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魔法少女の系譜、その80~『まぼろしのペンフレンド』と口承文芸の続き~


 今回も、前回に続いて、『まぼろしのペンフレンド』を取り上げます。

 『まぼろしのペンフレンド』のヒロインの一人、本郷令子は、アンドロイドです。前回、女性型のアンドロイドの歴史について、ざっと紹介しました。女性型アンドロイドは、登場したての頃から、「ヒトを愛し、ヒトに愛される者」とされてきました。令子は、この伝統を、しっかり受け継いでいます。

 しかし、アンドロイド=人造人間には、もう一つの伝統があります。「ヒトに反抗する者」という伝統です。
 この方面で有名な作品は、『フランケンシュタイン』ですね。この作品には、アンドロイドという言葉は登場しませんが、「フランケンシュタインの怪物」は、アンドロイドと言えます。
 フランケンシュタインの怪物は、自意識を持つようになり、自分は何者かと悩みます。やがて、自分の創造主であるヴィクター・フランケンシュタインを憎むようになり、復讐のため、ヴィクターの妻や友人を殺害します。ヴィクターは、怪物を追いかけて北極圏まで行き、そこで衰弱して死にます。

 『フランケンシュタイン』は、メアリ・シェリー作の創作物語です。この作品以前にも、口承文芸の中に、同テーマのものがありました。

 例えば、ユダヤ教の伝承にある「ゴーレム」がそうです。ゴーレムは、土で作られた人形です。ユダヤ教の秘法により、命を吹き込まれて、動きます。
 さまざまな用途を果たすために作られますが、時間が経つと凶暴化するため、ある程度使ったら、魔法を解かなくてはなりません。それ以外にも、禁忌が多く、扱いの難しい人造人間=アンドロイドです。

 口承文芸では、「ゴーレムの制御がきかなくなり、創造主の人間が困る」という展開が、お約束です。多くの口承文芸では、最後には、ゴーレムの魔法が解かれて、ゴーレムは土に戻ります。その時、創造主の人間のほうにも、何らかの手落ちがあって、一緒に滅びることがあります。

 このように、「ヒトが作った人造人間=アンドロイド」は、「ヒトに反抗するものだ」という概念が、根強くあります。『まぼろしのペンフレンド』の令子は、こちらの伝統も、受け継いでいます。

 令子は、地球を侵略するムキセイメイ(無機生命)の手先として、作られました。人類から見れば、明確に、敵です。けれども、人類の中に紛れこめるように、姿は、人間にそっくりです。
 令子は、使命を果たすために、主人公の明彦たちを監禁します。彼女は、ここまでは、ムキセイメイに忠実です。人間にそっくりなのに、人間を滅ぼそうとする、恐ろしいアンドロイドです。
 ところが、彼女は、人間である明彦を愛するようになります。このために、ムキセイメイに逆らい、明彦を逃がします。ムキセイメイからすれば、「創造主に反抗するアンドロイド」ですね。
 二重の意味で、令子は、「反抗するアンドロイド」です。

 令子は、「ヒトを愛し、愛されるアンドロイド」であり、「反抗するアンドロイド」です。この二つの伝統が、見事に、矛盾なく、合わさっています。
 『まぼろしのペンフレンド』は、この点でも、優れた作品です(^^) 口承文芸からの伝統を受け継ぎつつ、宇宙からの侵略者や、ハーレムといった新しい要素も合わせ、新鮮で、素晴らしい娯楽作品になっています。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『まぼろしのペンフレンド』を取り上げます。



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