自分らしさを活かして働けたのは受け止めてくれる島だったからでした
今回お話を伺ったのは、
2022年4月から大人の島留学生として株式会社海士(以下(株)海士)に所属し、隠岐ユネスコ世界ジオパーク泊まれる拠点施設Entô(以下Entô)で勤務していた宮久地さん。
「自分がちゃんと好きだなって思うものや携わっているものをお客様に伝えて、それに興味を持ってもらえる場面が自分はすごく幸せで楽しかった。」
そう話す、宮久地さんに島で働いた1年間を振り返っていただきました。
挑戦したい気持ちを受け入れてもらえそうだと感じて
島を知ったきっかけは、2022年大人の島留学のPVだったという宮久地さん。
打席はいくつも用意されていて、そこに大人の島留学生を立たせてくれるところに魅力を感じたといいます。
宮久地「PVを見つけた当時は、大学を辞めて実家に帰って少し経ったときでした。高校時代の学びを通じて耕作放棄地や過疎、環境保全に興味を持って、当時出会った大学生に刺激を受け必死に勉強して進学しました。ただ、いざ進学してみると講義の内容も大学生活そのものも思っていたものとギャップがあって。」
自分が本来やりたかったことは何だったのか、大学進学の目的について高校からのプロセスを振り返っていく中で何かで人を呼び込むこと・人との関わりに関心が沸いたといいます。
宮久地「人との関わりという点で観光を通じた地域の活性に携わってみたいと思っていました。なので、島に来るまでの時間も熊本の黒川温泉に行って仲居さんとして働いたり。そういった、自分が挑戦したいと思っている気持ちを島なら受け入れてもらえそうだなと感じて応募しました。」
ホテルが地域を循環させる話
具体的にやってみたいことなどはなかったものの、人との交流に関心があったことから観光分野を中心に事業所を見ていたという宮久地さん。(株)海士に所属しEntôで働くことを決めた理由について聞いてみました。
宮久地「事業所紹介で社長の青山さんがホテルが地域を循環させるっていう話をしてくれたんです。例えば、食事として島の食材が提供されることで、島の1次産業が回ること。地域にとってホテルの存在ってすごく重要なんだって話を聞いて。ここかもしれないなって、思いました。」
宮久地「前の黒川温泉とはまた違った客層の方と関わることで、民宿とはまた違った経験ができる。まだリニューアルして1年もたっていない場所(Entô)に関われることにも面白さを感じました。あとは、シンプルにEntôがかっこいいなって思って、フロント業務への憧れもありましたね。」
個性を活かして働ける場所
ホテルスタッフという経験は初めてだったという宮久地さん。
<Honest…誠実な><Seamless…隔たりのない>というEntôのコンセプトと実際の現場。高単価なお部屋の提供もある中で、どうお客様と向き合い接するのかというところで配属当初は苦しんだといいます。
宮久地「島民も、来島者も同じ時間を共有しているような空間を目指しているのがEntô。お客様との隔たりがない状態を目指しながらも、言葉遣いや自身の振る舞いについて考えなければいけないのは大変でした。フロント業務に携わり始めたのがGWのあたりだったこともあり、多くのお客様がいらっしゃる中で覚えていかなければならなかったのも苦労したところでした。」
一方で、受け入れてくれる文化がここにあるから個性を活かしながら働けることが楽しいといいます。”個性を活かして働く”とは一体どんな感じなのでしょうか?
宮久地「Entôスタッフは各々が自分の個性を武器に接客していて。十人十色じゃないけど、色んな接客の形があるんだなっていうのを感じながら働いています。自分には大人の島留学っていう武器もあるし、そういうのを活かしながら接客するのが楽しいですね。また、島の”受け入れる文化”がEntôにも流れているように感じるからこそ、個性を武器にした働き方にも取り組みやすいです。」
そういった雰囲気が”個性を活かして働く”を後押ししてくれているのかもしないなと、お話を伺いながら感じました。
宮久地「あと、こんな職場って他にはないと思っていて。いい意味で上司感がないというか。フラットな職場だなと思います。例えば、新年会。二次会でスナックに行ったら社長と統括マネージャーがカウンターに入って皆のお酒を全部つくってくれて。こんな会社、普通ないじゃないですか。役職やこれまでやってきた仕事、島に来るまでの背景。皆、違うけど個性をお互いちゃんとリスペクトできる環境があるなと感じます。」
社会人経験自体も、1つの会社に1年もいるのも自分には初めての経験だったという宮久地さん。Entôという、いい意味で普通ではないと感じる環境が初めての職場になった一方で、若いうちにこういった職場を経験できたことが良かったと感じているそうです。
宮久地「これは普通じゃないって言われるけど、ちゃんとコミュニケーションが取れているやりとりがあって。ダイニングチームもフロントチームもクリンネスチームも離れているという感覚はあまりないです。それぞれ離れた場所で働いているけど、交流の機会を人事の方が設けてくださったりして。わからないことも気軽に伝えられる雰囲気があります。」
私が伝えたい島の魅力
こういった経験や働き方を通じて、Entôだけでなくホテルが立つ海士町や隠岐という土地・地域についても触れてほしいと感じていると話す宮久地さん。特に、島の受け止めてくれる空気感やここに集まる人等、それらが織りなす環境について自身のエピソードを交えながらお話しをするそうです。
宮久地「お客様とお話しするとき、何がきっかけでEntô選んで下さったのか尋ねるのですが、海士町がきっかけで来島したというよりは、Entôそのものがきっかけで来島した方が多くて。海士町についても触れてほしいなって個人的に思ってて、よく自分の話を交えながら島のことを話しています。」
宮久地「例えば、この島の人の暖かさについて。僕は、仕事や生活・これからどう生きていくか漠然とした悩みがありながらこの島にきたけれど、自分が抱える悩みをこの島の人は受け止めてくれること。また、周りに似たような価値観を持っている人がいるから他にない環境で自分のこれからの人生について考えられていること。」
宮久地「そういったお話しを通じて、僕がこの島の人たちに日々助けられていることを伝えて、島の雰囲気を感じてほしい。そして、Entôの伝えたいメッセージも同時に伝わるきっかけになったらいいなと思っています。また、”悩める若者に出会った”という海士町ならではのエピソードを持ち帰っていただけたら印象強い滞在体験につながるんじゃないかと思っています。」
いつもと少し違う自分で、自分が好きだと思っているものを
宮久地「この仕事を始めてお客様と関わる中で、とにかく接客が好きっていうことに気がつきました。時々、うまく伝えられなくてお客様を困らせてしますような場面もあるんですけど、不器用ながらにも話す中で人と話す楽しさが好きだなと感じています。」
宮久地「この場所・空間に価値があると信じてお客様とコミュニケーションをとる中で、自分がちゃんと好きだなって思っているものや想いを持って携わっているものを、大人の島留学を含めて伝えて。そこに興味を持ってくれる場面が、自分は幸せだったし楽しかったです。」
これからの仕事を考える上でも響くものがあったという宮久地さん。島を出た後も、検討中ではあるものの接客の仕事を考えているそう。
宮久地「自分はお客様との距離感が好きで。いつもとは少し違う自分として話している感じが好きなんです。そこで生まれる、近すぎず遠くない謎の距離感というか。お互い何をしている人なのかとか全然分からないけれど、分からない中で生まれる素敵な関係みたいなのが好きだなと感じています。」
宮久地「あと、本当に輝いている人ってちゃんと好きなことをやっているんじゃないかというのを島に来て気づきました。仕事に情熱を持っているというか。正直なところ、今そこまでの情熱を持てているかっていうとそうではない部分もあって。接客という1つの分野もそうですが、ただ接客するだけでも面白くないのかもしれないなって感じるようになりました。」
これから探していきたいもの
島に来て、何よりも良かったのはシェアハウスでの暮らしだったという宮久地さん。シェアメイトとの時間が一番価値観が見えたり、自身の成長が感じられたといいます。
宮久地「シェアハウスでの暮らしがめちゃめちゃ楽しいです。3人暮らしですごく個性的なメンバーだったけど、こういう人もいるんだ!っていう発見があったり。時々、みんなで内省する時間つくってみたり。すごく真剣に一緒に考えてくれて。そういう時間が一番思い出として印象に残るんだろうなって思います。」
自分のやりたいことがわからない、どうやったらいいか分からないという悩みをシェアメイトに伝えた際には、”好きなものを表現してそれを相手に伝えることが好きなんじゃないか”という話が出たといいます。宮久地さん自身もそうだなと納得のいく部分もあったようで…。
宮久地「お客さんに大人の島留学のこと伝えるときもそうだし、島のことを話す時もそう。高校の頃もクラスメイトに勉強教えたりするのが面白くて、農業の先生にもなりたいって思ってたことを思い出したんです。教える・伝えるみたいなのが楽しかった。今は、なかなか上手く伝えられない部分もあるし、まだ具体的に誰かに伝えたいことは分からないので、これから探していけたらなと思っています。」
「自分から”これにはこういう価値があるんです”って売り出したり、それを提供できるように、その情熱を持てるような何かに出会うためにもっと色々な経験をしたい。まだまだまだまだ模索中だし、漂流中です!」と締めくくってくれました。
あとがき
悩んでいる途中で、やってみたいことがなくても
空振ったっていいじゃないかと打席に立たせてくれる場所。
個性を受け止めて互いにリスペクトしながら働ける
いい意味で普通ではないと感じる場所。
島で働き、暮らす日々の中に自分だけの原体験がきっとあるはずです。
(インタビュー・文/田中)
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