見出し画像

毘沙門天像の誕生―シルクロードの東西文化交流


毘沙門天像の誕生―シルクロードの東西文化交流

 仏教に登場する神さま、毘沙門天【びしゃもんてん】の姿について、追求した本です。
 この分野では、一般向けの類書は、無きに等しいです。そのため、他に類を見ない面白さがあります(^^)

 毘沙門天は、謎が多い神さまです。
 なぜ、毘沙門天には、多聞天【たもんてん】という別名があるのでしょうか?
 なぜ、四天王のうちから、毘沙門天に対する信仰ばかりが、盛んになったのでしょうか?
 なぜ、日本には、他国で見られない兜跋毘沙門天【とばつびしゃもんてん】といわれる毘沙門天の姿があるのでしょうか?

 これらの疑問に、この本は、答えてくれます。

 さらに、根本的な問題があります。
 毘沙門天の起源は、どこにあるのでしょう?
 この場合の「どこ」には、「地域」と、「どの宗教の、何という神さま」と、二つの意味があります。

 仏教に登場する神さまは、多く、バラモン教に起源があります。バラモン教は、古代インドの土着宗教です。
 例えば、帝釈天【たいしゃくてん】の場合。
 バラモン教の神インドラIndraが、仏教に入って、帝釈天になりました。インドラの図像は、仏教の故郷インドに、たくさん残されています。

 ところが、はっきり「毘沙門天」とわかる図像は、インドには、ほとんど残っていません。
 毘沙門天という神さまが、バラモン教起源なのかどうか、怪しいとされてきました。

 この起源の問題についても、本書は、答えてくれます(^^)

 少しだけ、ネタばれしてしまいましょう。
 毘沙門天は、バラモン教と、まったく関係がないわけではありません。けれども、バラモン教だけに由来するのではありません。
 ギリシア・ローマ神話や、ゾロアスター教、そして、中央アジアの土着宗教など、さまざまな宗教のさまざまな神さまが混淆したのが、毘沙門天です。

 毘沙門天は、文明の十字路の産物です。
 仏教に興味がある方はもちろん、ギリシア・ローマ神話に興味がある方、ゾロアスター教に興味がある方、シルクロードの文化に興味がある方などは、楽しく本書を読めるでしょう。

 以下に、本書の目次を書いておきますね。

なぜ毘沙門天なのか
 毘沙門天の複雑さ
 毘沙門天像と兜跋【とばつ】毘沙門天像
 ホータンの重要性と限界

古代インド・ガンダーラの四天王像と毘沙門天像
 四方位と仏教
 四天王奉鉢【してんのうぼうばち】
 毘沙門天の出現

ファッロー神・ヘルメース神・メルクリウス神像
 クシャン族のファッロー神の図像
 ゾロアスター教との関係
 ギリシア・ローマ図像の特色
 象徴的意味

毘沙門天像の発見  出家踰城【しゅっけゆじょう】図浮彫り
 武人像の問題
 魔王マーラ説の間違い
 帝釈天説の間違い
 仏典の毘沙門天・帝釈天・梵天
 武装した道案内人
 毘沙門天像の確認

光と闇の造形  出家踰城【しゅっけゆじょう】図浮彫り
 夜の女神像
 騎馬のシッダールタ太子の正面観
 毘沙門天の弓矢の意味

多聞天という別称について
 別称多聞天説への疑問
 言語学からみた多聞天
 ガンダーラは中央アジアの一角

あとがき



この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?