は「自分も何か役に立ちたい」という気持ちが利用されていると指摘する。

 情報が本物か虚偽かを完璧に見分けるのは難しいが、そのアカウントが普段どんな投稿しているか、どこに住んでいるのかを確認するだけでもデマを拡散する可能性は下げられるという。

 首相官邸や気象庁、警察や消防のような公的機関、大手メディアのサイトやアカウントで情報を確かめる方法もある。

 外国人への攻撃性を増幅させるような投稿も多い。関東大震災ではこうしたデマが在日朝鮮人の虐殺につながった。「普段から自分が批判したり嫌ったりしている対象を非難する投稿ほど、一度冷静になってみる必要がある。救助を求めた投稿のうち本物がどれくらいあったのかを検証できれば、今後の役に立つかもしれない」と語った。

 立ち止まって考えるための前提として、「SNSは正しい情報が流通する場所ではないという認識を持つことが重要だ」と話すのは東京大大学院総合防災情報研究センターの関谷直也教授(災害情報論)だ。(中略)

SNSは承認欲求を満たすためのウソや、不正確なまた聞きであふれている。『流言は智者に止(とど)まる』 という格言があるように、賢い人はうわさ話や裏が取れない情報を広めない。まずは本当なのかと疑い、確認が取れるまでは拡散しないことが大切だ」と語った。〉

▼上記の記事で、〈首相官邸や気象庁、警察や消防のような公的機関、大手メディアのサイトやアカウント〉が挙げられている。

公的機関や大手メディアの情報には、共通点がある。それは、

プロの手によって編集されている

ということだ。言い換えると、「これは人の生き死にに関わる情報である、ということを弁(わきま)えて、発信している」ということだ。

この共通点は、関谷氏の、そもそも「SNSは正しい情報が流通する場所ではない」というコメントと、表裏の関係になっている。

SNSの情報は、「プロの手によって編集されていない」。

さらに、「SNSは金儲けの道具である」という指摘が重要だ。SNSを使っている人の「心の動き」は、必ず「誰かの商売」に使われている、ということ。すでに私たちは、とても精緻な科学技術によって「24時間、狙い撃ち」状態にある、ということ。その技術は、どんどん精緻になっているということ。

SNSとのつきあい方について、人間はまだヨチヨチ歩きを始めたばかりであるということ。当然、その研究についても、ヨチヨチ歩きであること。

▼1月4日付の読売新聞夕刊は〈SNSでデマ拡散/救助妨げ「命関わる」/「自治体発表など確認を」〉の見出し。

〈「情報の内容について、自治体などが発表する公式情報と照らし合わせる。少しでも疑念があれば拡散しないことが特に重要だ」。防災危機管理を専門にする IT企業「スペクティ」(東京)の村上建治郎社長は話す。(中略)

 東京工業大の笹原和俊・准教授(計算社会科学)によると、うわさの拡散量は「話題の重要度」と「情報の曖昧さ」の掛け算で決まる。災害時は普段よりもデマが広まりやすいといい、「現地での救助活動の妨げにもなりかねない」と警鐘を鳴らす。(中略)

 村上社長は「災害時は、被災地以外からの投稿や拡散は控えたほうがいい」と話している。〉

▼読売記事は、上記の取材内容を要約し、SNSで発信する際の4つの心得(こころえ)を示す。

感情的にならず、投稿・拡散する前に「一呼吸」

元情報や発信者の過去の投稿などを確認

少しでも疑わしい場合は投稿・拡散しない

被災地以外からの投稿・拡散はより慎重に

▼「編集者として振る舞え」という一言をタップすると、この4つの心得が出てくる、と考えればいい。

▼SNSでのデマの拡散、という難題とつきあうために。とりあえず、上記の記事に出てきた専門家の発信をフォローしたり、過去の発信を探したりするのはコスパがいい。

また、さまざまなガイドブックが出ている。

筆者は松田美佐氏による名著『うわさとは何か』をおすすめする。

▼『うわさとは何か』のキーワードは、「曖昧(あいまい)さへの耐性(たいせい)」だ。曖昧さへの耐性を強くする。これよりも的確な言葉が、探してもなかなか見つからない。

▼ほかにも、「戦争になると、どういう暴言が飛び交うか」を克明に記したジョン・ダワー氏の名作『容赦なき戦争』がある。

嫌になるほど多くの実例が出てくる。SNS時代の必読書の一つかもしれない。

こういう本はたくさんある。気が向いたときにまた紹介する。

今年も、長くてあっという間の一年になるだろう。

(2024年1月4日)

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