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魔法少女の系譜、その137~『コメットさん』(大場久美子版)~


 今回は、前回に続き、大場久美子さん主演の『コメットさん』を取り上げます。
 この作品は、九重佑三子さん主演の『コメットさん』のリメイクですね。大場版『コメットさん』は、九重版『コメットさん』と、大筋で同じです。

 第一回で、宇宙の別の星から、地球へ、コメットさんがやってきます。周囲の人々を助けたり、騒動を起こしたりしながら、コメットさんは、地球人と絆を作ります。最終回で、大切な思い出をお土産に、コメットさんは、故郷の星へ帰ります。
 このあらすじは、伝統的な口承文芸にある「異類来訪譚」そのものですね。「人間ではない異類が、異界から人間界にやってきて、一時的に滞在して、災いや福をもたらす。やがて、異類は、異界へ帰る」という物語です。

 九重版『コメットさん』の放映された時代― 一九六〇年代後半―は、テレビは、できて間もないメディアでした。番組作りのお手本になるのは、「テレビ以外のメディア」しか、ありません。そういう中では、伝統的な口承文芸が参考にされるのが、当然です。

 大場版『コメットさん』の放映された時代―一九七〇年代後半―には、すでに、多くのテレビ番組が、伝統的な口承文芸の域を脱していました。『魔法少女の系譜』で紹介した作品に限っても、『ザ・カゲスター』、『5年3組魔法組』、『未来からの挑戦』など、口承文芸の枠をはるかにはみ出した、面白い作品が、いくつも作られています。
 にもかかわらず、伝統的な「異類来訪譚」そのものの大場版『コメットさん』がヒットしました。

 『魔法少女の系譜』シリーズを読んでくださっている方には、この現象は、お馴染みでしょう。娯楽作品の流れの中には、時おり、先祖返り的な作品が現われます。時代遅れとみなされて、ヒットしないこともありますが―『恐竜大戦争アイゼンボーグ』などは、この例だと思います(^^;―、案に相違して、ヒットすることもあります。
 大場版『コメットさん』は、ヒット作品となりました。前作に対するリスペクトを忘れず、変に大筋をいじらず、一定の枠の中で、大場さんの魅力を発揮させたのが良かったのだろうと思います。

 前回に書きましたとおり、大場版『コメットさん』のヒットは、魔法少女ものの中に、「当代人気の少女アイドルを主演させた作品」という流れを生みました。
 これについては、また別項で、取り上げます。

 ここで、大場版『コメットさん』を、八つの視点で、分析してみましょう。

[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?

の、八つの視点ですね。


[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?

 コメットさんが魔法を使えるのは、宇宙人だからです。生まれつき型の魔法少女ですね。


[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?

 大場版のコメットさんは、ぎりぎり、少女と言える年齢です。設定では、学校の卒業試験の一環として、地球に来ているようです。恋愛を何度も経験して、少女から大人へ、成長途上にあることが示されます。
 最終回で、コメットさんは、試験を終えて、故郷の星へ帰ります。故郷では、彼女は「普通の人」ですから、そのまま、普通に成人するでしょう。


[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?

 コメットさんは、変身はしません。


[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?

 コメットさんは、とても有名な魔法道具を持ちます。バトンですね。バトンがないと、彼女は、魔法を使えません。
 かといって、他の人がバトンを持てば、魔法が使えるかと言えば、そうでもありません。コメットさん自身の魔力と、バトンとが揃って、魔法を使うことができます。


[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?

 九重版『コメットさん』には、ベータンというマスコットがいました。日本の魔法少女史上、最も初期のマスコットです。
 大場版『コメットさん』には、ベータンを引き継ぐマスコットは、登場しませんでした。


[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?

 九重版『コメットさん』では、ベータンを呼び出すのに、「チンチロパッパ」という呪文を唱えていました。
 大場版『コメットさん』には、呼び出すマスコットは、登場しません。これにともない、呪文も、登場しません。

 コメットさんは、魔法を使う時に、必ずバトンを使います。この特殊な動作が入るために、「魔法」の特別感が出やすいのですね。わざわざ、呪文を唱えさせる必要がなかったのでしょう。


[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?

 九重版『コメットさん』でも、大場版『コメットさん』でも、ヒロインの魔法は、秘密にされていません。
 特に、大場版『コメットさん』では、ヒロインは宇宙人なのですが、住み込んでいる沢野家では、「ちょっと遠い、外国から来た留学生」のように扱われています。「日本語が上手いけれど、日本の文化には疎い外国人の学生が、ホームステイに来た」みたいな感じです。

 九重版でも、大場版でも、『コメットさん』は、基本的に、コメディです。だから、宇宙人や魔法などの突飛な設定が登場しても、笑って見ていられます。


[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?

 魔法少女は、コメットさん一人です。


 大場版『コメットさん』の世界には、九重版『コメットさん』の世界と同じく、深刻な葛藤や戦闘がありません。素朴で、明るく楽しい魔法少女(魔女っ子)ものです。
 凝った話が登場してきた中に、一つくらい、こういう作品があると、ほっとできるのかも知れませんね。

 大場版『コメットさん』については、ここまでとします。
 次回には、違う作品を取り上げる予定です。



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