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桜と麦と君

この季節になるといつも思い出すんだ。
桜が見事に咲き始め、その下で美味しそうにビールを飲む君を。
主役は桜のはずなのに、目に映るのは君ばかり。
素直にそれを伝えるたら
「何言ってんの」と鼻で笑い、また軽快にビールを飲み始めた。

やっぱり僕は、君が大好きなんだ。


出会いは会社のお花見会。
正直乗り気じゃなかった。
休日に会社の人に会うなんて信じられない。
ネトフリで昨日更新された新作エピソードを見たいし、
人と飲むより1人でぐーたらしながら見る方が何百倍も楽しいのに。

ただ普段お世話になってる上司の誘いを断れるほど意思のある男ではない。
頼りないやつだと姉にバカにされるのはこういうところなのか。
とにかく行きますと言った以上、行くしかない。


設営を任された為、集合時間の1時間前に着いた。
場所取りは経理の女性がいるとかなんとか。
上司経由で連絡をもらい、場所へと向かう。

普段関わりはないが、社内で見たことある女性が2人立っていた。
軽い挨拶を済まし準備に取り掛かろうとした時
「今日はたくさん飲みましょうね!」
若干お酒の匂いを漂わせながら、ビール片手に虚な目をした女性が現れた。
どうやらもう1人いたのだが、集合前から飲み始めていたらしい。
他の2人から「始まる前からそんなに飲んでー」と声が飛ぶ。
まぁ飲み会なんてこんな酔っ払いがいた方が
(しかも女性なら尚更、上司の機嫌も良くなるし)
楽しいし都合いいよな、と他人事のように考えていた。


準備中もわちゃわちゃと飲み続ける彼女に
もはや関心さえしながら時間内に設営が終わり、
時間になると20人程度の大宴会が始まった。
上司の方々にお酌して周り時間を潰した後は
影でひっそりと時間が過ぎるのを待つつもりだ。
1時間も過ぎればみんな上機嫌になり、例の彼女も絶好調な様子だった。


しかしそこから30分も経つ頃には彼女はペースダウンし、
僕の隣でちびちびビールを飲み始める。
「飲みすぎましたぁぁ」
そりゃ準備中から飲んでいればそうなるよ。
とはいえ潰れられても後々困ることは明白なので、
水を用意し彼女に差し出す。

キョトンとした目でこちらを見つめ
「優しいんですねぇ、さっきはお酒しか渡されませんでしたぁ」
そう言い笑顔で水を受け取ると一気に飲み干し、僕の肩にもたれてきた。
疲れも酔いもピークらしくそのまま寝始めてしまった。

15分もするとハッと目を覚まし
「すみません、飲みすぎて、、」
さっきまでの威勢は面白いくらい無くなり急にお淑やかになった。
その姿に出会って間もないがギャップを感じてしまった。
しかも久々に感じる恋心のような。

珍しく自分から話しかけ、
彼女と話したいと無意識のうちに思っていた。
部署の話、僕と同期だったこと、休みの日の話。
ありふれた会話だけど楽しかった。
そして彼女はまたビールを飲み始める。
なんでだろう。
桜よりも彼女の方が。
思わず口に出すと、鼻で笑われた。


一昨年の春をふと思い出していた。
そして去年の春は付き合ってから始めて2人でお花見をしたんだ。
主役の桜より君に目がいってしまうよと言ったら
「何言ってんの」と鼻で笑われた。


今年は夫婦として初めてのお花見。
やっぱり僕の目に映るのは桜じゃなく君ばかり。
これからもずっとそれは変わらない。


この季節が来るたびに思い出すんだろう。
そしてもっとたくさんの思い出が増えるんだろう。


大好きな君と、また来年も桜を観れますように。


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