魔法少女の系譜、その117~『恐竜大戦争アイゼンボーグ』が放映された時代とは~
今回も、前回に続き、『恐竜大戦争アイゼンボーグ』を取り上げます。
『アイゼンボーグ』を見たことがなく、この『魔法少女の系譜』シリーズで、『アイゼンボーグ』を知った方には、わかりにくいことと思いますが。
三十九話まで続いたにもかかわらず、『アイゼンボーグ』は、あまり人気のない作品でした(^^; リアルタイムで『アイゼンボーグ』を見ていた人たちに聞きますと、積極的に面白いと思って見ていた人は、少ないです。「一種のネタとして見ていた」とか、「暇だから見ていた」という人が多いです。だいたい、皆さん、「面白かった」ではなくて、「変な番組だったねえ」とおっしゃいます(^^;;
そこまでネタ扱いされたのは、なぜでしょうか?
一般的によく言われるのは、「特撮とアニメの合成が変だった」ですが、これは、反証がありますね。同じように特撮・アニメ合成の『恐竜探検隊ボーンフリー』は、評価が高かったからです。『ボーンフリー』は、人気ではなく、予算の関係で、二十五話で終わってしまいました。
以前、私が書きましたとおり、事実上の前番組である『ボーンフリー』と比べられて、特撮の質が落ちたから、というのが、人気が振るわなかった理由の一つです。
もう一つの理由は、『ボーンフリー』で助けていた恐竜が、悪役になってしまったのが(視聴者的に)許せない、というものです。これも、以前、私が書きましたね。
この二つ以外にも、人気が出なかった大きな原因と考えられることがあります。
『アイゼンボーグ』後半のアイゼンボーが登場する展開が、当時としては、時代遅れだった、というものです。
『アイゼンボーグ』放映から、四十年以上も経ってしまった現在では、ぴんと来る人が少ないでしょう。放映当時―昭和五十二年(一九七七年)から昭和五十三年(一九七八年)―には、「巨大な正義の超人が、同じく巨大な悪の怪獣と戦う」という物語のフォーマットが、古かったのです。
以下に、解説しますね。ちょっと長くなりますが、お付き合い下さい。
「巨大な正義の超人が、同じく巨大な悪の怪獣と戦う」物語のフォーマットを確立したのは、言うまでもなく、『ウルトラマン』です。『ウルトラマン』が放映されたのは、昭和四十一年(一九六六年)から昭和四十二年(一九六七年)でした。放映が開始されるや、たちまち大人気となりました。
このために、『ウルトラマン』の後も、『ウルトラセブン』、『帰ってきたウルトラマン』、『ウルトラマンA【エース】』、『ウルトラマンタロウ』、『ウルトラマンレオ』と、ウルトラシリーズが長く続きます。どの作品も、「巨大な正義の超人が、同じく巨大な悪の怪獣と戦う」物語のフォーマットが、まったく同じです。
ウルトラシリーズに触発されて、同じフォーマットの他番組も、雨後のタケノコのように生まれました。
例えば、『ウルトラマンA』が放映されていた昭和四十七年(一九七二年)には、同フォーマットの番組が、『アイアンキング』、『シルバー仮面』、『スペクトルマン』、『ミラーマン』と、四つも放映されました。『シルバー仮面』だけは、前半が等身大のヒーローだったのが、後半に巨大化するようになります。
ところが、そのフォーマットの天下は、そう長くは続きません。昭和四十六年(一九七一年)に『仮面ライダー』の放映が始まると、今度は、そちらが人気爆発します。
『仮面ライダー』は、巨大ヒーローではなくて、等身大のヒーローですね。戦う相手も、巨大な怪獣ではなくて、等身大の怪人です。この「等身大の変身ヒーローが、等身大の怪人と戦う」フォーマットが、「巨大ヒーローと巨大怪獣」フォーマットに代わって、テレビ界を席巻します。
『仮面ライダー』は、好評のあまり、昭和四十六年(一九七一年)から昭和四十八年(一九七三年)まで、足かけ三年も続きます。その後も、『仮面ライダーV3』、『仮面ライダーX』、『仮面ライダーアマゾン』、『仮面ライダーストロンガー』と、仮面ライダーシリーズがつながります。
ウルトラシリーズの「巨大ヒーロー」フォーマットがそうだったように、「等身大の変身ヒーローが、等身大の怪人と戦う」フォーマットも、たくさんの類似番組を生みました。
例えば、初代の『仮面ライダー』が放映中だった昭和四十七年(一九七二年)には、『愛の戦士レインボーマン』、『快傑ライオン丸』、『人造人間キカイダー』、『超人バロム・1』、『突撃!ヒューマン!!』、『トリプルファイター』、『変身忍者 嵐』と、同フォーマットの番組が、七つもありました。前半には巨大化しなかった『シルバー仮面』を入れると、八つです。
気がつかれたでしょうか? 『ウルトラマンA』と、初代の『仮面ライダー』とは、同じ年に放映されていました。
この昭和四十七年(一九七二年)という年は、「巨大ヒーロー」と「等身大のヒーロー」との激しいせめぎ合いの年でした。巨大ヒーローは、この後、どんどん下火になります。
しかし、「等身大の変身ヒーローが、等身大の怪人と戦う」フォーマットも、いつまでも天下だったわけではありません。初代の『仮面ライダー』が放映中だった昭和四十七年(一九七二年)のうちに、早くも、次のブームを牽引する作品が現われました。
『マジンガーZ』です。
『マジンガーZ』により、日本のアニメ界に、「巨大ロボットもの」というジャンルが築かれました。この功績の大きさは、今さら、私がここに書くまでもないでしょう。
「巨大ロボットもの」とは、正義の超人ではなく、(多少鍛えてはいるものの)普通の人間が、超科学的な巨大ロボットに乗って、(多くの場合は巨大な)敵と戦う話ですね。この「普通の人間が、巨大ロボットに乗って、敵と戦う」フォーマットも、アニメ界で、いっぱい真似されました。
『マジンガーZ』の後には、直接の続編として、『グレートマジンガー』が放映されます。その後にも、『UFOロボ グレンダイザー』が続きます。
『グレンダイザー』は、昭和五十年(一九七五年)から昭和五十二年(一九七七年)にかけて、全七十四話も放映されました。
ここで、思い出して下さい。『アイゼンボーグ』の放映も、昭和五十二年(一九七七年)に始まりましたね?
ただし、『グレンダイザー』の放映は二月で終了し、『アイゼンボーグ』の放映は十月から開始でしたので、直接、放映期間がかぶることはありませんでした。
『アイゼンボーグ』と『グレンダイザー』とが放映された昭和五十二年(一九七七年)に、どれだけの「巨大ロボットもの」アニメが放映されていたのか、見てみましょう。
『合身戦隊メカンダーロボ』、『超合体魔術ロボ ギンガイザー』、『超人戦隊バラタック』、『超電磁ロボ コン・バトラーV【ブイ】』、『超電磁マシーン ボルテスV【ファイブ】』、『惑星ロボ ダンガードA【エース】』、これに加えて、『グレンダイザー』です。七つもの「巨大ロボットもの」アニメが競演していました。まさに、巨大ロボット花盛りの時代です。
ところが、ところが。
アニメ界で「巨大ロボットもの」がブイブイ言わせている時に、特撮界から、反撃が来ました。『秘密戦隊ゴレンジャー』の放映開始です。昭和五十年(一九七五年)のことですね。
『ゴレンジャー』の放映が開始されると、すぐに大人気になりました。「等身大のヒーローが、一人ではなく、チームを組んで、(等身大の怪人がいる)悪の組織と戦う」というフォーマットが、受けました。二〇二〇年現在まで続く、「戦隊もの」の始まりです(^^)
人気のため、『ゴレンジャー』も、昭和五十年(一九七五年)から、昭和五十二年(一九七七年)まで、放映が続きました。
昭和五十二年(一九七七年)に放映されていた特撮作品で、「等身大の正義のヒーローが、チームを組んで戦う」作品を、挙げてみましょう。
『宇宙鉄人キョーダイン』、『円盤戦争バンキッド』、『超神ビビューン』、『忍者キャプター』、『バトルホーク』、『ジャッカー電撃隊』、これに加えて、『ゴレンジャー』です。『ジャッカー電撃隊』は、直接、『ゴレンジャー』の後を継ぐ番組でした。東映のスーパー戦隊シリーズの第二作ですね。
こちらも、七つの作品があります。巨大ロボットものと同じ数ですね。
昭和五十二年(一九七七年)は、子供向け娯楽番組として、巨大ロボットものアニメと、等身大ヒーローのチーム特撮作品とが、がっぷり四つに組んでいた時代でした(^^)
ここで注目すべきは、昭和五十二年(一九七七年)の特撮作品の中に、ウルトラシリーズと仮面ライダーシリーズとがないことです。
あんなに人気があったのに、この年には、ウルトラシリーズも仮面ライダーシリーズも、人気が落ちて、シリーズが途切れていました。盛者必衰ですね……。
二〇二〇年現在もそうですが、娯楽の世界は、流行の移り変わりが速いです。二、三年で、流れが変わってしまいます。
まとめてみますと、「巨大ヒーローもの」→「単独の等身大ヒーローもの」→「巨大ロボットもの」→「等身大ヒーローのチームもの」と移り変わってきたことになります。巨大ロボットものと、等身大ヒーローのチームものとは、ほぼ同時期に栄えたと言えますが。
さて、ここで『アイゼンボーグ』です。巨大ロボットものアニメと、等身大ヒーローのチーム特撮作品とが激突しているさなかに、『ウルトラマン』のフォーマット作品が現われたわけです。
時代から一周遅れどころか、二周半遅れなのが、わかっていただけるでしょう。放映当時の子供たちの感覚では、『ウルトラマン』的巨大ヒーローは、すでに、ダサかったのです(^^;
一応、主人公二人をサイボーグにして、ヒロインのほうをメカと合体させたりして、「巨大ロボットもの」的要素も取り入れてはいます。D戦隊という戦隊も出して、「等身大ヒーローのチーム」の要素も入れています。
それにしても、特撮で、アイゼンボーを出した瞬間に、「あー、これ、『ウルトラマン』だ」と思われてしまいます。しかも、敵が、「じつは宇宙人でした」ですからね。ウルトラシリーズで、やり尽くされたパターンです。
小説でも映画でもそうですが、娯楽作品の展開の鉄則は、「受け手の予想は裏切って、期待は裏切らないこと」といわれますね。
前半の『アイゼンボーグ』は、「男女ダブル主人公」、「主人公が二人ともサイボーグ」、「チームで戦うが、二人の主人公以外はサイボーグではない」、「ヒロインのほうがメカと合体する」など、それなりに新しい要素を入れて、がんばっていると見えました。
これが、まさか後半で「巨大ヒーローもの」になるなんて、視聴者は、誰も予想しなかったでしょう。期待もしなかったはずです。
「受け手の予想を裏切ったはいいけれど、期待も裏切って」しまいました(^^;
そんなわけで、『アイゼンボーグ』は、「途中で迷走した、変な番組」、「ダサい」という印象が強くなったのでしょう。ジャンル分けが難しい作品であることもあり、二〇二〇年現在に至るまで、イロモノ扱いされることが多いです。
イロモノかも知れませんが、「男女ダブル主人公で、ヒーローと対等以上の能力を持ち、最後まで、ヒーローとともに戦うヒロイン」というキャラクターを作り出したことは、評価したいです(^^)
昭和五十二年(一九七七年)当時には、ヒロインの立花愛は、「魔女っ子」ではないと見なされました。当時の「魔女っ子」には、「変身して、男性と同様に戦う」という要素が、なかったからです。
二〇二〇年現在に見れば、立花愛は、魔法少女の一種と言えますね。現在では、変身して戦う魔法少女が、普通になったからです。
とはいえ、『アイゼンボーグ』という作品は、二〇二〇年現在に見ても、「魔法少女もの」とは言いがたいです。前に書きましたとおり、この作品では、あくまで、立花善と立花愛とが、二人揃っての主人公だからです。
放映当時に、『アイゼンボーグ』をジャンル分けしたなら、変則的ながらも、「変身ヒーローもの」としか、言いようがなかったでしょう。現在なら、「変身ヒーロー/ヒロインもの」と言えます。
今回は、ここまでとします。
次回は、『アイゼンボーグ』とは別の作品を取り上げる予定です。
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