よく考えてみたら『置き配』ってすごいな、と思った話。
昨日、玄関先にAmazonで買い物した荷物が届いていた。
こういう荷物はたとえ家にいても、受け取れないタイミングがあったりする。
その場合、僕は配達員さんに何度も来てもらうのが申し訳ないので、置き配に設定している。
東京にいると、そうして玄関の前に荷物が置かれているのをよく目にする。
これは人の善意または無関心によって、成り立っているシステムと言えよう。
僕らはあまりにも、そのシステムに慣れすぎている。
仮にこんな人間がいれば、置き配に多少の抵抗を覚えるかもしれない。
所持品をすべて質にいれ、家賃を滞納し、やっと家計を工面しているような青年。
生活に困り、明日食べるものさえ知れない。
僕があるいはゲームではなく、パチンコや競馬にハマっていたのなら、彼とおなじような状況になったのかもしれない。
ある日、青年が帰宅すると、隣の部屋の玄関に置き配が届けられていた。
一日、二日、三日と経っても、その置き配が回収される気配はない。
「旅行にでもいってんのかな」
彼はふとした出来心から、その置き配を自分の部屋に持ち帰ってしまう。
置き配の荷物の中は食料だった。
そこには、米やら袋麺やらの食料や調味料が入っていた。
彼の空腹は限界に達していた。
ここ数ヶ月は、もやしが主食になっていた。
彼はその部屋に住んで長いので、アパートに監視カメラが設置されていないことを知っていた。
「これで一週間はもつな……」
彼は隣人の米を、隣人の塩コショウで味付けたもやしでかきこんだ。
そして数年の時が経つ。
彼はとあるグループのリーダーになっていた。
「兄貴! みてくだせえ。このでかい荷物を!」
「やるじゃねえか。どこのだ?」
「四丁目の乙川とかいう一軒家でさあ!」
「ばかやろう! 四丁目は別のクランのシマだ! 何回言えばわかるんだよ。お前ってやつは!」
「すんません……」
「……まあいい。そろそろ四丁目の連中とは蹴りをつけなきゃならんと思ってたところだ。おい。『置き配十箇条』の六条はなんだ?」
「へえ! 『絶対に誰にもみられないこと』でさあ!」
「それは二条だろうが! 六条は『置き配は中身が命』だ。どれだけデカくても、どれだけセンスがよくても、金にならなきゃ意味がねえ。開けてみな。お前の戦利品をみてやろうじゃねえか」
「さすが兄貴!!」
こうして今日も、彼のクラン『置き配死異賦(シーフ)』は飢えを満たすのだった。
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