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【小説】肥後の琵琶師とうさぎ8
ーー産山の神様がお待ちかねです。早く戻ってきてください……。
仔うさぎたちからの文を読んだトビキチは、すぐに返事を書いた。文は、雁が届けてくれる。
「頼んだぞ」
雁が飛び立った。その姿が点になり、見えなくなったところで、後ろから琵琶の音がただよってきた。振り向くと、盲目が立っていた。
「今のは……」
盲目の問い。撥が流れる。
盲目の目は、点になって消えた雁を、あの手紙を見据えたように、弦
【小説】肥後の琵琶師とうさぎ7
不器用な娘、でも琵琶の腕だけはいい娘。琵琶を教えた帰りには、必ずと言っていいほど野菜だったり、魚だったりを土産に渡してきた。
ーー失敗しちゃったから。
娘は、飯の仕度も苦手だった。野菜を切れば、大きすぎたり小さすぎたり。魚をおろせば、すり身のようにしてしまったり。そんなものだが、盲目の私にとってはありがたかった。小さな野菜はトビキチの飯になるし、すり身の魚はだんごにして汁物に。切る手間がない