マガジンのカバー画像

視覚に囁く『小ご絵』

1,340
いつも大きくて立派な扉ばかり見せられてきたように思う。 深く考えることなく、大きくて立派な扉ばかり追いかけてきたように思う。 だけどいつもうまく開けられるわけじゃない。 ある… もっと読む
運営しているクリエイター

#創作大賞2023

待ち人ピアノ

 光取りの半円形の高窓から、満月から2日欠けた月が家の中に朧な光を投げかけていた。高窓に…

心の片隅には、いつだってバイクがあった

  「また買うの?」 「だって、林道用がないんだもの」  街乗り用、ロングツーリング用、か…

お向かいのヒト。

 窓から見えるお向かいさんは、今日も遅くまで仕事に励んでいた。やましいことは何ひとつない…

みんなの後遺症。

 罹患してないから関係ない、なんて早合点しないで。陽性になった人もならなかった人も、この…

その顔の理由。

 最近コンビを組んだカメラマンが、親しくしていたカメラマン仲間の話をぼそっと語ってくれた…

最近テレビが面白い。

 テレビは面白くなくなった(沈みゆく船が次第に傾くみたいにして)とずっと思っていた。画面…

初恋は深窓に閉じ込められている。

 そこはちょっと不思議な街だった。西岸良平さん(漫画『三丁目の夕日』で有名な方)の描く世界に砂鉄を撒いて、下から磁力で重力を歪めたみたいに磁場がぐにゅぐにゅ蠢いて。  そこは記憶の世界。  記憶への旅。  思い出はひとつひとつが独立していて、それぞれの小部屋に収まっていると思ってた。でもそんなことはなくて、ある記憶は殻を破って大きくなっていたし、いくつかの記憶はミキサーにかけたみたいに砕かれ混ざって溶け合って、美味しくなっていた。苦いのもあった。  ユングだったら、それは至

しないことをする旅。

 いつの頃からか、しないことをする旅が増えた。雑踏を避け、空気の伸びやかさと清冽さを心の…

お次。

 深大寺に行く。十割蕎麦と蕎麦の洋菓子目当てに電車とバスを乗り継ぐ。植物園を経由すること…

大人の英断。

 名も顔も知らぬ彼が言う。「時代が変わってしまったんだよ」と。  買えば済む時代が、モノ…

おいしかったぁ。

 何度も何度も、そしてまた繰り返し何度も断ったのに、「お願いしますよ」の波状攻撃に、つい…

ありがとさん。

 村上春樹氏の新作をひとブロック読んではひと休み。700ページに迫る重量級の大作を書き上げ…

以心伝心。

 君が遠くにいるみたいだ。こんなに近くにいるのに、心が離れている。  だけど。  ふれあ…

『芸は身を助ける』の考究。

 経験は森林の奥地に佇む湖の底に積もる澱のようなものだ。撹拌すれば舞い上がり、心を乱す。しばらくすれば沈殿し、あてのない約束をするみたいにして儚い透明度を哀れに見守る。澄んでいるだけではない。濁っているだけでもない。共に在り、共に拒み合う。 『芸は身を助ける』ほど現代は稼ぐのに安易ではなくなった。大道芸人は路上パフォーマンスするのにも申請を要しかしこまってしまったし、玉簾を披露する宴会に誘えばパワハラだと拒否られる。芸は身を助けるどころか、身を削られるか滅ぼす種になってしま