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『LFG-モノ言うチャンピオンたち-』を鑑賞したら共感の嵐だった

サッカーと映画を愛する皆さん、はじめまして!

今回は『LFG-モノ言うチャンピオンたち-』という映画を紹介させてください。

オリンピック優勝4回、ワールドカップ優勝4回。輝かしい実績を残してきたアメリカ女子サッカー代表チーム。しかし彼女らの待遇は男子選手と比較して極めて劣悪なものであった。

そんな中、2019年に行われたワールドカップに選ばれた28名の代表選手たちが、大会を前にした3月8日の国際女性デーに雇用主である米サッカー連盟へ賃金平等(イコール・ペイ)を求めた訴えを起こした。

この映画はピッチ外で差別と闘い続ける選手たちの声を丁寧に取材したドキュメンタリーだ。ジェンダー平等などのイシューに関心のある方はもちろん、これまであまり関心を持ってこなかった方にも是非ご覧いただきたい。

マイノリティの問題は万国共通?

ぼくはLGBTQ+の当事者だ。当事者として地元の埼玉県を中心に同性婚の法制化やパートナーシップ制度の導入などを求めるアクションを行っている。

なぜ同性婚やパートナーシップ制度の導入を求めるのか。それは性自認や性的指向を理由にマジョリティの方々と同等の権利を得られないことは国や自治体による差別であると考えているからだ。

アメリカのサッカー界もまさにジェンダーを理由に同等の待遇が得られていない現状があり、それを是正しようと闘う選手たちの声を取り上げたのがこの映画。極東の地方都市で活動するぼくにとっても他人事とは思えないエピソードがたくさん出てきた。

「多くの人が賛同してくれているのに、国の偉い人たちが遅々として動かない。それどころか差別にお墨付きを与えるような発言まで飛び出す」
「当事者が自分で立ち上がったとは考えず、誰かが扇動していると思い込む」
「与えられたものに感謝すべきであって求めてはいけないという洗脳」

我が国でもLGBT理解増進法が議論の対象になっているが、性的マイノリティの人権を守るための法律がいつの間にかマジョリティに配慮するような内容に変質してしまった。この映画で選手たちが語った言葉の数々はおよそ他人事とは思えない。マイノリティの権利獲得を巡る問題は万国共通のものがあるのだろうか。

タイトルナインのあるアメリカ

とは言うものの、恥ずかしながらぼくはこの映画を見るまでアメリカの女子サッカーがそのような状況に置かれていたことを知らなかった。むしろアメリカは女子アスリートの環境が最も恵まれた国だとすら思っていた。

なぜなら、アメリカには「タイトルナイン」があるからだ。タイトルナインは1972年に制定された法律で、女性の権利を守ることを目的としている。ぼくは日本でも同様の法律をつくるべきだと考え、タイトルナインの成立過程や社会に及ぼした影響について詳しく調査をしたことがある。

すると50年以上前につくられたこの法律がアメリカの女子スポーツ事情を変え、スポーツ界を変え、やがてアメリカ社会のジェンダー意識までをも変えていったという事実にたどり着いた。

タイトルナインの入り口は学校教育の場における男女平等の実現であった。スポーツに参加する機会やサポートを受ける機会が男子に比べて女子は少ないということが分かり、それを均等にしようとしていった結果、アメリカの女子スポーツは他国と比べて極めて高い水準になっていった。

1964年の東京オリンピックで水泳の金メダルを獲得したデバノラという選手によれば、男子選手は奨学金で設備の整った一流大学に進学することができた一方で、女子選手は高校に運動部すらなくクラブチームでの練習を余儀なくされていたそうだ。大学に行けば充実した練習環境が用意されているが学費を払うためには収入を得なければならず、しかしスポンサーと契約してプロになってしまうとアマチュアの大会には一切出られなくなってしまう、という極めて厳しい状況だったようである。

しかし今では日本で言うところの東京六大学、アメリカ東海岸のアイビーリーグはいずれの学校も男女比が50:50になっている。どこかの国の医科大学や都立高校のように調整をかけているわけではない。こうなったきっかけを見ていくと、やはり1972年のタイトルナイン成立なのだ。かつては今の日本と同じく極めて男性に優位だったアメリカの教育現場も、性別に関係なく同じスタートラインに立たせて競争をさせた結果、人口比率と同じ比率に収束していったのだ。

なぜぼくがジェンダー平等にこだわるのか。それはカミングアウトが必要のない社会を切望するからだ。ぼくは今でこそ周囲に自らのセクシュアリティをカミングアウトをして当事者として顔と名前を出してさまざまな活動をしているが、なかなかカミングアウトができずに苦しんだ過去がある。もしジェンダーフリーの社会が実現されればカミングアウトのことで悩む必要もなくなる。しかし一朝一夕にジェンダーフリー社会は実現できない。その第一歩としてまずはジェンダー平等の実現が不可欠なのだ。

マイノリティの連帯が重要

見事2019年のワールドカップで優勝を果たしたアメリカ。優勝パレード後に行われたミーガン・ラピノー選手のスピーチでもイコール・ペイのみならずLGBTQ+への差別について言及があった。マイノリティはその分野においては少数派かもしれないが、人間は皆何かしらの分野においてはマイノリティだ。すべての属性においてマジョリティな人など存在しないし、病気や怪我などでいつマイノリティの立場になるかわからない。だからこそあらゆる分野でマイノリティが横の繋がりを構築し連帯していくことが大事なのだろうとぼくは感じている。

政治家や連盟からの心ない言葉にも負けず闘い続ける選手たち。選手活動と並行しての闘いに新型コロナウイルスも相まって状況は困難を極めたが、2022年にバイデン政権が誕生するとついに世界初となるイコール・ペイが実現された。分厚い壁を破った彼女たちの闘いは、女子サッカー界のみならずさまざまなイシューで闘う世界中のマイノリティにとって大きな希望になったのではないだろうか。

この夏にはFIFA女子ワールドカップ2023が控えている。サポーターの一人として本当に楽しみだが、ただ単に楽しんで消費するだけでなく各国の選手たちが置かれている状況にも思いを馳せたいと感じた。

上映スケジュール

6/17(土) 19:10-21:27
ゲスト:髙田春奈(WEリーグチェア)、能條桃子(NO YOUTH NO JAPAN代表理事/FIFTYS PROJECT代表)、石井和裕(WE Love女子サッカーマガジン主筆)
6/22(木) 20:00-
シネマ・ジャック&ベティにて追っかけ上映

ヨコハマ・フットボール映画祭2023 公式サイト


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