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推し活翻訳16冊目。In the Shadow of the Wolf Queen、勝手に邦題「ウルフクイーンの影に抱かれて」

原題:Geomancer Book 1 In the Shadow of the Wolf Queen
原作者:Kiran Millwood Hargrave
勝手に邦題:大地の魔法シリーズ 第1巻 ウルフクイーンの影に抱かれて
 
概要と感想
  
こわれた船で築いた城で、ウルフクイーンが槍を研ぐ。
かつては砦だった一族の屋敷に、賊軍の長が妻を葬る。
山々のあいまで、いにしえの少女が蜘蛛の巣がかかった片目をひらく。
大地の調べはもう始まっている。さあ、備えよ。
 
イソルダは、姉ハリの琥珀のお守りをこっそり持ちだして、その力を借り、〈雨の森〉で〈老ハンノキ〉の声を聴こうと集中しています。村の人々の中には、ダウジングで水脈を見つけたり、においで鉱脈を探しだしたりできる人たちもいますが、いちばん尊敬を集めるのは、樹々の声を聴く聴き手です。
 
けれどイソルダには、これといった能力がありません。樹々の声を聴くどころか、老ハンノキに刻まれたオガム文字さえ、生まれながらに読めたハリとは違って、あとから覚えたものです。特技といえるのは、想像力を働かせて「お話」を作ることですが、「それは噓っていうのよ」とハリに言われるくらい、ちょっと盛ってしまうことがあります。
 
ハリが気づく前にお守りをもどさなくては、と思ったそのとき、ヒナのころから育てている海鷲のナーラが、罠にかかって運び去られます。鳴き声をたよりに夢中で追いかけるうち、イソルダは雨の森の底なし沼のひとつにはまってしまいます。
 
このピンチを救ったのは、ナーラを奪った張本人。赤いマントを着て、長い槍を持った不敵な面構えの女の子でした。でも、マントも槍も盗品のようで見るからにうさんくさい。イソルダは、言い争いの末、ナーラをとり返し、家路を急ぎます。
 
イソルダの村は、二十年前の大地震でできた〈裂け目〉と呼ばれる深い谷のふちに張りつくように広がっていて、訪れる人もあまりない辺鄙な場所。その丘の頂上のわが家を目指すイソルダは、村のようすがいつもと違うことに気づきます。〈湖郷〉の悪名高い騎馬戦士ライダーズたちが村に現れたのです。イソルダは、ハリに危険を知らせようと岩壁をよじ登る近道で家に向かいます。
 
ところが、そこで巨大地震が襲います。命からがら家にたどり着いたものの、ハリは、地震でくずれた深い深い谷底に、家ごとのみこまれてしまっていました。そして、ぼう然自失のイソルダの前に、再び、あの赤いマントの女の子が現れます。
 
女の子は、ライダーズがウルフクイーンの命令でハリをさらったと告げ、クイーンの目的が〈アンコライト〉を探しだして、〈大地の魔法〉を手に入れることだと話します。
 
いにしえの少女アンコライトの居場所は、雨の森の住人ならだれでも知っています。島しょ国の北のはずれ、潮が引いたときだけ渡れる道を渡った先の〈この世の果ての森〉にいると、子どものころから、おとぎ話でずっと聞かされてきたのですから。
 
けれど、ウルフクイーンは、アンコライトが実在すると信じているようです。そして、この怪しい女の子は、二人でウルフクイーンを出しぬいて、先にアンコライトを見つけようと、イソルダを言葉巧みに誘います。
 
ナーラを盗もうとした相手など信用できませんし、物知り顔の態度も気に入りません。イソルダは、自力でハリを追おうと谷をくだり、雨の森を離れる前に老ハンノキに別れを告げようとして、琥珀のお守りがなくなっていることに気づきます。あいつだ、あいつに決まってる…。
 
ハリと琥珀のお守りを取りもどす、イソルダの危険な旅が始まります。
 
             ☆   ★   ☆
 
ハーグレイブさんの児童書最新作「大地の魔法シリーズ」は三部作で本書が一作目。一話読み切りではなく、こ…ここで終わるの…という作りなのですが、8月末には2巻目が出るので、そろそろ紹介してもよいかな?
 
舞台はイギリスで、雨の森はスノードン山麓の多雨林、湖郷は湖水地方、この先出てくるカルティの森はスコットランドの針葉樹林がベースになっています。また、アルファベットに樹木の名前がついた神秘的なオガム文字が登場するので、時代は5世紀ごろかと。
 
舞台も人物もかなり作りこまれていて、一つひとつのシーンが、これまでにもまして鮮やかに浮かび上がりますし、ちょっと癖がある魅力的な女子キャラがたくさん登場して、ぐいぐい読み進められる冒険譚です。海鷹のナーラやウルフクイーンが飼いならす巨大なオオカミたちなど動物キャラの活躍も見逃せません。
 
イソルダの盛りがちな「お話」が、この先、物語を動かしていきます。手に汗にぎる緊張感と神秘的な世界観をお楽しみください。

樹々がオオカミ、目元は海鷲のナーラ
〈老ハンノキ〉〈壊れた船の城〉〈この世の果ての森〉あたりに印をつけてみました。なんという移動距離!と思いますが、ここからノルウェーに向かって海を渡ります。
背表紙も素敵

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