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遠野物語をゆく


遠野物語をゆく

 『遠野物語』は、日本の民俗学の金字塔ですね。
 その『遠野物語』の裏方を見せてくれる本です。

 著者の菊池照雄【きくち てるお】さんは、岩手県遠野市、まさに『遠野物語』の現場で、生まれ育った方です。地元の人間でなければ、書けない情報が、この本に詰まっています。

 しかも、菊池さんは、故郷を離れ、東京で高等教育を受けたという経歴をお持ちです。地元情報にどっぷり浸かるとともに、客観的、かつ、学問的な眼で、遠野を見ることができます。
 『遠野物語』のような民俗資料を語るには、これ以上、ふさわしい方はいないでしょう。

 『遠野物語』に関する本は、多いですね。
 それらの中で、本書は、抜きんでた存在だと思います。主に、前記の理由によります。
 もう一つ、本書には、他書にない貴重な写真が多いです。昔の遠野や、そこに生きた人々を写したものです。

 菊池さんには、『山深き遠野の里の物語せよ』という著書もあります。こちらも、お勧めです(^^)

 本書を読めば、『遠野物語』が、どのような風土から生まれてきたのか、わかります。
 昔の遠野の生活は、たいへん厳しいものでした。そういう生活の中から、「姥捨て」のデンデラ野の伝説などが生まれたわけです。

 現代日本の私たちにとって、『遠野物語』の世界は、異世界ですね。「河童や座敷童子が実在する」と感じられる人は、ほとんど、いないでしょう。
 けれども、『遠野物語』が語られた時代には、それは、生々しい手ざわりがあるものでした。そう感じることができます。

 以下に、本書の目次を書いておきますね。

遠野への序章――遠野は民俗学の高天原
            柳田国男の遠野への道

遠野の空と山――煙一つ見えない山脈
            氷河期の残丘への信仰
            北上山地の回廊・遠野
            異相の盆地、トオヌップ
            笛吹峠から五輪【ごりん】峠まで
            高冷のきびしい寒さ長い冬

遠野に生きる――凶作と餓死との闘い
           老人を捨てたデンデラ野
           北上山地最大の宿場町
           山のなかの小京都
           話の運搬者・駄賃づけ
           女馬子【おんなまご】の唄
           馬に埋まった遠野の盆地
           遠野の財布は馬でもつ
           馬っこ育てた南部の曲家【まがりや】
           山の怪異を枕に
           金山に魅せられた人びと
           小松長者の伝説に埋もれて
           広漠たる山地の炭焼く煙

村の昔話・世間話――炉ばたの聖と俗
              小さな村の女の一生
              ひょうはくきりの男たち
              旅芸人の通る村
              好奇心の波紋
              村落共同体の共同幻想
              山男・山女に会った人
              キツネに化かされる
              猿ヶ石川の河童たち

物語の源流をたずねて――早池峰【はやちね】の山岳信仰
                 村人の心の支え・山伏とイタコ(巫女)

笛や太鼓の響く里――民俗芸能の宝庫
               神楽【かぐら】の感染呪術
               鹿子【しし】踊りに狂う
               吹雪のなかの田植踊り

遠野の四季と祭り――雪の下の年取り
              小正月のオシラあそび
              山焼き――壮絶な火の壁
              稲を産み出す男女の神々
              盆だ盆だと待つのが盆よ 盆がすぎれば夢のよう
              豪壮でさびしい八幡【はちまん】祭り
              ザシキワラシの秋の夕ぐれ
              隠し念仏の夜

遠野の人――伊能嘉矩【いのう かのり】、台湾人類学の先駆者
         佐々木喜善【ささき きぜん】『遠野物語』の話者

終章―――虚と実と――遠野幻像の世界

遠野の歴史年表
遠野の民俗学研究年表
遠野民俗学マップ
あとがき



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