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【小説】肥後の琵琶師とうさぎ14

「私が見ていたのは夢だったのか?」
 私の質問に、毛玉はため息まじりに答える。
「いや、夢を見ていたのは娘の方だ」
 ーー娘の夢?
 私は、いまいち現実味のない現状に困惑し、毛玉と景色とを見比べるしかなかった。
「娘が望んだ夢を、お前と俺が見た。娘は、哀れな琵琶師を救いたかった」
「娘が私を?」
「そうだ。娘は、見目は娘だが、お前の母だった」
 ーー私の母……。
「職を、食事を施されただろう」
 ーー救ったつもりが。
「一人前に働く息子を見たかったようだ」
 ーー救われたか。
「俺も、産山の神様に許され、仔うさぎたちが満腹で生き延びた夢を見た。これも仔うさぎたちの見た夢だ」
「私とお前は、家族に愛されてたんだな……」
「……そうだな」
「どういう巡り合わせか知らんが、黄泉地とやらでお前と出会えたのは……」
 風が草原を揺らし、花の香りが巻き上がった。毛玉が跳ねた。私の言葉を遮るように。
「来世では世話かけんなよ」
 私は笑って頷いた。
 何だ。私は来世でも毛玉に悪態つかれるのか。

ダイコクさんとトビキチの前には、語り終えた肥後の琵琶師がゆっくりと茶をすすっていた。
 なんだか既視感のある話だったな。ダイコクさんはそう思ってトビキチの方を見た。
 トビキチは茶菓子をほおばっていた。何だ、と一瞥された。
 湯飲みを置いた琵琶師が一言。
「相変わらずでなにより」

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