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「有機的組織の経営はアート思考でなければ成り立たない」

大手一流企業などに代表される比較的大きな組織を統率して運営するためのもっとも効率の良い運用形態は、ピラミッド型権限構造を持つメンバーシップ型雇用形態の組織である。小規模零細の会社でもこの方法をベースに組織を運営していることがほとんどではないかと思う。

しかしながら自分が会社を立ち上げたとき、たかだか十数人規模のクリエイティブ系チームがそれを猿真似したところで上手くいくはずがないだろうと感じていた。会社ごっこの真似事みたいなことをしても、しょせん経営の素人。そもそも会社勤めを経験したことのない自分にはその本質さえ理解できず、猿真似すらできない。しかも典型的な夜型人間だというのに、自分が作った会社でわざわざ毎朝9時とか決められた時間に出社してよーいスタートで仕事をしなくてはいけないなんてナンセンスであると思っていた。

管理されて働くんじゃなくて、自分のことは自分でコントロールして働きたい。いかにして最小限の労力で最大限の効果を発揮し、自由闊達でフリーダムの精神が浸透し、しがらみや消耗が少なく、精神論や恐怖で支配しないような組織を作るべきか。10年近く会社を経営してきて、今の時点で選んだ選択肢は「フラットな組織(有機的組織)」という方法である。感性の高い個人事業主の集合体であり、正社員はいない。就業時間も自由。働く場所も自由。仕事をやるかやらないかを決めるのも自由。気に食わなければ卒業するのも自由。

なんだか夢物語のように聞こえるが、やはり実際にやってみるとそう簡単ではないことが分かった。なぜか?一番の原因は、自分の頭で考えて行動することに慣れている人が思ったより世の中に少ないから。この「フラットな組織(有機的組織)」を作るのに必要不可欠でもっとも大切な要素は、自ら何をすべきなのかを能動的に考えて行動できる人の集合体でなければならないということ。フラットでフリーダムって環境は、裏を返すと自分で考えて行動しなきゃいけないということだからだ。

お手本にしたのは15世紀のルネサンス期にヴェネツィアを中心に広がったアートワークを量産する工房組織。ダヴィンチやミケランジェロに代表されるこの時代のアート作品は、教会や貴族がメインのクライアントだった。アートワークの需要が拡大したことに対応するため、工房(アトリエ)という小規模チームを作ってアーティストたちが効率よく仕事を受注して作業し、納品するシステムを作り上げた。似たようなシステムに室町から江戸にかけて活動した日本の絵師集団「狩野派」があったり、1960年代のポップアートをけん引したアンディー・ウォーホールのThe Factoryとアートワーカーという概念も面白いと思った。

そして、経営者である僕が「フラットな組織(有機的組織)」を目指して試行錯誤してきた過程で、その本質がなんであるかを10年かかってやっと理解することができるようになった。簡潔に言えば「フラットな組織(有機的組織)」を作る=「作業員ではないと自覚することができるような環境と場所」を作ることに他ならないということ。

作業員か職人か、それともクリエイターか

我々の仕事に対する肩書は色々ある。カメラマン、映像クリエイター、シネマトグラファー、ビデオグラファー etc。この業種に国家資格などないのだから、好きに名乗ればいいとは思う。しかし、明確な定義がないからこそ肩書に対しての解釈は人それぞれであり、仕事上で齟齬が生まれるリスクは理解しておくべきだ。ここで自分の解釈するそれぞれの肩書について説明をしていきたい。


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1.作業員とは?

作業員とは与えられた仕事を命令通りの手順で進める要員のことである。かっこよく言えばオペレーター。カメラ機材を体の一部の如く操作して撮影に従事するプロの「カメラマン」という肩書もこの範疇に入ると考えられる。作業員という響きからブルーカラーを想像するが、「与えられた仕事を命令通りの手順で進める要員」と考えるなら、ホワイトカラーであるサラリーマンも一部当てはまる。

2.職人とは?

突出した技巧を習得した熟練作業員に加え、作戦を考えて自身でディレクションや演出まで対応できるプロフェショナルまでを広義の職人と考える。機材に精通していることはもちろん、映像理論についての見識も持ち合わせた戦術家ともいえる。いわゆる「ビデオグラファー」という肩書がこれに一番当てはまるのではないだろうか。

3.クリエイターとは?

ここで唐突ではあるが、お弁当工場を例にとってみる。作業員とはベルトコンベアーの上に流れてくる主食や主菜、副菜を容器のあらかじめ決められた位置に配置していく人。職人とは、作業員の工程をさらに正確に効率よくこなす技術力があり、それぞれの食材をある程度自由に容器内に配置して弁当の付加価値を上げる能力を持っている人。クリエイターとは、ベルトコンベアーで作業をしつつ頭の中で「もっと弁当は自由でいいはずだ」と常に考えている人のことである。


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クリエイターに必要なのは「お弁当はこうじゃなければいけない」という既成概念、固定観念に囚われることなく、「常識」の向こう側に新しい未知の領域があると信じて探求しようとする視点であり、思考である。これを「Art Thinking(アート思考)」と呼び、世界のエリートたちがビジネスに応用しようとこぞって習得しようとしている芸術家的思考法だ。

2万年前の古代人が残した洞窟壁画から現代アートに至るまでの長い美術史を紐解いてみると、アートとは既成概念からの解放の連続であった。つまりアートとは常識を疑い、それを超えようとする思考によって導かれた運動の繰り返しであると言える。

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経営者として考えるべきこと

作業員、職人、クリエイターとざっくりとではあるがそれぞれの役割を説明してきた。それらを一度理解したうえで、改めて組織運営について話を戻そう。我々のような「フラットな組織(有機的組織)」を作ろうとするのであれば、少なくともアート思考の要素を持った人の集合体でなければ成り立たないと思っている。必要なのは一部の職人とクリエイターであり、対して作業員の割合は極力減らさなければならない。とくに小規模チームであればなおのことバランスに気を付けなければ「フラットな組織(有機的組織)」を形成することは難しいだろう。


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経営者としての役割は「フラットな組織(有機的組織)」を作る=「作業員ではないと自覚することができるような環境と場所」を作るということになる。つまり、アート思考が醸成しやすい環境や文化をいかに作り上げ、固定観念に縛られない人材が育ちやすいシステムを設計することにある。いくら人数を揃えてもアート思考を醸成する余地がなければ、従来通りの精神論で消耗戦を強いることになる。これから先、間違いなくAIに仕事を奪われるのは作業員からだ。「そもそも今自分が作っているお弁当は何故この形なのだろうか。これに何の意味があるのだろう。」と自然に疑問が湧きあがり、意見を交換できる仲間がいる環境を作らなければ、理想としているチームは作れないかもしれない。


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